生命の煌めき
「将校」
待て、アルモニ。
前方の関所にいる駐屯軍の数が少し異常だ。
フィッシャー
お気付きになりましたか。たまたま、彼らには気を配っておくよう伝えておいたのですよ……ここで公爵間の関係を崩しかねない事件が起こるかもしれないとね。
「将校」
……つまり君は、あの者たちがトレント郡の管轄地域を脱する前に包囲し捕らえなければならないというわけか。そうすることで君の用意した仕掛けが発動する──
「将校」
まぁ、想定外のことではない。
フィッシャー
……ウェリントン公爵の配下、赤鉄親衛隊の隊長──もう間もなくこの身分が貴方を脅かすことはなくなります。
ですが、おわかりでしょう。このまま追い続ければ、二人の大公爵の領地争いに発展すると。現在のヴィクトリアの情勢下において、このような衝突の発生を歓迎する人はいないはずです。
アルモニ
まったく、あなたはどうしていつも選択の余地を残してくれないのかしら?
でも、今はこれで十分ね。私の任務ももう完了したことだし。
フィッシャー
貴方の過ちがこのような結果をもたらしたのですよ。すでに素性が露わになったスパイには、もはや務めを果たそうと虚勢を張る必要などありません。
アルモニ
そうかしら? 私はいつか訪れる協力の日のために、共に努力することを心から──
「将校」
アルモニ。
お前の出番は終わりだ。
アルモニ
コホンッ……
フィッシャー
……
「将校」
総員、撤収せよ。
元々負け戦であるのなら、ひとまず彼らを見逃してやろう。
フィッシャー
痛ッ……
特殊行動隊隊長
……言ったはずだ、フィッシャー。鉱石病がある程度進行すると、鎮痛剤は効かなくなるってな。
長時間アーツを酷使したツケが回ってきたんだ。
フィッシャー
もちろん承知しています。
……
特殊行動隊隊長
……まぁいい。言い方がきつすぎたなら、すまなかった。
フィッシャー
いえ、少し考え事をしていただけです……
フィッシャー
まさか親愛なるカスター公爵が、「灰礼帽」を一名送り込んでおられたとは。
私は……公爵の密使がいつの間に私の部下と入れ替わっていたのかすら気付きませんでした。
ヴェン
ふぅ……ハァ……わ、私たち、逃げ切れたのか?
チェン
ああ、後ろに追っ手はいないようだ。
まずは負傷者の状況を確認し、すぐに手当てをしよう。
リード
仲間を……何人か失った。
チェン
しばらくここで待とう。霧の中ではぐれて、まだ森に隠れている者がいるかもしれない。
チェン
キミは以前、この方角へ進むことを皆に話していたな。もし彼らがそれを覚えていれば、きっと来るはずだ。
リード
うん、少しだけここに留まろう。夜が明けたら、もうキミたちが行くのを止めたりしない。
みんなも武器を下ろして、しばらく休憩しよう……
バグパイプ
……
リード
……バグパイプ?
バグパイプ
「リード」。
ヒロック郡の時にいたあの術師……
今の炎は、あの術師が放ったものと全く同じだったよ……そのアーツで、ヒロック郡の通りも灰にしたんでしょう。
Outcastはリードを救うために犠牲になった。それなのに……
リードが……ダブリンの「リーダー」なんでしょう!?
リード
……
全員の視線が彼女に集まり、答えを待っていた。
彼女は、過去から現在まで、この質問を幾度となく耳にしてきた。それを聞くたびに、彼女は首を横に振りたくなる衝動を必死に抑え込まなくてはならなかった。
しかし彼女は、あの干し草の感触と夜風の匂いを思い出した。
テントの前で揺れる焚き火は、槍の先端の火とは全く異なることを思い出した。
遠くでくすぶる煙の中、一つ一つの呼び声が未だにこだましているようだったことを思い出した。
今回、彼女はもう首を横には振りたくなかった。
リード
そう。
ヒロック郡にいた時、私は死ねば自分の役割から永遠に解放されると思った。だから源石の砲弾が落ちてきた時に避けなかった。
そしてロドスに助けられた私は、自分の人生に何かを取り戻したいと思った。だからこの旅に出て、ダブリンの暴力が残した傷跡を癒やそうとしたんだ。
バグパイプ
ダブリンのために命を落としたみんなを……「ターラー人」たちを──
ダブリンは……騙してたってことでしょう?
