驚きに満ちた再会
エリジウム
腕も足もまだついてるし、顔も傷一つない。ちょっと日に焼けたくらいかな……
ほんと、無事でよかった! ここの海賊たちが冷酷無比な大量殺人鬼だって聞いて、僕がどんなに焦ったか!
イシドロ
……そんな話、どこで聞いたんだ……
エリジウム
ここへ来て君を救い出すために、どれだけ勇気を振り絞ったと思ってるの? ウィーディはまだ町にいるから、すぐ彼女に……
イシドロ
……
エリジウム
(小声)準備ができたら、彼女に連絡するから、なんとかしてここを抜け出そう!
イシドロ
以前試したが、無理だった。それに、しばらくはここを立ち去るつもりもない。
エリジウム
どうして? まさか本当に噂通り海賊の仲間になっちゃったの?
(小声)正直に話してよ。この辺境で海賊として生きることに、本気で未来があると思ってるのかい?
イシドロ
……別に海賊になるつもりはない。
俺がここに留まっているのは……昔逃避した錬金術の研究と、もう一度向き合いたかったからだ。これは心相原質を搭載したコンパスでな。おそらく、もはやこの一つしか現存していない。
それに……コンパスを修理すると、彼らに約束したんだ。これがなければ、彼らは生きてはいけないだろう。
エリジウム
だったら……これからもずっと、あの人たちと一緒に行くつもり?
イシドロ
いいや。コンパスを直し終わったら、海賊たちは塩海を離れて海へ向かう予定だが――
俺は残って、引き続きイベリアで己の剣術と錬金術を磨く。
エリジウムは己の友人が少し変わったように感じて、イシドロの肩をぽんと叩いた。
エリジウム
どうやら、色々と思うところがあったみたいだね……まあ、それならいいか。
そういえば、外にいるあの女の子は、何のために僕をここに寄こしたんだっけ?
イシドロ
コンパスの修理過程で、操作の補助要員が必要なんだ。
エリジウム
そのくらいなら簡単だね。ロドスにいる時と同じように、助けが必要になったらいつでも言ってよ。
イシドロ
ああ。
その時はまた声をかけよう。
イシドロは金属の成型台の前に立った。その手に握られた探針は、振るえば鋭い音を立て、その軌道に沿って次第に精密なアーツの力場が作られていく。
彼は慎重にコンパスのカバーを取り外すと、成型台に置いた。するとコンパスの中で固まっていた流体の物質が、ゆっくりとアーツの流れに従って波紋を広げ始める。
アーツのエネルギーと心相原質が照らし合い、淡い金色の光が工房の隙間からこぼれて、船外の塩の砂漠を照らす。
すると、見たこともない光景に惹かれて、船員たちが次々と集まってきた。
扉の外の船員
あいつら何やってるんだ?
興味津々な船員
例の外から来た坊主が、「れんきん」? とかいうのをやってんだが……この光、なんか面白えな。
顔をのぞかせる船員
見せて見せて……
イシドロ
……
エリジウム
ほんとだ、なかなかクールだね。君が持ってるそれは何だい?
興味津々な通行人
見て、あの子が持ってるあれは何かしら?
蔑む通行人
どうせ大したもんじゃないだろ。大方、また子供が食べ物を恵んでもらおうとやってる手品さ。
興味津々な通行人
じゃあいいわ、もう行きましょ。うちも食べ物に余裕なんかないしね。
蔑む通行人
ハッ、目障りなガキめ……
幼いイシドロ
クッキーひとつでマジックショーを見せますよ、今のうちにお見逃しなく――
うっ……
冷たい通行人
道を塞ぐな。端に寄ってろ。
幼いイシドロ
(小声)っ、クソ野郎……
イシドロ
……
エリジウム
えーっと、外に大勢集まってるけど、邪魔になったりしないかな?
人払いしてこようか?
イシドロ
いや、問題ない。お前がそばでぺちゃくちゃ喋っていると、ロドスに戻ったような気持ちになるからな。彼らがいたくらいでは邪魔にはならない。
イシドロが手元の作業を止めることはなかった。探針は、アーツの力場の中で、揺れ動く心相原質と踊っているようでもある。
彼の手のひらから生まれた光は、窓の外にいる人々にしてみれば、飢えと渇きの中で突然現れた白昼夢のようだった。
扉の外の船員
こんなの見たことあるか? あの坊主、マジですげえんだな。
興味津々な船員
ずっと昔に、キャプテンが似たような話をしてたって聞いたことあるよ。大きな街には手品師がいて、こういう手品を見せてくれるんだって。
顔をのぞかせる船員
きれいだなあ……
イシドロ
見たい奴には好きなだけ見せてやればいい。あいつらが急になだれ込んできて、俺を縛って食べ物と引き換えにどこぞへ引き渡さない限りは、構わないさ。
エリジウム
……確かに、彼らはやりかねないけどね。やれやれ、どうしてそんなことができるんだか。
イシドロ
……食べるものがなければ、皆そうなる。
恥ずかしがる子供
ねえ、お兄さん……
幼いイシドロ
何か食べ物は持ってるのか?
