ヘルシースナック

ライオス
お、終わった? これで全部か?
マルシル
はぁ……はぁ……すっごく疲れた……
開拓者A
はっはっは! お嬢ちゃん、いいじゃねえか! 面白いアーツを使うんだな。俺はやっぱり、術師ってのが一番好きだ!
レイアン
やれやれ……もめ事にならなくてよかった。皆無事で本当に、本当に何よりだ……
開拓者A
よっしゃ、気分がいいから、俺らが作ったトウモロコシを奢ってやろう!
開拓者B
あの、ボス……
開拓者A
ん? ……トウモロコシ?
今の今まで大笑いしていた開拓者は、地面から不意に立ち上がり、ライオスたちに武器を向けた。
チルチャック
はぁ……はぁ……どうやら我に返ったらしいな。てっきり本気で和解してくれんのかと思ったよ。
マルシルが杖を掲げると、魔術でわずかにその髪が揺れ動いた。
レイアン
えっ? なんで? どうしてやり合おうとしてるんだ? たった今一緒に死線を潜り抜けたのに、まだ和解してないのか?
開拓者A
……ふんっ!
二人
はぁ……はぁ……
ライオス
マルシル、魔術はまだ使わないでくれ。
……聞いてくれ。俺たちはみんな、この魔物を倒したばかりで疲れているし、今は戦っても何もいいことはない。
だから、こうしよう。三つ数えたら、全員武器を置き、今夜は互いに迷惑をかけないという約束のもと、各々元来た場所へと戻る。どうだろう?
げほっ、げっほげっほ……! ど、どうだ……ろうか……?
レイアン
彼の誠意を見てくれ。こんなことがあっても、まだ粘り強くこの提案をしてくれているんだぞ! みんな、どう思う?
開拓者B
ボス、俺たちも今日はへとへとですし、このままやっても仕方ないですよ……
開拓者A
……いいだろう。三つ数えたら、今夜はお互い邪魔をしない、ってことでいこう。
レイアン
おお、いいじゃないか!
ライオス
では行くぞ――3、2、1!
レイアン
よかった……今夜は安心して眠れそうだな……
マルシル
Zzz……
ライオス
マルシル……マルシル?
マルシル
Zzz……ん……?
はっ! な、なにかあったの!?
ライオス
いや、そうじゃなくて。
さっきの魔物の身体構造を確かめたくてな。そのついでに……
マルシル
……え?
センシ
あの魔物はカニによく似ていた。ミミックと似た味かもしれんな。
ライオス
あぁ、ミミックはとても弾力があって、噛めば噛むほど美味かったな……
チルチャック
二度と俺のピッキングツールには触るなよ。
ライオス
だけど、本当に便利だったじゃないか!
マルシル
……
ライオス
『ボブのグルメガイド』によると、あの魔物は食べられるそうだ。外殻を剥がすのは少し面倒だが、味は非常に良いと書いてある……食べてみたくないか?
マルシル
食べたくない! それに、奇襲をかけるために戻ったんだと思われたら、また戦う羽目になるかもしれないでしょ!
開拓者A
むしゃむしゃむしゃ……ん?
開拓者B
むしゃ……えっ?
全員
えっ???
鉗獣の足を口に押し込んでいた開拓者たちの手が止まった。
長い静寂の中に、焚き火の燃える音だけが響く。
パチ――パチ。
ライオス
……
開拓者A
……
ライオス
この爪、こんなに肉が詰まっていたのか。これほど重たい身体を支えられるのも、魔術道具を爪で砕けるのも、そのお陰というわけだな……
センシ
腹部からナイフで仕留めた上で、背中の殻を外している。処理の方法もミミックと似たような形だな。
ライオス
それに……ううっ……
なんていい香りなんだ!
開拓者A
あー……食ってみるか?
ライオス
……
……(ぐう~)
ライオスは焼き上がった肉を受け取ると、一瞬ためらってから口の中に押し込んだ。
ライオス
……ん~!!
美味い!!
開拓者A
ははっ、そうだろう! 俺の腕がいいからな……っと、ごほん! ええと……
マルシル
……
ライオス
……君もどうだ?
マルシル
……
……ん……? ほんとに弾力がある! すっごく美味しい!
開拓者B
ほら、お前らも。
チルチャック
えっ? 俺の分も? ど、どうも……
センシ
水分を逃がさぬちょうどいい焼き加減だ。しかし、ミミックの味によく似ている!
