近代都市テーマ展
レイネル
来たな。今日はお友達を連れてきていないんだね?
Ela
あなたのボディガードは、みんなFuzeに「興味津々」みたい。下で質問攻めに遭ってるわ。ちょうどボディガードを訓練できる人材が必要って言ってたし、そのまま置いてきたの。
レイネル
昨日は全部で四人いたような気がするが。
Ela
事前に伝えたはずよ。二人はあなたの護衛に回るけど、残りの二人は当初の予定どおり捜索任務を続けるって。人手が必要になったら随時投入する手はずになってるわ。
それに今日は公の場に出るわけじゃないんでしょ。
レイネル
そうカッカしないでくれ。好奇心で聞いただけだよ。付き添いが少なければそれはそれで、僕も気が楽で助かる。
Ela
……そういえば今日のスケジュール、会議が二つほどあるわよね。それもトップシークレットクラスの。
レイネル
会議? 何のことかな?
Ela
バンジージャンプ? まさか「会議」ってこれのこと?
レイネル
そういうことだ。ミウォシュの奴はこういう危ない遊びをさせてくれないからね。仕事で外出した今日というチャンスを活かさないのはもったいないだろう。
Ela
……ボディガードとしてご忠告するけど、やめておいた方がいいと思うわ。
レイネル
では雇い主として、忠告は控えてくれと言っておこう。
命綱の調整は万全かな?
スタッフ
問題ありません。いつでもいけます。
レイネル
では……また会おう。
うおお――――!
Ela
はぁ……本物のろくでなしね。
スタッフ
どうかご心配なさらず。設備は全てプロ仕様のものですから、危険はありませんよ。
Ela
本当に危険がないなら、免責事項にサインなんてさせないでしょ。
スタッフ
ではあなたの方はやめておきますか? 安全ベルトはもう取り付けてしまいましたが……
Ela
まさか。どのみち支払いは雇い主持ちだし、跳ぶわよ。
Elaはジャンプ台に背を向けたままその端に立つ。かかとが宙に浮き、ゾクゾクとする感覚が命綱を伝って背骨まで広がってくる。
彼女はスタッフに向けて軽く微笑むと、すぐさま後ろへ倒れ込み、心臓を締め付ける心地よい浮遊感に身を任せた。
落下する間、限界までロープが伸びきった後に訪れるであろう、反動で上まで引き上げられる瞬間をElaは待っていた。
しかしその瞬間より先に、耳元の風切り音に混じって、水しぶきが上がる音が響くのを、彼女の耳は捉えた。
スタッフ
*スラング*! あのヴァルポ、自分で命綱を解いたのか!?
Ela
Gówno!
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絶景を誇るビーチでも日焼けにはご注意ください。「ソンブレロ」の日焼け止めがあなたのお肌を紫外線から守ります。今ご注文いただいた方には、追加でしっぽケアオイルもプレゼント……
Doc
マイヤー、どうしたんだ?
Iana
あっちの……ええと、猫耳の彼女が通行人にこれを配ってたから、一枚もらってきたの。
Doc
確かに、ここは紫外線が強めだな。
Iana
そこじゃなくて。私が見てたのは、こっち。
Doc
角ケア用研磨石? 角質ケアの間違いじゃ――
興奮気味なリターニア人
紛争の絶えないボリバルに、こんなリゾート地があったとは。今回の出張、はじめは乗り気じゃなかったんだがな。
喜ぶリターニア人
そうね。おかげでここ数日、楽しく過ごせてるわ。ただ……長時間塩水に浸かったせいで角が荒れちゃったから、ホテルに戻ったらきちんと磨かないとね。
Doc
……
……「ヴァルポ、ループス、フェリーンのお客様、それぞれに専用のトリートメントも取り揃えております」とも書かれているな。
Iana
十リットル入り大容量セット? 耳と尻尾をケアとなると、それくらい使うのかしら?
挙動不審のシラクーザ人
なかなかいいブツが手に入ったな。詳しいことは明日、ビーチで話そうぜ。
怪しいシラクーザ人
ふん、払った金に見合う価値があるといいがな。
Iana
……こうして見ると、確かに必要そうね。
Doc
正直に言うと、もう何を見ても不思議には思わなくなってきたよ。
通りすがりのサンクタ
(軽蔑するように眉をひそめる)
サルカズ傭兵
(嫌そうに避けて通る)
Doc
……Sacré dieu……
Iana
……
司会の声
……それでは本日のゲストをご紹介します。ドッソレスの文化産業期待の新鋭、レイネル・コワルスキーさんです!
