海鮮盛り

宣教師
おや? この音は……
もっと慎重になるかと思っていたが……まさか、そこまで自信があるのか?
ハハッ、いずれにせよ結果は同じだ。
教会には人材が必要なのでな。
君たちには、我らの一員となってもらおう。
そうして共に、イベリア人を啓蒙しようではないか。
チルチャック
仕掛けはこんなもんでいいか。
あとは、あいつらが食材を手に入れて出てくるのを待つだけだな。この仕掛けがあれば、しばらくは魔物を足止めできるだろ。
……
にしても、ライオスの奴、時々妙に抜かりないよな。
ん?
……
チルチャック
なんでこんなとこに箱が?
……まさか、この世界にもミミックがいるのか?
……
チルチャック
うわ……こいつ頭悪すぎだろ。
こんな何もない砂浜で、誰かを騙したりなんかできんのか?
……この足音……多分、あの妙な野郎だな。
宣教師
彼らはやがて我々の兄弟となる。すぐにも、彼らはより良い存在へと変化し……
チルチャック
チッ、あいつ……案の定俺らを殺す気か。
……そうだ。
宣教師
裁判所の者が来た時には、奴らで試してみるとしよう。
チルチャック
何を試すって?
宣教師
き……君、なぜ洞窟に入っていないんだ?
チルチャック
俺は大して戦えないからな。ここであいつらが出てくるのを待ってたんだ。
宣教師
……そうか。
チルチャック
で、今言ってた裁判所ってのは何のことだ?
宣教師
……我らにとって共通の敵だ。
チルチャック
詳しく聞かせてもらっていいか?
宣教師
(このドゥリンは、確かに大して戦えそうにない……話してしまっても構わないだろう。)
(この体格からして、どこにも逃げられないだろうしな。)
もちろんだ。
チルチャック
ここは人目につく。あの辺で腰を据えて話そう。
宣教師
わかった。
チルチャック
……
箱?
……
宣教師
では、イベリアに対する裁判所の欺瞞から語るとしよう――ん?
???
(勢いよく開いて丸呑みする)(閉じる)(嬉しげに揺れる)
チルチャック
……兄弟とかなんとか言っといて、お前もこの魔物たちのことはよく知らねーわけだ。
そんなんじゃ割を食うぜ。こういうふうにな。
ライオス
ふぅ、これで全部片付いたな!
マルシル
もっと多いかと思ってた……
ライオス
あのクラーケンのような魔物が死んだあとに、ほとんどは逃げていったんだろう。
奴を仕留めた人は、俺たち以上のご馳走にありつけたんだろうな……
センシ、この魔物は食べられそうだろうか?
マルシル
こんなの絶対食べたくない! 見た目が気持ち悪すぎ!
センシ
わしの見立てでは、注意深く適切に処理をすれば、健康的で美味しい料理になるはずだ!
マルシル
でも、ここはあの町からそんなに遠くないし、隠されてるわけでもないから、見つかってない場所だとは思えない。
それなのに、あそこの人は誰もこれを食べてないってことは、食べられないものなんじゃない!?
やっぱりあの変な人、私たちを騙して殺そうとしてたんじゃ……!
センシ
そうとも限らんぞ。
この洞窟に住んでいるのは紛れもない魔物であり……一方であの町では、武装した者を見かけることはなかった。恐らく彼らは、魔物を倒して食べたくとも、その力がないのだろう。
海産物は良質なタンパク源だ。この材料を用いてちゃんとした料理を作ってやれば、きっと彼らも満腹になることだろう。
マルシル
ダメダメダメ!
センシ
何の問題もないと思うが。
実際にクラーケンを料理したことはないとはいえ、魚や貝、エビとタコであれば調理経験がある。
ライオス
これを食べないとなると、砂浜に打ち上げられた魚や貝を食べるしかなくなるぞ?
マルシル
……わかってるし!
ライオス
この透明な頭部の中には……ねばねばした液体が詰まっているみたいだ。内臓と卵を包んでいるのか……
センシ
内臓は食えんだろうな。残った卵と液体は取り出してみよう……
これは鶏卵によく似ているな。
後ほど、椀の中で溶いてみよう……
ライオス
本当だ、確かに似ている。
マルシル
まだ片付けてる途中なのに、食べ方を考え始めるのやめてくれる?