開拓者A
ごほんっ、黙って食ってくれ。
それと、このことは他言無用だぞ。俺はメンツってもんを大事にしてるからな。
今夜のことは誰にも言うなよ!
レイアン
……
全員
……
レイアン
(昼間はあんなに激しく争っていたのに、どうして今は一緒に肉を食べてるんだ? やれやれ、慌てて飛んで来るまでもなかったな……)
あー、俺は偶然用を足そうと通りかかっただけで、別に何も見てないぞ、はははは!
開拓者A
*スラング*、まあいい……あんたもこっちに来い! あんたには薬をもらった恩があるからな。
この件はこれで終わりってことに――
……は、できんだろう! このまま放っちゃおけん! お前らはどうして俺の穀物庫を爆破しようとしたんだ?
マルシル
そうしたかったわけじゃない。あなたたちの魔術道具が攻撃をしてきたから、私たちは身を守らざるを得なかっただけ!
開拓者A
ま、魔術道具? ドローンのことか? ありゃおかしくなっちまってんだ、俺の指示なんか聞くわけねえだろ?
マルシル
えっ…… でもあなたたちだって、村から出てくるなり私たちを攻撃してきたじゃない。
開拓者A
それはお前らがこっちの物資を奪いに来たからだろうが!
マルシル
そんなこと――
レイアン
ストップ、ストップ! やっとわかったぞ、全部誤解だったんだ!
ドローンが暴走して彼らを襲ったことで、彼らは攻撃を受けていると思った。一方であんたたちは、彼らが天災の混乱に乗じて物資を奪いに来たと思った――だが、すべては勘違いだったんだ!
それがわかったからには、握手を交わして和解しないか?
開拓者A
……
ライオス
……
開拓者A
嫌だ。
レイアン
はあ、じゃあ今のは忘れてくれ。
まずい……凍らされ……た……!
こう……なったら……まずは、こいつらを……片付けるべきじゃ……ないか……?
レイアン
基地局が破壊されたのか。メンテナンスについては以前少し勉強したから、やってみよう……
チッ! 源石回路に詳しい奴がいたら、手伝ってくれ! それで、残りの人員はドローンに対応してくれないか! まずは爆弾を消費させてほしい! このまま爆撃されてると何もできないぞ……!
開拓者A
よし、俺らはドローンをおびき寄せよう。そっちも速く動け!
開拓者たち
うわああっ!
チルチャック
俺にできるのは、この基地局の外殻をできるだけ早く外すことくらいだぞ。マルシル、この魔術道具は本当に止めらんねーのか? さすがにセンシに料理してもらうわけにもいかないだろ。
マルシル
うーん……うーん……今から新しい魔術体系を勉強するのにはそれなりに時間がかかるし……
ライオス
またあの魔術道具が二つ飛んできたぞ……! 見たところ、移動速度と巡回ルートには規則性がありそうだな……
魔術道具一つにつき、爆弾は一つしか積まれていないようだ。爆弾を投下したら即刻その場を去って行くのを見るに、爆弾を補充しに戻っているのだろうか?
二人
すぐにはいいアイデアが出てこないな……
センシ
わしに考えがある。
二人
っていうと?
センシ
奴らは何を頼りに敵を識別していると思う?
ライオス
あいつらは魔物ではないから「敵」を見分ける目は持っていない。だが、一度しか落とせない爆弾を有効に使うために、敵を識別する必要がある、ということか……?
センシ
そうだ。先ほど気付いたことなのだが、あの魔術道具は死んだ鉗獣にはまったく反応を示していないようだった。
その後、誤って魔術道具の包囲網に入った鉗獣を見た時も、それは同じことだった。しかし、鉗獣が爪を振り上げた瞬間、すかさず魔術道具はそれを攻撃していた。
ライオス
……つまり、「敵意」が鍵か? 敵意を見せたと判断されたら、攻撃を受ける、と?
マルシル
あっ、思いついた! 爆弾を消費させる方法!
ライオス
聞かせてくれ。
マルシル
使い魔を使って、魔術道具を引きつける!
ライオス
使い魔を?
マルシル
複雑なものを作る必要はないし、敵意さえ見せられたら十分だからあの鉗獣を材料にしよう。
あそこに生ってる実も加えてみようか。みんなは材料をまとめておいて。私はそれをどんな形にするか考えておくから……
レイアン
待った、自分の髪を切ってどうするんだ?
マルシル
髪にも魔力がこもってるから、材料にはぴったりなんだ。
小麦粉に砂糖、それからバターも鍋に入れて――あとはなにかモデルが欲しいんだけど……
……
ライオス
ん? どうしてこっちを見てるんだ?