レイネルの声
ドッソレスTVには感謝しているよ。こうして画面の前の方々に罵られる機会を与えてくれたこと、そして視聴者の皆さんのためにストレスのはけ口を用意してくれたことにね。
Iana
あら、あれってクリスタウォワギャラリーの館長じゃない?
Doc
街頭でも彼の声を聞くことになるとは。
ElaやFuzeが彼とうまくやれているかはわからないが……私の直感によると、彼は話し相手の神経をいちいち逆撫でするタイプだな。
カジノの用心棒
賭けねえなら店の前をうろちょろしてねぇでさっさと失せろ! お前みたいなみずぼらしい奴がいたら、客が寄り付かねえだろうが!
Iana
あら……?
ストリートアーティスト
カジノならこないだ遊ばせてもらったし、今はコミュニティでやるお祭りの宣伝をしてるだけなんだ。お客さんの邪魔はしないからいいだろ。
カジノの用心棒
黙って失せろ。
ストリートアーティスト
あいたた……あっ、そこのお兄さんたち、お祭りとか興味ない? ほらこれ、チラシをどうぞ! 今度うちのストリートアートコミュニティで、本物の芸術祭をやるんだ!
Doc
どうも。しかし、悪いがこの日程では難しいな。ほかに予定があるんだ……
ストリートアーティスト
まさかガラス小屋でやる開館式に行くとか? ダメダメ! あの野郎は宣伝が上手いだけで、芸術のげの字も分かってないんだから!
Doc
ええと……
ストリートアーティスト
まあいいや、とにかく持ってってくれよ。ただのチラシだし、とりあえず読んでみなって。
Iana
なにが書いてあるの?
Doc
……言うなれば、本当にこの通りの芸術祭が開かれるなら見に行ってみたいと思うような内容だな。
レイネルの声
……此度の開館式では、ドッソレスの文化、芸術分野を必ずや活性化させるとお約束します。
M&A、ビジネス振興プロジェクト、産業発展計画……我々一同はこのために様々な準備をしてきたのですから。
クリスタウォワギャラリーの設立は、ドッソレスの経済発展をより強く推し進める、大きな起爆剤となるのです。
Iana
確かに、いま聞こえてる彼の話よりは、チラシに載ってるお祭りの方が心惹かれるのは確かね。
Ela
ゲホゲホッ……*スラング*! あなた、やっぱりどこかおかしいんじゃないの!?
Ela
起きなさい! このろくでなし!
脈は確かめてあるんだから、死んだフリはやめなさい!
レイネル
ガハッ……ゴホッ、ハッ、ハハハ……ゴホッ……
このくらい、ちょっとしたわがままだろ。水面の一番近くで命綱を解いて、そのまま水中に落ちてみる方が……
ただ縄で縛られたまま上に跳ね上がって終わるより、ずっと面白そうじゃないか。
Ela
……レイネルさん。申し訳ないけど、私にはあなたの安全を守り続けることなんてできないわ。寝泊りする場所を用意してくれたのは感謝するけれど、明日には仲間と一緒に出ていかせてもらうわね。
レイネル
契約破棄ということかな? そんなに怒るようなことだったか? まあ、そうカリカリしないでくれ。もっとデタラメな高さから飛んだこともあるし、今もこの通りピンピンしてるだろう。
Ela
自分の命をわざわざ危険にさらすような人の護衛なんてできないって言ってるの。
レイネル
それは誤解だよ。僕には長年の目標があるのだから、それを成し遂げるまでは、自分の命を何より大切にするつもりでいるさ。
それより、そちらこそ風邪をひかないように、しっかり身体を拭いておいてくれよ。見たところ……君たちは「我々」ほど体が強くはないようだからな。
マッテオ
ここの門を跨いだ奴は、勝手に帰ることなんざできない。お前、その覚悟はできてるんだろうな?
