哀愁が綻びる時に
瀕死の感染者
はぁ……はぁ……ゴホッ……
また来たのね……アーミヤ。
アーミヤ
お姉さん、早く来て見てください! 何を描いたか分かりますか?
瀕死の感染者
ハハッ、あなたが隔離室にお絵描きしているのは聞こえていたわ……アーミヤ。
だけど見えないの……昨日から見えないのよ。
アーミヤ
……
いいこと思いついた! 入りますね――
瀕死の感染者
入らないで、いつ崩壊するか――
アーミヤ
大丈夫ですよ。忘れたんですか? 私も感染者です。それに、バベルのお医者さんが近くにいますし、私たちの面倒を見てくれますから。
手を貸してください、描いてあげますね!
小さなコータスはベッドの上の感染者の手をそっと引く――黒い結晶が彼女の体を覆い、その中では源石の美しい色彩が流れている。
感染者にとってこれが何を意味するかをアーミヤは知っていた。それを彼女はとっくの昔に見たことがあった。
彼女の指先が感染者の手のひらを真剣になぞる。
アーミヤ
お姉さん、おうちの人がお姉さんに付けた名前は見たことのないお花のだって言ってましたよね。
ドクターとテレジアさんに聞いたら、その花を探しに連れて行ってくれたのです!
お姉さん、感じますか? 指でお姉さんの手のひらにそのお花を描いたんですよ。
お姉さんの名前はとっても綺麗ですよ!
瀕死の感染者
……
アーミヤ
うぅ、よく分からなかったですか……もう一回描きますね……
瀕死の感染者
子ウサギさん……私が怖くないの?
アーミヤ
えっ、どうして怖いんですか?
瀕死の感染者
……
私たちはバベルに来てからまだ日が浅いけど、アーミヤのことはとても好きよ。
私たちは友達よね……一つお願いを聞いてもらえる? ベルを鳴らして先生を呼んでくれるかしら。
そのお花を見に……いいえ、触りに先生に連れて行ってもらいたいの。
アーミヤ
……私も一緒に行きたいです。
瀕死の感染者
ダメよ、あなただって病気だもの。いい子にしてここにいなきゃ。
アーミヤ
ならお姉さんが戻ってくるのを待っていますね。
感染者は何も言わず、ただアーミヤの頭をなでただけだった。
苦痛を必死に我慢する彼女の表情、そして腕で光る源石をアーミヤは見た。
アーミヤ
……
アーミヤ、あの時のあなたも、ドクターと一緒にバベルへ来たばかりだったわ。
あの日、隔離室の入口に長い間座り込んで、どうしても離れようとしなかったことはまだ覚えている。
黙りこくるあなたを見つけて、ドクターがそばで一緒になって座っていたわね。ドクターに抱きしめられて、ようやく泣きだした。
私もあの時あなたを抱きしめたかったけど、あなたたちの邪魔をしてはいけないと思ったわ。
アーミヤ……あなたは賢い子よ。あの感染者が二度と帰ってこないことを知っていたでしょう。
彼女はあなたに自分が去るところを見せたくなかった。子供にとってあまりに残酷だもの。だけど彼女は知らなかったのね、あなたが彼女の思っている以上に強い子だということを。
私はあなたの優しい目からたくさんのものを見た。あなたは彼らを助けたいと考えて……
種族にかかわらず、感染者かどうかにかかわらず、あなたにとっては彼ら皆が等しく懸命に生きている愛すべき人間だった。
その時から、私は勝手な考えを抱いていた――
もしかしたら……未来のあなたもこの王冠を被れるかもしれない……
もしかしたら、あなたは私よりも遠くへ歩めるかもしれない。
この重荷をすぐにあなたへ渡すつもりはなかったわ。私には、あなたの成長に付き添えるほど時間がたっぷりあると思っていた――
ごめんなさい、アーミヤ、約束を破ってしまって。
アーミヤ
テレジアさんの気配が……消えかけています。
ドクター、ケルシー先生、もう終わったのでしょうか?
ごめんなさい、ドクター。私は……最初の源石に関する手がかりをテレジアさんから何も得られませんでした。
ケルシー
やはり一歩遅かったか。
ドクター、気づいたか。
この塔の果てがまだ見えるか?
アーミヤ
ケルシー先生、私たちが今立っているのは……
ケルシー
恐らく事態はこんな簡単には終わらないだろう。
???
この糸ほんと目障りね――
アーミヤ
Wさんです!
W
子ウサギ、手伝いなさい!
