守護者

アニタ
今日はいっぱい拾えたんじゃない? 私とペトラおばあさんの分、それからベンチの分に……
うん、歌い手さんの分も。歌い手さん、きっと帰ってくるよね? お腹すかせて帰ってきたら、可哀想だもん。
残りは……まだ、こんなにいっぱい! 箱に入れておこうっと。
えっ、暖炉おじさんも欲しいの? んー、それじゃ先に、おじさんにあげるね。
わあっ、おじさんの腕に絡まってるのって海藻でしょ! それ、私にちょうだい! 歌い手さんから教わった……えっと、お酒! 海藻のお酒を作ってみたいの。
アニタ
……あれ、ベンチは? またどこかに行っちゃった?
幼い住民
あぅ……あぅ~……
幼い子どもの目の前に、赤い人影が現れる。
幼い住民
うぁ……うた……あぅ~?
スカジ
……そうやって掴んじゃダメよ。
これ、あげるわ。
幼い住民
んわぅ……
スカジ
……かじるのもダメ。それは食べ物じゃないのよ。
幼い住民
きわく、きわく……
スカジ
……彼女を呼ぶのはやめて。
私の代わりにハープを持っていって。彼女に渡してほしいの。
彼女に伝えて……ううん、あなたじゃ伝えられないわね。
それに……これはまだ、お別れじゃない。
聞きたいことがあるから行くの。戻ってきたら、自分で言うわ。
スカジは視線を高所の教会へと向けた。残りの道をどう歩けばいいのか、彼女ははっきりと理解していた。
審問官アイリーニ
上官、我々は今から山に爆薬を設置しに行く、ということでよろしいですか?
大審問官
ああ。
審問官アイリーニ
……先ほど向こうで、何者が教会に入っていくのを見ました。
この都市で出会ったあのよそ者に……よく似ていましたが……
大審問官
……
審問官アイリーニ
あの……上官、彼女は一体何者なのでしょう?
大審問官
エーギルだ。
審問官アイリーニ
彼女は恐魚と戦っていました。
……私たちの他に、あの怪物を知っていて、あれとの戦いを専門とする人がいたなんて……
もし教会を爆破すれば……彼女も巻き込まれてしまうのでは?
大審問官
元凶を解決することなく、この場所を破壊したところで無意味だ。だが、あの場所が奴らの温床となる以上、選択肢などない。
審問官アイリーニ
そう……でしょうか? ならば我々は、ここに異常をもたらした元凶を知る必要があると思うのですが……上官にも、確証がお有りでないのですか?
大審問官
自分の任務以外のことは尋ねるな。
審問官アイリーニ
……わかりました。
それと、上官はお気になさらないと思いますが、それでも言わせてください……この都市の耐久構造では、爆発の威力に耐えることはできません。
街の南半分は崩壊する危険性がありますが、ここの住民はそれを知らないのです。
大審問官
続けろ。
審問官アイリーニ
わ、私は……
……
審問官アイリーニ
私は、彼らを避難させたいと思っています。
たとえ、上官にとっての彼らが、奇妙で、問題があり……
……浄化されるべき存在だったとしても。
大審問官
審問官!
審問官アイリーニ
ひっ……!
大審問官
お前の職責は何か、言ってみろ!
審問官アイリーニ
はい!
「イベリアの国家存続のため、イベリアの敵と戦うため、イベリアの潔白と美徳を守るため、私は剣と灯りを高く掲げる!」
大審問官
ならばお前は、彼らに判決を下さねばならない!
審問官アイリーニ
判決? 彼らに……死刑を言い渡すのですか?
審問官アイリーニ
上官、昔あった歌を、最後に聞いたのはいつですか? あのレコードはすべて壊れていますよね? あなたの機械も、長い間ほこりを被っていますよね?
私はあの歌を聞きました。あのエーギルが、彼らのために歌うのを聞いたのです。
あのような歌こそ、本来イベリアにあるべきものだと……私は思います。
審問官アイリーニ
だからこそ、彼らを殺す前に真実を知りたいのです。上官が黒幕を見つけ出したいとお思いになるのと同じように。
確かに彼らはまだ変異する可能性を秘めていますが……その時は、必ず私の手で彼らを浄化してみせます。ですが今は……今は、彼らを避難させてやりたいんです。
上官、もしご許可をいただけるのなら、私は今すぐ彼らの避難誘導に向かいます!
大審問官
それがお前の判決か?
審問官アイリーニ
わかりません、上官!
大審問官
アイリーニ、お前の判決は、目の前の人々だけに下されるものではない。それは同時に、他の人々への判決にもなりうるのだ!
お前が怪物に生の判決を下せば、人々には死の判決が下されることになる!
審問官アイリーニ
承知しております! そうした判決を、私はこれまで何度も下してきました!
大審問官
お前の判決は、災いを阻止するものかもしれない。しかし同時に凶兆をもたらす可能性もあると忘れるな! 一人を救うため百人を殺すことも、一人を殺して百人を救うこともありうるのだ!
審問官アイリーニ
……承知しております、上官!
判決がもたらすであろう利害も、道徳と経典の間にある矛盾も……私はすべてわかっています!
大審問官
私は、お前にそんなことを尋ねたか?
審問官アイリーニ
……
大審問官
お前に訊いていることは一つだ……アイリーニ、お前はこの責任を背負うことができるのか?
お前が苦しみをもたらすならば、お前もまた苦しみを受けなければならない。お前が下した罪悪の判決よりも、多くの苦しみをだ。
お前にその度胸があるのか? 精神的な苦痛を受けた時、お前の信仰は揺らぎはしないか? もし、失敗して悪い結果をもたらしたとしても、もう一度立ち上がることができるのか?
審問官アイリーニ
……私は……私は揺らぎません。私には、背負う覚悟があります。
裁判所の一員となった時、既に覚悟をしていました。私には、できます。もし間違いを犯すことがあれば、処罰を受けましょう。私にはその義務があるのですから。
上官! 私は――
大審問官
もう十分だ。
審問官アイリーニ
で、ですが……
大審問官
十分だと言ったはずだ。お前の職責を果たせ、アイリーニ。
審問官アイリーニ
――はい、上官! 直ちに地域住民の避難誘導へ向かいます!
それから、上官……残りの爆薬は、サルヴィエント全体を爆破するのに十分な量ですよね。
大審問官
ああ。
審問官アイリーニ
つまり……
大審問官
その必要が生じた場合、お前の判決は私が取り消す。
審問官アイリーニ
……はい。
審問官アイリーニ
では、行って参ります、師匠。
アイリーニは風のように走り去っていった。
大審問官の姿が、海辺の岩礁の如くそこに佇む。
疑うことを知った時、審問官は初めて、その答えを探求する機会に恵まれる。しかし、醜い悪意や幻惑をほとんど経験してこなかったうら若き少女には、すべてが未だ時期尚早だった。
彼女は現実に打ちのめされ、その中で鍛えられる必要がある。失敗と挫折を経験しなければならないのだ。
苦しみを知り、現実離れした理想を捨て去ってこそ、彼女は忍耐を学ぶことができるのだから――
......
……待て。
大審問官
誰だ?
???
ごきげんよう、大審問官殿。
司教
おや、誰かと思えば。
ようこそ、吟遊の歌い手よ。