ライオス
そう言うな。これは魔物を観察するのにうってつけの方法でもあるんだ。
センシ
マルシル、このイソギンチャクのような魔物は、お前がほどよく火入れをしてくれているぞ。
マルシル
……ほんとだ。
でも爆発で焼けた分、ちょっと焦げちゃってるし……
海藻も、焼けて乾いたら全部剥がれ落ちちゃったし……
さすがに食べられないんじゃない? やめとかない?
センシ
ちょうどいい火加減に見えるぞ。
洞窟の奥から魔物が出てこなくなったな。どうやら、恐れているようだ。
ライオス
ああ。だが倒した数からして、ご馳走を作るには十分だ。行こう。
ライオス
ん……? チルチャック、その箱は?
それに、そこで倒れているのは……あの宣教師か?
チルチャック
フン、この野郎、俺らを騙して殺そうとしてたからな。こいつに懲らしめてもらったんだ。
ライオス
えっ? 騙されてたのか? だが、この中では確かに海産物がたくさん採れたぞ。
それに……「こいつ」というのは?
チルチャック
ミミックだよ。はぁ、見れば一目でわかったさ。この世界にもいやがるんだってことが。
箱?
……
???
(勢いよく開く)(チルチャックに押さえ込まれる)(食いつけずに怒って震える)
マルシル
……随分手慣れてるね。
チルチャック
こいつの擬態が下手すぎるんだよ。
どうせこの世界のミミックも味見したいとかいうんだろ。ほらよ。
ライオス
うわあ、いいのか? 君は本当にいい奴だな!
マルシル
(小声)これってライオスへの思いやり?
チルチャック
(小声)……まあな。
センシ
(小声)チルチャック、お前は優しい子だ。
チルチャック
(小声)うるせえよ!
ライオス
さあ、浜辺で火を起こそう!
センシ
では、このイソギンチャクのような魔物から調理を始めよう。
思うに、恐らくこの……うむ、ここだな! どうやら、こやつの頭部は下にあるようだ。
マルシル
ん? 上のお花みたいなのが頭じゃないの?
センシ
分解して確かめてみよう。頭部はヒトデに似ているな……
剝がしてみるか。
おお、やはり中は卵か! どの「花びら」にも入っているところを見るに、今が繁殖期のようだな。
マルシル
ますます食べたくなくなってきた……
チルチャック
……
ライオス
……俺はもう生で水棲生物を食べたりはしないぞ。
マルシル
言っとくけど、なんの処理もしないで、未知の生物を生食したらお腹壊すのは当然なんだからね。
ちゃんと処理した新鮮なお刺身とか、漬けた切り身は美味しいの。痛い思いしたのは自業自得!
ライオス
だったら、そのちゃんとした生食の方法を教えてくれないか?
チルチャック
うわ! また墓穴掘ってんじゃねーか!
ライオス
さあ、さあ。
マルシル
……
…………
醤油に、カラシの粉末と、レモン、タマネギ、パクチー、ニンニクのみじん切りを加えて、魚醤があればそれもちょっと加える。そのあと生の切り身を入れて、よく混ぜて漬けておく。
……そんな感じ。
ライオス
よし!
……だが、ここには醤油もカラシの粉末もないな。
センシ
代わりに、これならあるぞ。先ほど洞窟の隅で見つけた、「上級理性回復剤」という物だ。
「カラシの粉末の抽出物を少量含む」と書かれている。恐らくは調味料の一種だろう。
マルシル
……「生産元:ロドス」?
センシ
我々が探している場所で作られた商品だ。これが見つかったということは、すでに目的地の近くにいるのかもしれん。
となれば、これを用いて料理に風味を加えよう。
副菜を適度な大きさに切って容器に入れ、この「上級理性回復剤」を加える。さらに、カバンに少し残っていたタマネギとニンニクのみじん切りを入れ、最後に生の切り身を入れてよく混ぜ……
味見してみてくれ。
ライオス
美味い!!