彼女はもうここにいないってあんたたちが言おうと、あたしはこの目で確かめなきゃならないのよ。
ピンクがかった糸は枝のように巨大な白い柱に沿って伸びている。
それらは赤い根の上に落ち、その根を包み、絡みつき……
やがて、この果てが失われた巨塔を完全に覆い尽くすだろう。
W
アーミヤ、あの時の後悔を繰り返したりはしないわよ。
少なくとも今回、あたしは……
アーミヤ
分かっています。
みんな同じです。
アーミヤは白い糸に包まれた根の前へと歩み寄ると、その柔らかいものにそっと触れた。
火の粉がアーミヤのスカートの裾から燃え落ち、彼女の歩いた道に炎が残る。
彼女の足元で燃える火は簡単には消えず、糸へと移った。
それは登り続け、途切れた白い糸に代わって、天地の間の唯一の塔にきつく絡みつく。
そして、糸がはらはらと落ちる。
辺り一面の根は一瞬にして綿で覆われ、まるで風に促されて咲いた花畑のように、炎がその中で燃える。
花びらのように揺れる炎の中で、テレジアはそこに座る。彼女は根に寄りかかり、落ち着きを取り戻しつつある「空」の金色の海を眺めている。
テレジア
あなたの力は、想像以上に生気にあふれていたわ。本当に温かな火ね……
「朽ち果てる全てを燃やす炎」ね。アーミヤ、あなたは確かに成したわ。
はぁ、こうなったんだもの、さぁ、もっと近くへいらっしゃい。
アーミヤ
テレジアさん、私たちは――
テレジア
しーっ……あなたが今、その小さな頭の中で何を考えているかは分かるわ。
上のあの海を見てみなさい。私たちの起こした波は今収まろうとしているわ。もう一緒に行かないと。
アーミヤ、口に出すべきでない願いもあるのよ、言葉にしても悲しみしか残らなくなるのだから。
アーミヤ
いいえ、テレジアさん、私はもう悔いを残したくありません。私は……私たちはみんな、あなたに残ってほしいんです。
テレジア
たとえ私が再びあなたたちを失望させてしまっても?
アーミヤ
大切な人に自分の気持ちを知ってもらうことのほうがずっと大事ではないんですか? ドクターがそう教えてくれました。
テレジア
……
ふふっ、アーミヤは本当に成長したわね。
……私がずっとそばにいるわ、アーミヤ。かつて約束したように……
源石には私の情報はもう何も残らないけど、私のかつての理想があなたたちに見捨てられることは絶対にないのだから。
アーミヤ
あなたを留める方法は何もないんですか――
テレジア
私を救い、この戦争も終わらせるつもりなの?
この大地では全てが願った通りになるわけではないの。創造主だって無理よ。
アーミヤ、死んでしまった人のために悲しまないで。いまだこの大地で生きている人々を、特に希望を鼻で笑うような人たちをもっと気にかけてあげて。
でも今は、私たちがここを離れるまで、ただ安らかにさ――
W
殿下! ごめんなさい、あたし、どうしても我慢できなくて。
テレジア
あら……W、私を抱きしめてくれているのはあなたなの?
W
殿下……? 目が……
テレジア
よく見えないのよ。この身体を維持している情報の流れが遠ざかっているわ。
だけど触れることはできる。泣いてはいないみたいね、W。えらいわ。
テレジアが手を伸ばしWを抱き寄せ、彼女の肩を優しく叩いた。
W
――!?
殿下、あ、あなた嫌じゃないの……
テレジア
どうして私が嫌に思うの?
そうね……あなたなら、そんな心配をするのも当然だったわよね。ちっとも変わっていないわ。
私たちがまだバベルにいた頃、カメラを持ってこっそり隅に立ったまま、言い出せずにためらっていたわね……
W
……み、見てたの!?
テレジア
もちろんよ、実を言うと私の所へ来て一緒に写真を撮ってくれるのを待っていたのよ。でも、あなたは結局来なかった。
W
殿下……見てただけじゃなくて、そこまで覚えてるの!?
し、しかも――
テレジア
こっそり撮られていたことも知っているわよ? それだけじゃないわ、でもまさかあのそそっかしい傭兵さんが今みたいに成長するなんてね。
チェルノボーグと龍門の衝突が収まった真相、マンフレッドがここ数年ひどく頭を悩ませていた傭兵団、それと本来あなたたちが触れられるはずのないこの場所に現れたこと……
あなたが実際にやり遂げたことは、あなたが思っているよりも、はるかに多いのよ、W。
今のあなたなら、認識できるでしょう。私は、あなたが思っていたほど神聖ではなくて、あなたも取るに足らない人なんかではないって。
W
ハハ……アハハ! あたしを慰めてくれてるにしろ、嘘を言ってるにしろ、ほんとのこととして受け止めるわ!
殿下、あなたは昔から……優しいのね。さっき、この場所に上がって、あなたを最初に見た時、あたしは本当に怖かった――
殿下、あの時の写真の埋め合わせをしましょう!
カメラ、カメラは……待って、なんで壊れたのよ――チッ、クァリドチョアのとこね!
テレジア
壊れてなくても、多分ここではカメラは使えないわ。
W
……
テレジア
W、あなたが未練を残したくないのは分かっているわ、それは私も同じ。
最後まで約束を守らない人だとは思われたくないものね。
W
えっ!?
テレジア
覚えているかしら。まだ、あなたに名前を付けてあげてなかったわね。
W
――!?
テレジア
「W」はすでに亡くなったサルカズのもの、終わるべきであった輪廻よ……
私が言ったように、あなたはもっと自分に相応しい、素敵な名前を持つべきなの。
うん、あの時はカズデルの運命の結果が出た後に名前をあげようと思っていたけど、私はもうその日を迎えられないでしょう
W
待って、殿下、待って! あ、あたし……そんな急に……
ちょっと整理させて! いや違う、どこかにメモしないと!