恥ずかしがる子供
も……持ってないの。リボンをあげるから、それじゃダメ?
幼いイシドロ
ダメだ。食べ物でなければ受けない。
恥ずかしがる子供
でも、わたし……自分の食べる分もないの……
親切な通行人
クッキーがあればいいんだね? 何枚か持ち合わせがあるから、君にあげよう。その代わり、このお嬢さんにショーを見せてあげてくれないか。
幼いイシドロ
わかった。それならやろう。
少年の手の上で金属が流体となり流れ出し、暗闇の中で目まぐるしく色を変えていく。
道行く人々も思わず集まってきて、嫌悪感をあらわにして口々に罵りつつも、その光から目をそらせずにいた。
この荒れ果てた通りに、これほど明るいものが現れるのは本当に久しぶりのことだったのだ。
恥ずかしがる子供
すっごくきれい……もっと近くで見てもいい?
幼いイシドロ
好きにしろ。
少年が指を動かせば、流れる金属は天高く飛ぶ羽獣となり、かと思えば今度は一瞬にして手のひらを跳ねる鱗獣になり、そして鼷獣になったと思えば駄獣になり……
輝く金属の駄獣は群衆の中を駆け回って、星のきらめきのようなかけらを空中に残して漂い消えていく。
興味津々な通行人
わあっ!
蔑む通行人
こんなもんただの……
興味津々な通行人
黙って見てなさいって。
冷たい通行人
最後に花火を見たのはいつだったかな……
もうずっと……ずっと前のような気がする……
恥ずかしがる子供
花火……? って、何?
見物していた子供は勇気を出して手を伸ばすと、舞い落ちる星のきらめきを掴んだ。すると指先から温かさが伝わって、彼女は思わず震えた。
親切な通行人
君は大した子だ。この場にいる人々に、稀有な笑顔をもたらしてくれたのだから。
幼いイシドロ
俺は食べ物が欲しかっただけだ。
親切な通行人
へえ……そうかい?
それなら、なぜ君自身も笑っているのかな。
探針の導きに従って、心相原質は大気中で曲がりくねり、銀河のように流れていく。
その傍ら、船員たちはどんどん集まってきて、窓には様々な人の顔が並んでいく。飢えと渇きで疲弊した彼らの顔が、この瞬間はイシドロの手中の光で鮮やかに照らされていた。
エリジウム
今のはちょっとパフォーマンス寄りにしてたよね、ブラザー。
僕が見逃すとでも思ったの?
イシドロ
……
ここまではただ、錬金用の設備とコンパスの状態を確かめていただけだ。この先は本格的に、心相原質の中から錆びて変質した部分を分離していく。
彼らと約束したんだ……俺にはできる。
パスクアラ
ねえ、あんたたちどんだけ話し込んでたの?
エリジウム
久しぶりに会ったから、積もる話が色々あったんだよ、ボス。それより、まさかここにずっと座って僕を待ってたのかい?
パスクアラ
ボスなんてやめてよ、仰々しい。「おでこちゃん」って呼んで。友達はみんなそう呼んでくれるんだ。
エリジウム
へえ、これからは僕を友達扱いするつもりなのかい?
パスクアラ
そうだよ。あたしが友達として一肌脱いであげてなかったら、あんたは昔馴染みを見つけることなんてできなかったでしょ。
エリジウム
(この子、どこまでも事実を歪曲してくるなあ……)
それじゃあ……友達として、君は僕をなんて呼んでくれるのかな?
パスクアラ
呼び方なんて、なんだって変わらないでしょ。なんとでも呼んであげる! それよりも、イシドロ様が何て言ってたのか知りたいんだけど。
あの人、あたしに手を貸して、守ってくれるかな?
エリジウム
おっと、長話をしてたら君のことを話すのを忘れちゃってたよ。でも、君が僕にもっと素敵な言葉をかけてくれたら、僕も明日は覚えておけるかもしれないなあ。
パスクアラ
お願い、尊敬すべき赤髪の紳士様! 超素晴らしいリーベリ様! 大地で一番ハンサムなお兄様~!!
エリジウム
うーん、気持ちがいいね! もっと言ってくれる?
パスクアラ
(は? ふざけんなよこのバカ鳥が!)
(いつか絶対その赤毛を引っこ抜いてやるからな!)
エリジウム
……
まあ、こんなところでいいかな。友達のところに連れてきてもらったことに免じて……
エリジウムは手を伸ばすと、目の前の少女を――小柄ながらも言動の成熟した、悪辣とすら言える少女をぽんと撫でた。
エリジウム
こんなに小さいのに、盗賊の根城で頑張らないといけないなんて、君も苦労してるよね。何か本当に解決できない大きな問題でもあるのなら、僕のところに来るといいよ。
僕はとっても良い奴だからね!
パスクアラ
……は?
……はあ~~??