マルシル
わかった、これだ!
(詠唱)……
ライオス
できたか? どうなった?
使い魔版ライオス
……
三人
……
ライオス
俺じゃないか!?
マルシル
よし、まずは練習してみよう……
左、右、左、右……
使い魔版ライオス
(マルシルの動きに合わせて足を動かす)
マルシル
走れ!
使い魔版ライオス
マルシル
行け!!
開拓者たち
うわあああ~~~っ!!
いつになったら直るんだ!? 早くしてくれ、死んじまうよ!
マルシル
安心して、もう大丈夫!
その言葉に喜び振り返った開拓者たちが見たものは、聞いたこともないようなぎこちない声を発しながら、ものすごいスピードで近づいてくる不気味な何かの姿だった。
過酷な荒野に生きる開拓者は、血に飢えた野獣も、あらゆる天災も慣れたものであり、今も数十機のドローンに追撃される壮絶な経験をしているところだが、そんな彼らすら戦慄した。というのは――
一人の男が長い舌を出し、大きく目を見開きながら恐ろしい雄たけびを上げ、四つん這いのまま猛スピードで彼らのほうへ迫ってくるからだ!
使い魔版ライオス
(マルシルの動きに合わせて足を動かす)
開拓者たち
……うわあああああ!! 逃げろーーっ!!!
マルシル
……! あっ、本当に注意を引けたみたい!
このまま人のいない場所までおびき寄せて、爆弾を投下させればいけそう!
ここら辺は平原だし、問題ないかな……
あっ、忘れてた! 向こうには別にこっちの目的地なんて関係ないんだ、もう攻撃が始まっちゃった!
ダメ、この距離じゃまだ近すぎて私までやられちゃう……! もっと離れないと……!
ライオス
よし! マルシルがドローンを連れて向こうへ行ったぞ!
これで爆弾をすべて消費させればこっちのものだ! マルシルは本当にすごいな!
レイアン
あんたらの「魔術」はなんとも不気味……いや、なんともすごいもんだな。
マルシル
うわああ! 思ってたよりずっとしつこい!!
使い魔版ライオス
はぁ……はぁ……
マルシル
えっ、何この音……?
もしかして、攻撃してくる!?
ここ……この辺りでいいかな? もう十分離れたよね? 私も急いで逃げないと! 使い魔ライオス、あとはお願い!
使い魔版ライオス
うぅ……
レイアン
やったぞ、あの子が無事に逃げてきた! ドローンのほうは爆発しそうだ!
バンザーイ! うまくいったんだな!
開拓者A
あの嬢ちゃん、なかなかやるな……これだから俺は術師が好きなんだ……
ライオス
ああ、マルシルはすごいんだ。
センシ
いや待て、確か……
あの場所はトウモロコシ畑ではなかったか?
開拓者A
何だと!?
レイアン
そうみたいだ……
開拓者A
待ってくれ、そっちは俺の畑なんだあああ!!
マルシル
爆発する――
ここに隠れれば……うっ――わああ!!
想像していた通りの爆発が起こった。
すると、トウモロコシのこうばしい香りが突然広がってくる。
マルシルが顔を上げると、まるで時間の進みが遅くなったかのようにして、小さなトウモロコシの粒が空に飛んでいくのが見えた。数十機のドローンの爆撃の中で、白いポップコーンが弾ける。
雪のように舞い上がり、そして舞い落ちたポップコーンは、彼女の鼻先に落ちてくる。
マルシルは自分のしでかしたことにおののいた。
マルシル
……え?
しかしその後すぐに、彼女はさらに多くのポップコーンに埋もれてしまった。
マルシル
うっ……
な、なにこれ……?
???
ポップコーンだあ!
おいら、すっごいんだよ! たとえポップコーンが百個あってもよゆ……いや、百個はちょっと多いかも……でも九十九個なら絶対食べられるよ! うん!
はいやーっ! バン――パン!
こんにちは、おいしいポップコーンのお山さん! おいらだよ!
ライオス
マルシル! マルシル?
チルチャック
マルシル! どこだ? 聞こえるか?
ライオス
まずい、ここじゃ蘇生術は使えないぞ……!
???
あむあむあむ……
センシ
聞き覚えのある音が……
これは、ケオベが食事をしている時の音だ……!
ケオベ
あむあむあむ……あっ、ひげのおじちゃん! みんなもいたんだ!
センシ
ケオベ、なぜここに?