ああ、もういいわ、来るものは来るんだし。準備できたわ!
テレジア
「ウィシャデル」。
W
……
テレジア
……少し覚えにくいかしら?
W
……そんなことあるわけない。
「ウィシャ――デル」、そうね? 「デル」は分かるわ、「家」でしょ。ウィ――ウィシャ――
テレジア
「願う」。
W
願う……家を。
テレジア
ええ。私の代わりに、カズデルの運命を見に行ってくれるかしら?
W
でも……あたし……あなた……テレシス……
テレジア
カズデルの未来は私やテレシスではなく、あなたたちの手に握られているのよ。
その日が来れば、きっとあなたは分かるわ。
ウィシャデル
ハハ……いいわ! ウィシャデル……ウィシャ――デル……
覚えたわ、一生ずっと覚え続けるから!
気に入ったわ。ヘドリーが辞書から引っ張ってきた文字よりずっといい。
ケルシー、アーミヤ、フード、あんたたち聞いたかしら? これからあたしはウィシャデルよ。全員、呼び間違えるんじゃないわよ。
それと、たった今決めたわ、軍事委員会の建物の下に行って、爆弾であたしの名前を刻んでやるってね。そうすれば今後誰が見ても忘れやしないでしょ。
それか屋上へ行って、爆発の光を遠くまで届かせてやるのよ、ロンディニウムまで届くくらい……
アーミヤ
……ウィシャ……デルさん。
ウィシャデル
何を言おうとしてるかは分かってる。あたしは泣いてないわ。
あたしが震えてるのは……フフ……ハハ……
アーミヤ
……
ケルシー
……
ウィシャデル
コホン、ちょっとあんたたちなんでまた急に黙るの?
アーミヤ
お二人が……く、口を挟む隙がなかったので……
ケルシー
行くといい、アーミヤ。
彼女が完全に消えてしまう前に……君がいれば彼女も喜ぶだろう。
たとえ彼女自身がそれを認めようとしなくとも。
アーミヤ
……
ケルシー
ドクター、我々はもうテレジアと立場が異なるものの、彼女が私ですら想像もできなかったことを成したのは認めざるを得ない。
ドクター、今の君なら、たとえかつての記憶がなくとも、いくらか見当はついているのだろう。
我々の任務はまだ終わっていないんだ。そうだな、テレジア。
テレジア
……
ケルシー
最初の源石を、君は彼に渡したのだろう?
……テレジア、君が我々に残した難題は本当に――
テレジア
ケルシー、私たちの望みどおりにならないことは多い。私たちは自分のやるべきことをしているにすぎない。
ドクター、今あなたが私の前に立っていることは、あの時の私の賭けが正しかったことを証明しているわ。
ふふ、ドクター、少しもったいぶらせてちょうだい。まだ教えられないわ。
……今のあなたはまだ準備ができていないの。たとえこの私を越えることができたとしても――
金色の海の波が見えるかしら?
私たちの時間はもう残り少ないわ。
ケルシー
分かっている、我々の再会は、再度の別れだけを意味していることを……
テレジア
親愛なるケルシー、私たちは二人とも、自分の結末を分かっているわ。それなのに、どうしてあえて悲しむ必要があるのかしら?
ね、もう少しこっちに来て?
テレジアが手を伸ばしてケルシーの髪に触れる。
テレジア
あぁ、ここにいたのね。私の強いケルシーが、今回も涙を流さずに済んでいるよう願っているわ。
ケルシー
君は、いつもそうだ。
テレジア
私はとても幸せな人間よ、ケルシー。
遠くへ旅立つときにはいつも、一番の友達が傍にいてくれるのだもの……
ありがとう。
ケルシー
……
アーミヤ
テレジアさんが……消えていきます……
ウィシャデル
消える? 子ウサギ、あんた何言ってんの、殿下はまだここにいるじゃないの? あたしがしっかりと抱きしめて――
テレジア
ウィシャデル、あなたの願いはもう全部叶ったわ……
私に会い、私に打ち勝ち、最後に私を殺した。
名残惜しむ必要はないわ。
これから私は完全にこの大地から離れて、あなたたちの目が届くいかなる場所にも二度と存在しなくなる。
ケルシー
テレジア、君の言う「完全にこの大地から離れる」とは、源石の中にある君たちの情報が存在した痕跡までなくなるということか?
テレジア
ええ、私は源石が私たちの檻になることを許さない。
私の行ったあらゆる努力はすべて、サルカズに完全なる自由をもたらすためだけのもの。
生と死、サルカズはいずれについても自由であるべきよ。
「何かを滅ぼし、階段を作る……」のよ、たとえ最終的に滅ぼすのが私自身だとしても。
Dr.{@nickname}……これが私たちの「初対面」なのよね。
あなたが聞いたその断片……あなたの想像したテレジアは、どんな人だったかしら?
バベルの創始者にして完璧な理想主義者?
それとも冷血無情なサルカズの魔王にして、戦争を引き起こした陰謀家?