ハッ、誰があんたなんか信じるかっつーの! 大口叩きやがって!
やっぱ頼れるのは自分だけだね!
飢えた船員
もう一個くれるか、おう、どうも。
武装修道士
……
飢えた船員
そのパンは……もぐ……も、もう一皿くれ!
シルバー
(小声)生まれてこの方食事を取ったことがないのかという食べっぷりだな……
アナスタシオ
(小声)傲慢にもあれこれと要求してくるこの姿、見覚えがあるとは思いませんか?
(小声)彼らが食料庫から略奪した時と今とで、一体何の違いがあるというのでしょう?
シルバー
(小声)私は、別段彼らを変える必要はないと思っています。
こほん……君たちはすでに、何度もアーロンを訪れたことがあるだろう。友好的とは言えない形だったが……
それでも、今回は君たちの訪れを歓迎し、今後の話し合いに期待を抱いているんだ。
満足した船員
ゲプッ――
(手を上げる)
シルバー
ハンカチは必要かね?
満足した船員
いや、袖で拭くからいらねえよ。
シルバー
ああ……そ、それもそうか。
(小声)やれやれ……いったい誰がガーリックパンなど用意したんだ……
アナスタシオ
(小声)あなたは、ご自分が本気で彼らを受け入れられるとお思いなのですか?
シルバー
(小声)それが町のためになるのであれば。
食事に満足したようであれば、話し合いを――
満足した船員
もっとパンをくれ。持って帰りてえんだ。
シルバー
食事はもうお終いにしよう。それより――
満足した船員
なあ、後ろに控えてる兄さん。隠れてないで出てこいよ。話をしようぜ。
アナスタシオ
……?
満足した船員
決定権を持ってるのはあんただってことは見りゃわかる。だからあんたと話したいんだ。
アナスタシオ
……交渉は審査官の役割です。シルバー閣下と話してください。
シルバー
……
フアナ
いつからここで待ってたの?
ハビエル
朝からです。
フアナ
そう。私はプライベートな用事で出かけてたんだけど、ティーチからそう聞かなかった?
ハビエル
これまでは、あなたがプライベートな用事で気をもんでいるところなんて見たことがありませんでした。ですからてっきり……船団内のことが、あなたの生活のすべてを占めているものだとばかり。
フアナ
そうよ、あなたの思ってる通り。
それで、用事は?
ハビエル
もし……海に出る以外に活路があるとしたら、コンパスの件は諦めてもらえませんか?
フアナ
その活路について、まずは話してみなさい。
ハビエル
アーロンから逃げてきた連中が言ってたんです。コンパスとそれを盗んだ犯人を差し出しさえすれば、俺たちは罪を許されて、町に住むことができるし、どこかへ行くにも邪魔をされないと。
フアナ
それを信じるの?
ハビエル
確認を取ったんです。
フアナ
いつの間に? 私はそんなこと聞いてないわよ。
ハビエル
フアナさんはまだ療養中ですし、煩わせたくなかったんですよ。
フアナ
……そこまで気を遣ってくれなくていいのに。
ハビエル
あなたは俺を育ててくれた人なんですから、当然のことです。
フアナ
思えば、あっという間に背丈は追いこされちゃったわね。
ハビエル
ガキの頃はいつも、早く大きくなりたい、強い男になりたいと思ってました。あなたの苦労を一緒に背負いたくて。
思うに今は、その願いも叶ったと言えるのかもしれません。
フアナ
いくつになっても、私の中ではあなたはいつまでも子供だけどね。
ハビエル
だったら、俺の考えはどうですか? あなたの目から見れば、やっぱり子供の考えでしょうか。
フアナ
……
いいえ。それは子供の考えではなく、大人のする軟弱な妥協よ。
私は死んでも奴らには屈しないわ……
あなたと一緒に育った仲間のうち、一体何人が奴らの手で命を落としたと思っているの?
ハビエル
もちろん、忘れちゃいませんよ……
フアナ
私は今でも覚えているの。一番苦しかったあの頃に、私たちがいかにしてあの連中を助けてやったかを!
私とクルーズは船員を率いて、町の連中のために襲い来るシーボーンを追い払った!
それに、奴らが同胞の死体を食べずに済むように、わずかな食料を分けてあげさえしたわ!
それなのに、奴らは裁判所がやってくるなり、私たちを容赦なく塩海の奥へ追いやったのよ!
奴らが見て見ぬふりをしていなければ、クルーズがあんな目に遭うこともなかったのに!
私は絶対に、あの恩知らずどもに屈服なんてしないわ……
私は、あなたたち全員を愛しているのよ、ハビー。信じてくれようと、くれまいと……あの頃共に波の中で命を懸けて戦っていた仲間を愛していたのと同じようにね。
彼らはもうとっくに死んでしまったけれど、あなたたちには今もかすかに彼らの面影がある。血の繋がりというものの神秘には、つくづく感嘆するわ。
だからこそ、私には許すことなんてできないの……どうかわかってちょうだい、ハビー。