ケオベ
おいしそうな匂いがしたから、来てみたの!
ひげのおじちゃんに、小さいお兄ちゃんに、金髪のお兄ちゃん! ここにポップコーンがあるよ、それにひえひえのフルーツも!
あむあむあむ……それと……あむあむ……金髪のお姉ちゃんも!
マルシル
やめ……て……
髪を……食べ……ない……で!!!
ケオベ
ぺっぺっ! ごめんなさい! わざとじゃないよ!
ライオス
マルシル! 無事だったのか!
マルシル
げほげほげほっ……私はただ埋もれてただけで、爆発には巻き込まれてないから……
ケオベ
わあ~、このとろとろしたやつ、すっごくいい匂い!
しかもひんやりしてるー! ポップコーンとは違うみたい!
マルシル
はあ……まったく……
ライオス
食べてみるか?
ケオベ
あむあむ……冷たくて甘くて、おいしいね!
レイアン
あっ! あんたら、無事だったのか!
ん? ……ケーちゃんか!?
ケオベ
……あれ? 知ってる人だ!
おいらと一緒に狩りに来てた人だよね! 何か見つけた? おいらはたくさん狩ったんだけど、全部食べちゃった!
レイアン
君ときたら……
まあいい。先輩の言った通り、経緯はどうあれ、君を見つけられた以上任務は完了……って、何をほおばってるんだ? 早く口から出せ!
ケオベ
あむあむ!
レイアン
何か食べてるのは見えてるんだぞ! 無暗に拾い食いするなって前にも言っただろ!
ケオベ
あむあむあむ……ごくん!
レイアン
あっ、こら!!!
センシ
問題ない。彼女が食べているのはポップコーンだ。
開拓者A
なんてこった、犬も歩けばポップコーンに当たるってか! このトウモロコシは売り物だったんだぞ!
開拓者B
ボス、そんなこと言わないでくださいよ、自分だってペッローなんですから……
開拓者A
ったく、こんなんどうやって金にしろってんだ!?
レイアン
ポップコーンだって売れるだろう。テントエリアに行けば、きっと誰かが買ってくれるはずだ……
センシ
バターと砂糖を加え、熱いうちにかき混ぜる。うむ……さらに香りが立ってきた! 間食にちょうどよさそうだ。
凍った果物は潰し、ペースト状になった使い魔を加え混ぜてから、スプーンで形を整えれば……アイスクリームの完成じゃ!
よし、素晴らしいデザートができたな!
開拓者A
……
…………
はぁ……はぁ……確かに、ポップコーンだって売れなくはないか……
こうなったら……
とにかく、まずは食おう……
マルシル
げほげほっ……
ライオス
まだ咳は収まらないか?
マルシル
大丈夫、一気にトウモロコシの匂いを嗅ぎすぎただけだから……
だけどこれ、本当に美味しいね……
ポップコーンは熱々で、バターの香りがして、甘くてサクサクだし……
アイスクリームも美味しい! フルーツがすごく新鮮で、口当たりが滑らかで……
チルチャック
おまけに魔物の肉ではないときたもんだ。
マルシル
ん~…… 幸せ……
レイアン
ふぅ……ようやくひと段落ついたな。
ケオベ
ん~……えへへ……アイスクリーム、おいし~い……
レイアン
はぁ……つくづく世話の焼ける子だ。
おーい、俺はこの子を連れて戻るから、あんたらはもうあの連中とモメないでくれよ。
開拓者A
はいはい、わかったよ。
レイアンはそう言うと、満腹になって地面で眠り込んでいるケオベを引っ張り起こし、近くに止めていた車へ連れて行った。
そうして、エンジンをかけるとそのまま走り去ってしまった。
マルシル
あれ――ケーちゃんは?
開拓者A
あの小娘のことか? レイアンが連れて行っちまったぞ。
マルシル
レイアンが? どうして?
開拓者A
確か、ロドスの任務とかどうとか言ってたな。
マルシル
えっ、ロドス!? あの人、ロドスの人なの?
開拓者A
どうしてそんなに驚いてるんだ?
マルシル
ライオス!
ライオス
ロドスはこの近くにあるのか?
開拓者A
お、おう。今はここから数キロ離れた場所に停まってるぞ。
ライオス
まだ遠くまでは行っていないだろうし、今から追いかければ間に合うはずだ。
マルシル
行こう! また見失ったら大変!
ライオス
ああ。
開拓者A
……ん?
開拓者B
あいつら、何の話をしてるんだ?