ミウォシュ
落ち着いてください、マッテオ大尉。私は話し合いのために来たのです。
マッテオ
話し合いだと? うちの部下がお前のボスに「おもてなし」をいただいたばかりだってのに、随分虫のいい話だな。
ミウォシュ
お聞きください大尉。あなたがレイネルといがみ合う必要などないのです。
マッテオ
そう言うなら、例のストリートアートのコミュニティがいる土地を大人しく譲れとあいつに伝えろ。
俺の邪魔をするつもりなら、それはボリバル連合政府の邪魔をするのと同義だと理解しておくんだな。
金以外に何一つ持たないよそ者が、数人傭兵を雇った程度で、連合政府の代弁者である俺と交渉できるなどと思うなよ。お前にそんな資格はない。
ミウォシュ
レイネルには、あの地の所有権を争う気などありません。双方が納得のいく合意に達せるなら、彼は喜んであなたに……あるいは連合政府に、土地を譲るつもりです。
マッテオ
それはお前に決められるようなことなのか?
ミウォシュ
ええ……私の意思は、すなわち彼の意思ですから。
あの無計画な拉致騒ぎさえなければ、我々はもっと和やかなムードで話ができていたはずなのですがね。
マッテオ
俺が悪いとでも?
ミウォシュ
滅相もない。あれは不幸な誤解による事故だったのですから。
マッテオ
おべんちゃらなんぞいらん。事実だけを言え。レイネルは俺から何を得ようとしているんだ?
ミウォシュ
ボリバルで身を立てるには、あなたのような後ろ盾を持つ人物の支持が欠かせません。
マッテオ
……俺は学校よりも軍隊で過ごした時間の方が長くてね。回りくどい話は苦手なんだ。いいからもっとはっきり言え。
ミウォシュ
では……あのコミュニティは、さすらう芸術家の居住区と言うよりむしろ、ギャングのはびこる無法地帯です。
あの地の開発計画を考えたこともありましたが、どの住民も凶暴でしてね。なによりあそこでは感染者も何人か生活しており、手に負えないのです。
マッテオ
ふん。要するにお前らは、金さえあればドッソレスの問題をすべて解決できるとでも思っていたんだろう。
ミウォシュ
ええ。ですが結局のところ、一番の成果を享受するに足る資格を持つのは、問題解決能力のある人だけですから。
Fuze
悪いが、あんたらの戦い方や戦術素養に関して俺は何一つ知らないんだ。そこで一番手っ取り早い方法として、攻防戦をやってみようと思う。
四人一組で二チームに分かれてのBO3だ。目標は人質を救出すること。
攻撃側は人質の居場所を探し当てて救出し、安全に離脱する。防衛側は攻撃側の救出を阻止する。
理解できたか?
ボディガードたち
……
お喋りなボディガード
人質は誰がやる?
Fuze
公平を期して、俺がやろう。
攻撃側A
報告! 窓から突入成功!
この部屋は無人だ! 次の部屋へ確認に向かう。
攻撃側B
おい、ちゃんと前見て歩けよ? シッ! 動きはもっと静かにだ!
攻撃側A
ぶつかってきたのはそっちじゃねえか!
攻撃側B
静かにしろって言ってるだろ! お前が今向かってる方向はもう捜索済みなんだ。インカムで無人だと言っていたのが聞こえなかったのか?
攻撃側A
何のことだ? さっきインカムを窓の外に落としちまったところなんだよ。ちょうど新しいのが欲しかったし、一個くれよ。
防衛側A
報告、二人撃破。声がでかすぎて10メートル先でも聞こえたぞ。
防衛側B
なあ先生、ちょっとこの板の後ろに屈んで、できれば頭のてっぺんだけ見えるようにしててくれないか。そうすりゃ奴らを惹きつけられるだろ。
防衛側C
この扉が唯一の入口だから、俺たち三人で守れば、あとは入ってきた奴を叩きゃいい。
Fuze
……俺がケガしたらどうするつもりだ?
防衛側D
するわけないだろ。あいつらは入ってきた瞬間、俺らにぶっ倒されるんだからな、ははっ!
防衛側B
*スラング*、アーツだ! 何も見えねえ!
防衛側C
あいつら、窓から入ってきやがった! く、来るな!
攻撃側C
人質発見。室内は無能が三人、バカ正直に入口を張ってやがった。やり方はいくらでもあるっつーのにな。
攻撃側D
光のアーツが随分効いたらしい……って待った、あいつ……!
防衛側C
クソッ! 来るな! 近づくんじゃねえ!
攻撃側C
報告! 報告! 視界を奪われた奴が一人、でたらめに乱射してやがる! クソッ、仲間が全員やられちまった!