そうかしら……
テレジア
まさか、私たちにこんな風に穏やかなお別れをする機会があるなんて、本当に思いもしなかったわ。
昔、ある友人とここでお別れをしたの。
私はここでその人の死を見ながら、ここから私自身の死へと向かった。
……私はこの場所が好きよ。
だけどここは私が永遠に追いつくことも訪れることもできない場所でもあるわ。
いつまでも変わることなく虚無の記憶の中にだけ存在していて、私が一生を費やしてもたどり着けない。
Dr.{@nickname}、今のあなたの目には、私はどんな風に映っているのかしら――
そうかしら? 面白い回答ね。
あなたと私、過去と現在、すでに過ぎ去ったものとこれから訪れるもの……
時間は、ここではもはや意味を持たないようだわ。ある瞬間において、私たちは互いに似たような話をしたことがあるかもしれないわね。
だけどあなたが言ったことも全く筋違いというわけではない。
かつて私の未来について警告した人がいたの。でも、これが自分の道であると私はよく分かっているわ。
私は決して諦めない。生きようが死のうが、いつどこに身を置こうが。
だけど、あなたの口から聞いた言葉は、皮肉ではないわね。
ありがとう、ドクター。
崇高とは何? 崇高とは誰によって定義されるべきかしら?
サルカズの自由のために私は暴力を他の種族に向けた。かつて自分が命を用いて守り切った信念に背いて、あなたたちの反対側に立った……
そしてロドス、今のあなたたちはもうバベルの影から抜け出した……
だけどかつてのバベルがサルカズのために固く守っていた一部の理念も放棄した。
あなたたちは平和を旗としているわ。けれど暴力を振るうことで抑圧者に、苦難をサルカズへの報いとさせた。
でも、私も同様にあなたたちの崇高さを否定できはしない。私が過去の自分を否定できないように。
あなたは「崇高」の意味を完全に理解していると自認しているかもしれないわね……でもこの言葉は私にとって、今もまだ重すぎるものよ。
だけど、ありがとう、ドクター。
……
今のあなたは決して嘘をついていないと感じられるわ。
もしあなたが今この瞬間にまだはぐらかした回答をしようとするなら……私はさらに失望したでしょう。
もちろん、全くがっかりしなかったと言えば嘘になる。あなたの答えを本当に期待していたわ。
ドクター、答えを探すことを諦めないで。もし今この瞬間あなたがいまだにロドスの既存の理念にただ従って進んでいるのなら――
未来において必ず直面するそれに、対処する準備が本当にできているのかとても心配よ。
歩み続けて、過去に私が期待したように。
慎重なのね、いまだに私に敵意と警戒を抱くほどに……それも当然よね。私たちは今この瞬間ですら、真反対の立場に立っているのだから。
構わないわ、あなたにはまだ、全ての謎を一つ一つ明らかにする時間がないだけだもの。
ただ残念なことに、私たちの会話はいつも、こんな風に慌ただしいのよね。
私の使命はもう終わったわ。
何年も前、あなた、そしてケルシーが、私のためにより広い世界に通ずる扉を開いてくれたわ。
だけどあの時の私はすでにサルカズの君主だった。私はサルカズの苦難、サルカズの宿命を背負っていた。
たとえ私の理想と視線があの偽りの空を越えることができても、重い現実が私を大地へと引き戻すの。
あの時に確信したわ、サルカズを、ひいてはテラ全体の未来を変えられるのは決して私ではない。その存在が私であったことなどもないと。
私の一番に信頼する友人は早くからこの結末を予言していたわ。
ドクター、手を貸して。
あなたの言うとおりよ。私は幸運にも、最も「真実」のあなたに会うことができた。
その人は、賢くて、優しい人なの。
重い使命を背負って、堅牢な枷を身にまとおうと、一度も希望を諦めたことのない人よ。
私はとても安心しているわ。
今、あなたはケルシー、そしてアーミヤと共にいる。だから、私の当時の選択は正しかったと信じられる。
この結末に至るのは、私たちそれぞれが選び取った道が決めたことよ。
当時の慌ただしい出会いは、この瞬間の見知らぬ二人の別れとよく似ているわね……違うかしら?
どうして憎むの?
今に至って、あなたの魂の深くにある私の想像もできなかった真相に触れても、私には同情と惜しさしか感じられていないわ。
そう……あなたの心に触れたからこそ、私はより……私たちが共に歩む機会を失ってしまったことを残念に思っているの。
その人の魅力は、共感できる人が誰もいないその矛盾した心の内から来ているのかもしれないわね。
あなたは気づいていないの? 今のあなたは自分がした決断を疑ったりしないのよ。
一体何が真実のあなたを形作っているの? 今経験した全てか、それとも、もう覆われている過去かしら?
私たちのいる場所を見て、ドクター。
静まった記憶、そして全ての真相は、あなたのそばにあるんじゃないの……?
過去、現在、未来。源石の終点では、時間はもはや私たちのよく知る規則で定義されない。
あなたは、もう覚えていないのね……
かつて教えてもらったわ、「源石」は――
この大地に無数の苦難をもたらし、同時に無数の可能性をもたらした物質だと。そして、それはあなたの時代において、何億もの犠牲を代償としてようやく得られた造物でもあると。
あなたが源石を創造した時、それに対して、そしてこの世界に対して、どのような期待を抱いたの?