リード
……「影」だった頃の私なら、彼らの命は、ダブリンの火の燃料にすぎないと言っていたかもしれない。
大局のためなら、すべてのターラー人が不公平さに立ち上がって、自らの命を燃料に、この反抗の炎を激しく燃え上がらせなければならないと。
リード
でも……Outcastに助けられた後、再びこの道を歩み出してから、そんな言葉はもう口に出せなくなった。
実際、多くの死の中には、本来なら避けられたものもあったはず。
私には、亡くなった人たちはみんなダブリンのための尊い犠牲だったなんてことは言えない……ターラー人だって一人ひとりが生きている人間だから。
私はダブリンが犯した過ちを……特に私がこの手で犯したものは絶対に忘れない。醜い罪を覆い隠すつもりだってない。
バグパイプ
それと……「赤鉄親衛隊」。
今夜おめーさんを連れて行こうとしたダブリン兵は、ウェリントン公爵の手の者たちだった。
おめーさんたちは……公爵の私兵なの?
リード
違う。ダブリンの背後にはどんな勢力も存在しない……存在するべきでもない。
もし何かがあるとすれば、それは……安らかな故郷を望む──自分たちの土地を自由に歩くことを望むターラー人たちだけだよ。
バグパイプ
でもおめーさんはダブリンを恐れてる。
もしダブリンが本当におめーさんの言うように、ターラー人を守るために戦っているのなら、おめーさんは何を恐れてるの?
リード
……
私が……恐れていること?
バグパイプ
おめーさんの思うダブリンは素晴らしいものみたいだけど、実際には暴徒とか陰謀家とか、おめーさんじゃ制御できない人ばっかりだし、そもそもおめーさんは捨てられたんじゃないの?
リード
否定はしない。多くの人たちがダブリンの火の中に見てるもの──それはターラー人の道ではなく、単なる自分の未来だから。
私が思うに……ヴィクトリア人がコツコツと自分たちの故郷を築き上げている時だって、自分はヴィクトリアのために奉仕をしているなんて意識はなかったはず。
ただ、ヴィクトリア人はもう自分たちの故郷と土地を手に入れた。穏やかに暮らせる。でもターラー人は、まだ生きるために多くの血を流さなければならない。
私はもう誰かが血を流すのを見たくないんだ。血が流れるのも、誰かが死んでしまうのも、すごく怖くて……だから私はずっと隠れていたかった。
リード
考えないように、感じないように努力した。まるで……ただの影みたいに。
でもそれが正解なのかはわからなかった。だってまだ……私の見えないところで、血が流れ続けているから。
バグパイプ
リード……
リード
……バグパイプ。キミたちは、私がこのターラー人たちをどこに連れて行くんだって何回も訊いてきたよね。
リード
だけど私だってキミたちに訊きたいんだ……ダブリンの夢は、本当に実現しないものなのかな。
バグパイプ
……
バグパイプが失望することは滅多にない。
これまで彼女は、自分の報告書が永遠に正しい人の手に渡ることはないのではと考えたことも、自分の戦友たちが、陰謀に巻き込まれて意味もなく犠牲になったのではと考えたこともあった。
再びダブリンと対峙した時に、どうやって彼らの陰謀を瓦解させ、彼らの手から無辜な一般人を守るかについて考えたこともあった。
しかし今、ヒロック郡事件の背後にあったのが、公爵間の単なる腹の探り合いに過ぎなかったことを知って──リードの背後にいる、戦火の中から抜け出したターラー人たちの困惑と怯えの目を見て。
この深い失望が、一体何に対してのものなのかよくわからなくなっていた。
そして、彼女がリードの質問に答えられないのと同様に、リードの口からそれ以上の答えが得られるかどうかもわからなかった。
バグパイプ
……行こう、チェンちゃん。
チェン
ん?