Fuze
……
*ロシア語スラング*、全員止まれ!
まったく、「最高」の仕上がりだな。
ミウォシュ
おかえり。思っていたより早かったな。私のいない隙に、普段は行けないような場所に行くチャンスだっただろう?
レイネル
ちょっとしたアクシデントがあったんだ。
ミウォシュ
怪我でもしたのか?
レイネル
いや、Ela君が辞めると言いだしてね。
ミウォシュ
……これで32人目だぞ。君ときたら、いつもボディガードを怒らせて辞表を叩きつけられているな。私には私の仕事がある以上、いつも傍にいられるわけじゃないと言うのに。
レイネル
それはさておき、大尉との取引はどうなった?
ミウォシュ
まんまとエサにかかったよ。
レイネル
大変結構。となると、次はコミュニティに住まう「友人」たちがどう行動するかだな。お手並み拝見といこう。
ミウォシュ
大尉が気の毒だ。
レイネル
そうだな。コミュニティの芸術家たちと長い間やり合ってきた僕としては、彼らのトラブルメーカーぶりは誰より熟知しているつもりだから。
おや、Ela君。契約解除の手続きは済んだのか?
Ela
ダメだったわ。人事部は今日休みだなんて、誰も教えてくれなかったから。
レイネル
それは災難だったな。うちのスタッフはいつも気まぐれでね、あまりにも自由に勤怠を決めるものだから、僕も困っているんだ。
Ela
……
そうだ。最後だから言っておいてあげる。あの特別展示エリアの中心にある彫像は贋作よ。
同じ彫刻家の他の作品と比べると、細かいところにいくつか違いがあるの。出処を洗った方が良いと思うわ。
レイネル
ほう?
Ela
おおかた美術商に騙されたんじゃないかしら。あなたみたいな商人にとっては、よくあることなんでしょうけど。
レイネル
ぷっ――ははははっ! Ela君、君を手放すのが惜しくなってきたよ。
Ela
なんですって?
レイネル
いや、まったくもって素晴らしい目利きだ。あの彫像は僕が模倣して作ったものでね、気に入ったからあそこに置いてるだけなんだ。
長いこと置きっぱなしにしているが、君を除いて見抜けた者は今まで一人もいなかった。
Ela
雇い主のメンツを潰す勇気がなかっただけじゃない?
それで、もう用はないわよね。じゃあ、さよなら。
レイネル
待ちたまえ、Ela君。
Ela
まだ何か?
レイネル
今後、態度を改めると誓ったら、仕事を続けてもらえるかな?
ミウォシュ
(小声)ほう、珍しいことがあるものだ……
Ela
それって引き留めてるの?
レイネル
ああ。
あの彫像の本物を見てみたいとは思わないか? 些細な違いに気づいたということは、あの彫刻家の作品を、さぞ長い間眺めていたんだろう?
Ela
……
そう言ったからには、ちゃんとおとなしくしていてほしいものね。
カタパルト
ねえエルネスト、ドッソレスまであとどれくらい?
テキーラ
この速度なら、もうすぐだよ。
カタパルト
あんたさー、ここ数日ずっとそればっかじゃん!
テキーラ
ほんとにすぐだって……この新薬を現地の人に届けたら、一日中のんびり横になれるような、太陽が美しく輝くビーチを紹介してあげるからさ。へそを曲げないで。
あそこはカジノやバーからも遠いし、きっと気に入ると思うよ。
カタパルト
バーくらいなら別に構わないけど。お酒に逃げたくなる気持ちはわかるし……って、なんであたしがカジノ嫌いなことを知ってるの?
テキーラ
俺もロドスの仲間を連れてドッソレスへ戻るのは初めてだし、ここはしっかりもてなしたいと思ってね。出発前に、オーキッドさんから君の好みを聞いておいたんだ。
カタパルト
それじゃ、あたしが故郷を離れた時のことも……
テキーラ
勇気ある行動だったと思うよ。
カタパルト
そのあと、故郷に戻った時のことも……
テキーラ
立派な選択だったね。
カタパルト
……
まあ、別に話しづらい過去ってわけでもないけどさ。ただこういう武勇伝って、ほろ酔いの時に一気に語るようなものでしょ。今話すことじゃ……はぁ。
ドッソレスに着いたら一杯おごってよね。勝手に話を聞いた対価ってことでさ。いいでしょ?
テキーラ
もちろん、喜んで。