見て、この金色の海の中に記録されたすべてを……あの時のあなたの期待に沿っているかしら?
あなたは見た……
ウルサスの大火を、イェラグの風雪を、イベリアの大波を……
古から今に至るまでの全ての時空において、文明を単位とした情報の奔流があなたのそばを急速にかすめ通る。
あなたは、はたと悟った――
あなたは手を戻した。
テレジア
あなたはいつも人を驚かせてくれるわね……
ドクター……私が情報の海に深く潜った時、私たちは再会したわ。
それは私の過去であり、あなたの未来でもある。
あなたはいまだ自分を見つける旅の途中だけれども、今も私に証明しようとしている――
「初めからずっと変わらない」、と。
あなたが答えを見つけるのをどれだけこの目で見たかったことか。だけどごめんなさい……私はやっぱりそこまで遠くへ行けないわ。
ドクター、私はそろそろ行かないと。あなたたちも……
もしこの果てのない虚無の中に永遠に閉じ込められたくないなら。
さようなら、Dr.{@nickname}。
かつて会ったことのない、本当の友よ。
返事はない。
塔の頂上、その白い影は、もう消えていた。
何も残っていない。
アーミヤ
テレジアさんは……旅立ってしまいました。
ウィシャデル
……あぁ。
ケルシー
ドクター、君は今何を見た?
私たちはここでお別れをする。
情報の流れの波はもうやんだ。
サルカズの魂の遠ざかる歌声が聞こえるかしら、バンシ―――
Logos
塔はすでに安息した、殿下……
波が逆流し、計り知れぬ地獄へと落ちておる。
されど根を燃やす炎でもこの底なしの闇夜を照らすことはできぬ……
うぬらは今度は何処へ向かう?
永遠の虚無、そして本当の死。
テレジア
私たちは、もう二度と彼岸で立ち止まることはないわ、アエファニル。
「Logos」、そう呼ばれる方に慣れているわよね。
あなたはもう自らの、ロドスのエリートオペレーターとしての選択をした。
無限の情報の流れの上にLogosは立つ。茫洋たる大海に自らの痕跡を残し、自らの倒影を刻んだ。
その影のそばに、すらりとした人影が静かに立っている。
さざ波で彼女の姿は揺れ、もはやはっきりとは見えない。
テレジア
あなたが河畔で自らのために奏でた弔鐘が私の耳に届いた時から、旧友が現れるのを待っていたのよ。
はぁ、ラケラマリンがいまだこの戦争に関わろうとしないのが残念ね。
Logos
母上は……確かに我を死から掬い上げてくれた。
テレジア
抜け目ないやり方ね、でもいつもの彼女らしい。
彼女も彼女の選択をしたわ、あなたのように。
あなたがサルカズの魂と渡り合う姿を見たけれど、当時あなたの母親が私と肩を並べた時の姿と比べても遜色ないわ。
私はもう彼女に再び会うことはできない。私の代わりにお別れの言付けを頼まれて、Logos。
Logos
殿下、うぬの姿が暗澹としてきておる――
テレジア
去ることもまた抗うことよ。これは私たちが自分で選び取った意志なの。
源石に私たちを永遠にここに閉じ込めさせるわけにはいかないわ。
Logos
我には……理解できぬ。檻とは何処から来る、そしてうぬが求めるものとは何だ?
テレジア
理解する必要はないわ、Logos。
あなたはただ、サルカズの魂、そして巻き込まれた情報の集合が、乱雑で解析不能な情報の流れの中で、今まさに飛散していることを知っていればいいわ。
二度と読み取ることはできず、二度と記録されることはない――
Logos
「本当の死」。
諸王と英雄は二度と我の言葉に応えず、彼岸は誰一人いなくなる……
殿下、今日より後、サルカズの魂は存在するのであろうか?
テレジア
いいえ。
Logos
彼岸にて松明を灯す渡り守はおるだろうか?
テレジア
もういないわ。
Logos
未来において、大地から失われた同胞は何処へ帰る?
テレジア
分からないわ……その答えを見届ける時間も、もう私に残されていないでしょう。
私はもう果てまで歩いたわ。これより前にあるのは文明の真相を隠す濃霧よ。私では……触れることができないけど、だからってあなたたちが越えられないということではない。
Logos
殿下……?
テレジア
ふふ、だけど未来を心配するという重荷を私はもう下ろしたわ。サルカズの魂の憂慮は、サルカズのことだけ。
「新生は滅びより生まれる」……あなたはこの宿命の必然を理解したけど、死の真相についてはいまだ悟り切っていない。
今後サルカズの魂は私たちの枷ではなくなり、源石も私たちが背負う罪ではなくなる。
Logos、去ることは私たちの解放でもあるのよ。
万年にも及んだ憤怒の囁きはなくなり、永遠に忘れられない苦難の伝承もなくなる。
私たちは、変えることができる未来を初めて手にした。
「私たちは選択の権利を初めて手にした。」
興奮する傭兵
ッ……ふぅ……
ここには降伏なんてもんはねぇ、あるのは死のみだ。
精神が崩壊した兵士
こ、殺す必要はない……
私の体に張り付くこのどうやっても抜けない黒い石を見ろ……うぅ……それに私の戦友、あいつらはもう霧の中から出てこないんだ……
私は生きられない――死にたくない――
興奮する傭兵
フン。
振り下ろされた傭兵の刀が間もなく死を迎える者の目の前で突然止まった。
彼は空を見上げ、何かが去るのを感じる。殺戮の焦燥感から次第に冷静になっていく。
興奮する傭兵
……チッ、錯覚か?