バグパイプ
うちらの任務はダブリンの真相を調査すること。そして今、うちはそれをダブリンの「リーダー」の口から直接はっきりと聞いた。
それと、オペレーター・リードは、今のところロドスには戻らないみたい。
リード
……
バグパイプ
彼女にはやることがあって、うちらにもやることがある。
チェン
……ああ。
ヴェン
バ、バグパイプさん!
バグパイプ
……ヴェンさん?
ヴェン
これ……君に渡しておくよ。
バグパイプ
ラジオ?
ヴェン
君たちはこれからも荒野を進むんだよね? このラジオがあれば、もしかしたら何か役に立つ情報が手に入るかもって思って……
バグパイプ
おめーさんはいらないの?
ヴェン
私? ……ハハッ、ターラー人に関する情報なんて、結局はいつも同じような内容でしょ?
ヴェン
バグパイプさん、本当にありがとう。チェンさんも、それから……ロドスも。君たちのくれたテントやこれまでの助力に感謝するよ。
じゃあ……お元気で。
バグパイプ
……
バグパイプ
さようなら、ヴェンさん。
古いラジオがバグパイプの手の中でジジッという音を発した。彼女は無意識に手の力を弱めた。
バグパイプ
元気でね。
ヴェン
……ケリーに、ファーガル、君に私。残ったのは八人だけか。
ヴェン
むしろ、人は少ない方が逃げる時には楽だね、ハハッ……
ヴェン
……
リード
……スーツケースの中に、まだきれいなガーゼが残ってるか、見てもらえるかな。
リード
傷口近くのガーゼをはがすよ。とても痛むと思うけど……
ターラーの流民
痛ッ……
……なんだ、ヴェン、前ほど血にビビってないみたいだな。
ヴェン
え? そ、そうだね……今まで散々見てきたから、怖がっても仕方ないし。
ねえ、リードさん……バグパイプさんたちは本当に行ってしまったのかな? 君たちは友達じゃなかったの?
リード
……いつかは友達に戻れるかもしれないけど、今は難しいんだ。
ヴェン
……ハァ、そうか。
元々別れる予定だったとはいえ、君も彼女たちにちゃんと別れを告げるべきだったと思うよ。
誰だって……別れの言葉は言うべきだよ。
ヴェン
──あれは、モラン!
リード
……
足を引きずるモランが、夜明けの微かな光を頼りに遠くから歩いてくる姿を、彼らは見つけた。
彼女は、折れた剣と血で染まった頭巾を手に握り締めていた。
リード
それは……セルモンの?
……モラン、彼女は……どうなったの?
モラン
(無言で首を横に振る)
リード
……ごめん。見えなかったよね。
遠くの木々の隙間からは、戦火の跡を示す煙が未だゆっくりと空へ立ち上っていた。
セルモンと同じく、帰ってこなかった者たちは今、あの森の中で横たわっている。彼らの最期がどんな様子だったか見ることのできた者は誰もいない。
生き残った者たちは、たなびく煙を黙って見つめている。
リード
……彼らは皆、ただ……行方不明になっただけ。
スカハンナ原野で、ヒロック郡で、オークグローブ郡で……
彼女は多くの大火を見てきた。様々な場所で戦争や災いを画策し、権力や名声を得ようとする者がいる。
その中で、普通に暮らしているだけの人たちがもがき、そして何の理由もなく死んでいく様を、彼女は目にしてきた。
彼女が手を上げると、ドラコの炎が小さな花を生み出した。
炎を握る感覚は未だに彼女を震えさせ、内臓に痛みを走らせるが、彼女はもう目を閉じない。
リード
この……ぬかるんだ土地で立ち上がったすべての人のために。
小さな花はひらひらと舞い、沼地に落ちると、ぬかるみの中で音もなく枯れた。