センシ
残りの食材は……
どれどれ。
焼いた海草が一束。
鶏卵のような魔物が十数体。
イソギンチャク型の魔物が十数体。
ミミックが一体。
うむ、十分だ。
よし、こんなものだろう。
一度にこれだけ作っても、まだ山ほど食材が残っている。町の者たちが食べる分も十分にあるはずだ。
ライオス
いい匂いだな。
マルシル
うん……材料はアレだけど、見た目は悪くないかも?
チルチャック
お前ら、本当に町の連中に食わせる気あるのか? 先に食べ始めようとしてるじゃねーか。
マルシル
でも、町の人には言葉が伝わらないし……
ライオス
俺に考えがある。
まずは俺たちがこれを海岸で食べて、砂浜をうろついている人たちを引きつけるんだ。
彼らには明らかにまだ意識が残っている。満腹になったら、今度は彼らから町の人々に配ってもらおう。
チルチャック
……先につまみ食いしたいだけの口実だろ。
センシ
うむ。この辺りの人々は、こうした食べ物を見たことがないかもしれん。我々が、これは食べられるものだと示してやらねば。
ライオス
ではみんな、頂くとしよう。
???
もっと海藻の酒をくれ!
アニタ
もうっ、ほんとにお酒が好きなんれすから。
???
だってすっごく美味しいだろう!
アニタ
気に入ってくれたならよかったのれす。
次に歌い手さんが来た時は、喜んでもらえるといいな。
どうしたのれすか?
男性住民
あのよそ者。海辺にいる。
アニタ
えっ? 海辺に?
それで、何してるのれすか?
男性住民
食いもん。作ってる。
アニタ
食べ物って……
男性住民
海の怪物。使ってる。
アニタ
なんれすって!? 早く止めに行かないと!
男性住民
もう遅い。
マルシル
このお刺身の漬けたやつ、かなりツーンとくるね。
センシ
だが味は良い。とても新鮮だな。
チルチャック
この世界のミミックも味は悪くないな……
宣教師
血族が……大群が……ううん……何の匂いだ? いい香りだな……
チルチャック
あっ。例の詐欺師が目え覚ましたぞ。
宣教師
実に香ばしい……んっ!? 君たち、何をしているんだ? い、一体何を料理した!?
ライオス
君に案内してもらった洞窟の中で、たくさん海産物が採れたんだ!
これで町の人たちも腹を空かさずに済むだろう。
味見してみないか?
宣教師
こ、このっ……何たる冒涜!
わ、我が兄弟たちよ……私は絶対に、許さな――うぐっ……
ライオス
……
まずいな。また気を失ってしまった。
空腹のせいだろうか?
そうだ! さっきの妙な海草を取ってきて、あのビリビリで起こしてやろう。
チルチャック
どうしてそんな奴をまだ気にかけるかねえ。
ライオス
経緯はともあれ、このご馳走にありつけたのは彼のお陰だからな。
感謝の気持ちを何かしらの形で示しておきたいんだ。
チルチャック
……ほんと理解できねーわ。
ライオス
さあ、たき火がまだ燃えているうちに、海草を拾ってこよう!
二人
食べ足りないだけだろっ!
マルシル
うわぁ、海水が冷たい……
アニタがようやく海辺に駆け付けた時には、すべてが手遅れになっていた。
長らく静寂に満ちていた浜辺へ、久しぶりに人々が集まっている。
遠い海辺に見える四人は裾をまくってご機嫌に海へと入っていき、時折楽しげな笑い声を上げている。
ライオス
こいつ、足の指にかじりついてくるぞ!
マルシル
え? そ、それじゃさっき食べたやつも……
センシ
それも普通のことだぞ、マルシル。
チルチャック
……なあ、後ろで誰かが呼んでないか……?
ライオス
そうか?
おっ、向こうに光るものがあるぞ! 見に行ってみよう!
男性住民
ああ、あああ……!!
あいつら……!
あああっ……!!
そのすべてを眺めながら、アニタはこう思った……
サルヴィエントに吹く海風は、今日はやけに目に染みる、と。彼女は……この人生で起こり得もしないと思っていたことを目にしたのだ。