精神が崩壊した兵士
うぅ……
興奮する傭兵
……
……フッ。
「サルカズはもう歴史の枷のために生きなくていい。」
「私たちはただ生存のためだけに生きる。この大地の他の者と同じように、苦難に対して平等に戦う。」
パプリカ
あっ、うちの毛糸玉が!
イネス
気をつけなさい、パプリカ、落ちるわよ。
パプリカ
うっ、サンキっす! ただ、は、放してもらっていいっすか、イネスさん!
イネス
アーミヤやドクターたちを助ける方法はきっと見つかる、慌てなくていいわ。
あなたの命はあの毛糸玉より価値があるんだから。
パプリカ
……あれ、出発前にばあちゃんがくれたものなんすよ――
あれ……待って、何か感じないっすかイネスさん?
イネス
何を?
パプリカ
――!
魂の奥深くの動悸っす。
イネス
……
骨骸の操作に集中し過ぎてたわね。骨骸の機能の確保をする必要があるわ――誰にも見当がつかず、影響を受けないような場所で。
パプリカ、具体的にどんな感覚かしら、今後の計画に影響はある?
パプリカ
う、うまく言えないっす。でも……みんなの表情を見るに全員感じてるっぽいし、気のせいなんかじゃないっすよ!
イネス
あなた……泣いてるの?
パプリカ
えっ、ガチじゃん! でも……どうして?
「されど、うぬは?」
「私? 全てのサルカズと同じよ。」
「旅立つ。散る。死ぬ。」
「どうかロドスと共に歩み続けて、自分の決断を疑う必要などないわ。」
「ありがとう、Logos。」
Logos
殿下、サルカズの魂が遠く去りゆくことで我らがまことに過去に別れを告げることができるのか、恐らくうぬも気がかりであろう……
彼岸には何もない、されど死が疫病のごとく拡散するこの戦場で、我ら同族の亡魂は何処へ向かうべきであろうか?
殿下、我がうぬに代わり我らの結末を見届けるとしよう。
渡し守はない、さらば我が魂を鎮めよう。
魂に道はない、さらば我が導き渡すとしよう。
我の歌声が彼岸の松明を灯すであろう、我はここにて誓う――
彼岸の畔にて同胞の怒号が二度と聞こえなくなる時……
この大地にて、同胞の死もまた安息を得られる時……
弔鐘は止むであろう。
金色の水面にさざ波が起き、サルカズの魂が応える。
諸王と英雄、凡人と怨霊、彼らが速度を上げて旅立っていく。
源石の中、サルカズが存在した痕跡が消えゆく。
Logos
今この時に……我がうぬを、サルカズの魂を見送るとしよう。
挽歌が彼の唇から響き、彼は水面を踏み行く準備をする。
若きバンシーがサルカズの魂を見送る。
「霊骸布」
(不明瞭なサルカズ語)……去った……宗主……
ネツァレム
彼女が去った。
(古代サルカズ語)「アナンナ」は解き放たれた。運命はもう我らの手に握られている。
彼女は己が約束を果たした、戦争も彼女に首を垂れねば。
行くがよい、もはや霧の中に姿を隠す必要はない。死でもって死を灌漑し、勝利でもって離別を記念せよ。
ヴィクトリアの哀悼は……我輩が彼女に代わり受け取るとしよう。
青い羽獣が白い角の悪魔の涙をついばむ。
彼女は羽獣の眉間の毛をそっとなでる。魂が元々虚無で満たされているナイチンゲールはその別れの苦しみを感じ取れるのだろうか?
シャイニング
リズさん……感じますか?
この魂の拍動を、私たちの脳内で響くささやきの哀歌を。
ぐっすりと眠るリズは目尻をわずかに動かしただけで、返事をすることはできない。
マーガレット
シャイニング、リズの状況はまだ悪化しているのか?
シャイニング
いいえ、彼女は大丈夫でしょう。
マーガレットさん、すぐにでもドクターたちと合流しないと。
マーガレット
……空のあれの変化のせいか?
あれが変化した瞬間、君の様子がおかしくなった。
これも聴罪師の陰謀か?
シャイニング
いいえ……少なくとも今のところ彼がこの件に手を出すことはないでしょう。
しかしこれが彼の企みの一環であることは間違いありません。
サルカズにとって、この上なく重要な存在が今まさに去っていることを、我々の誰もが感じているはずです。
マーガレット
ああ……具体的に何のことを言っているかは分からないが、今のこの局面では、いかなる予想外な出来事であっても戦局に影響を与えてしまう可能性がある。
君の言う通り、ドクターたちはすでに要となる情報を握っているはずだ。
ぐずぐずしていられない、出発しよう。
ナディーン
将軍、将軍!
マンフレッド
ここは……
ナディーン
大変幸いなことに、戦場を片づけている際に将軍を発見したのです……
将軍……我々は「ライフボーン」を奪還できませんでした。
マンフレッド
……
ここには私一人か?
アスカロンは……
ナディーン
将軍、お怪我が……
今すぐ治療に拠点へとお連れします。
マンフレッド
いや。
我々はすでに時機を失った。今最優先すべき事項は、ロンディニウムへと戻り、摂政王殿下と次の計画を話し合うことだ。
戦域を抜ける準備をするのだ。君は前線に行って、我々に合わせるよう歩哨に話をつけるんだ。
ナディーン
将軍! 地面が血だらけですよ……とても危険な状況です! 軍事委員会はこれ以上高級将校を失うわけにはいきません!
マンフレッド
これは軍令だ。
……生き残ったサルカズのために。
ナディーン
――!
はい……将軍。
何事だ……
……ありえない。この感覚は――
マンフレッド
殿下、これが、あなたのおっしゃっていた代償ですか……?
サルカズの未来のための……
テレシス
今後、源石の中からすらも、そなたが存在した痕跡は失われるだろう……
そなたは、その道の果てにて彼奴らに相まみえるか? 「神」、あるいは創造主を名乗る傲慢な存在に……
……テレジア?
そなたが私とすれ違うのを感じたあのとき以降、私はそなたの声がますます聞こえなくなった。
今、私に聞こえるのは周囲の空洞から響く重苦しく味気のない雑音のみだ。
前途は切り拓かれた、ここでの全てが終わるべき時が来た。
テレジア――
「そなたにはまだ私の声が聞こえるか……」
聞こえるわ。
あなたの声も、新たに生まれた人の声も、そして死にゆく人の声も……ここでは、あらゆるサルカズの声が聞こえるわ……
魂は無意識の海に座礁し、溺れ死ぬ前に私たちの名前を呼び、導きを期待している。
いかなる時間の記録にも存在しない今、私たちが応える最も多くの名……それは「テレジア」だ。
万年余り前に星の海から氷原に落ちた骨骸の、激しく揺れ動く轟音が聞こえる。未知が、恐怖が、人の心を震撼させる。
私たちは、その時から血に烙印された抑圧を終わらせた……いえ、終わらせたことなどない。
ならば私たちの反抗には意味があるのか? それを私たち自身に問いかける。
……未来が私たちに証明してくれるだろう。
なら、今は?
今、私たちは遠くへ行こうとしている。
私はそう答えた。
テレジア
消えるまで争うことを諦めなかったサルカズの魂は、源石の中でサルカズのために最後のことを成した――
あらゆるいまだ生きる人のために、平等に生きるために戦う権利のある未来を勝ち取った。
……
みんな、前へ進みましょう。
その日、一人の疲れたサルカズの少女は、カズデルの魂の溶炉の温かな光の中で、なぜかぐっすり眠っていたのでした。
彼女は遠い異郷の地にいる母親を夢に見ていました。母親は漆黒に包まれたの光の中に立って、彼女に話しかけています。
彼女にははっきりと聞こえませんが、泣いてもいません。なぜなら母親が微笑んでいるのが見えたからです。それから、彼女は起き、目を開くと、頭のそばで咲き誇る一輪の純白の花を見ました。
死を焼き払う炉が撒く黒い塵が脆い花びらに落ちましたが、むしろ花びらの光を際立たせ、さらに目を奪う生命力にあふれるものとしました。
死と光が、ここに集まったのです。少女は焼かれた死が生み出す美しさに涙しました。
その日以降、魂の溶炉を通りかかるサルカズたちは、少女が毎日ここに現れ、源石の塵や骨の余燼の中で育つ花に露を注いでいるのを見ました。
彼女は光に贈り物を捧げました、花が枯れて死ぬその日まで。
「これが童話の結末なんですか……テレジアさん? どうしてこんなに悲しいんですか?」
「悲しいかしら? 私にはむしろ希望が訪れた喜びが見えたわ、アーミヤ。」
「花は枯れ、塵に還った。だけど新生の種はすでに蒔かれた。」
ウィシャデル
……こいつ、置いてかれたの?
ケルシー
いや、レヴァナントはそもそもサルカズの魂に受け入れられていない。
たとえ思考は集められたとしても、レヴァナントの本質を変えることはできない。結局のところ、源石の彼への影響は不可逆的だ。
彼がサルカズの魂と共に旅立つことは叶わぬ定めだ。
ウィシャデル
つまり初めから殿下はこいつを連れて行かないつもりだったの?
ケルシー
それは私の知り得るところではない。
ウィシャデル
ハンッ……殿下も嘘はつくってわけね……
老いぼれが、結局あたしの手に落ちるなんてね。
アーミヤ
Wさん、彼をこれ以上傷つける必要はありません。
ウィシャデル
ウィシャデルって呼べって言ったでしょ!
安心なさい、子ウサギ。こいつを吹っ飛ばす気はないから……ただ連れて行くだけよ。
老いぼれは一度死んだんでしょ。殿下がこいつを生き返らせた理由を想像するのは難しくないわ。
彼女は死んでもサルカズの団結を望んだ、ならレヴァナントに対する彼女の計らいは簡単――
まずは人間らしく生きなさい。まあ、こいつはとっくに人間やめてる感じだけど。
あんたも、もうやたらめったら燃やす必要はないわ。あんたたちの使命はとっくに終わってるはずだし、あとのことはもっと有能な奴に任せておけばいいわ。例えばあたしとか……
まっ、とりあえずこの武器の中にしばらくいなさい。
「布の小人の物語はまだ覚えているかしら、アーミヤ? 小人は涙でできた大きな川に入り、その底に沈んだ……」
「悲しみ、絶望……だけどこれが本当の結末とは限らない。物語は無限に広がっていいものなの。そして何より、物語の語り手が肝心なのよ。」
「物語の語り手……それは自分のことを言ってるんですか、テレジアさん?」
「私? いいえ……アーミヤ、私はね、その人があなたであってほしいの。」
アーミヤ
待ってください、もしかして登ってきた場所から帰らないといけないんでしょうか? そんなことはできますか?
ケルシー
それでは間に合わない。ここの変化の速度は想像以上だ。
ウィシャデル
そこのフード、あんたとババアの元々の計画は何なの? このクソみたいな場所からどうやって出るのよ?
(爆薬を取り出す)
アーミヤ
ウィシャデルさん、落ち着いてください!
ケルシー
ドクター、ここを去る原理について君に話すことはできない。その中に秘められたものは私ですら触れることができないしな。
だが私は信じている、テレジアはきっと君にその中の鍵について言及したはずだ。
ウィシャデル
今度は何よ!
アーミヤ
ドクター、ケルシー先生、見てください! 根が砕けて……上へと浮かび上がっている!?
「テレジアさん、もしかしたら、布の小人さんは初めから一人じゃなかったのかも……涙の川の下で、小人さんの仲間たちがずっと前からそこで待ってたんです!」
「私たちみたいに。ドクター、ケルシー先生、テレジアさん……それとバベルの皆さんみたいに!」
「石の小人さんがいっぱいいるんです。白色、黒色、青色、赤色……いっぱいいーっぱい。」
「その人たちが布の小人さんを囲んで、小人さんを連れて激しい川の水に沿って遠くへ進むんです――」
「うーん、だけどどこへ行けるんでしょうか……?」
ケルシー
我々が今いるこの場所は「落下」している。
「彼女」が……テレジアのしたことにようやく気づいたんだ。
この塔は抹消されつつある。これらの組み立てられた秩序立った情報が再びバラバラにされているんだ。
アーミヤ
ケルシー先生、ですが私はまだテレジアさんを感じることができます。彼女がいまだこの散逸した情報の中に存在しているように……
至る所にいるのに、すぐに消えてしまいます――
ケルシー
彼女が……サルカズの魂が抵抗しているんだ。
ウィシャデル
ちょっとフード、あんたもうちょっと頭を動かしなさいよ! あたしたちのいる場所まで崩れてきたじゃないの!
くっそ! 落ちる!
ケルシー
ドクタ―――
アーミヤ
ドクター、掴みました!
ウィシャデル
ケルシー! 今は助けてくれるペットちゃんはいないのよ。落ちて無残な姿になりたくなければ、あたしの腕の中で勝手に動くんじゃないわよ。
どうにかして落下速度を落とすわ。老いぼれ、あんたも手伝いなさい、あんたならできるでしょ!
アーミヤ
私もアーツで、できるだけ皆さんを包み込みます!
Logos
船は波が凪ぐと共に拭い去られた。
されど我がいまだおる、うぬらのために船を渡すとしよう。
ドクター、言ったであろう、我らが再び相まみえる時、ここの波風は収まるであろうと。
「思いついた! 布の小人さんが最後にどこに行ったか分かりましたよ、テレジアさん!」
「布の小人さんは石の小人さんたちに囲まれながら、涙の川を進んでいきます――」
「たとえ川底の暗流に当たってふらふらになっても、みんな諦めずに、手を繋いで立ち続ければ……」
「悲しみの涙の中で迷うことはありません――」
アーミヤ
テレジアさん、本当にあなたが私を導いてくれているんですか? ドクタ―――
あなたとアーミヤは無意識に同時に手を上げた。
静寂の空間の中、一隻の見慣れた船が情報の海の中から浮かび上がる。
飛空船、あの砕けたはずの船は、あなたたちの気持ちに従い再構築され、あなたたちの足元に浮いている。
あなたは、アーミヤとはるか遠くの虚空の中にある巨大な菱形を見る……
源石。真相。プリースティス。テレジア。
「そろそろここを離れないと。」
飛空船は加速しながら空にぶつかり、虚無を引き裂いて光へと入っていった。
「どれだけ時間が経ったかは分かりませんが、布の小人さんとそのお友達はどんなに疲れても諦めません……」
「みんなは同じ願いを胸に、流れがゆっくりになった隙を狙って全力で水面へと上がっていきました。彼らは成功しました、ついに見たのです――」
「海、太陽が海面を金色に染めています。」
「彼らは涙の川を渡っただけでなく、背後の果てしない未知の海までも渡っていたのでした。」
「彼らは再び大地へと足を踏み出しました。」