止めないで

セイロン
シュヴァルツ、わたくしがヴィクトリアで過ごしてきた日々に、無駄な時間はありませんでしたわ。
わたくしはそこで、天災と源石に関わる最先端の科学技術を学びましたの。
貴方からすれば、おとぎ話に聞こえるかもしれないけど、わたくしからすればごく当たり前で、そして今まさに起きようとしていることなのよ。
今まで学んだ知識、そして信じる理論が、わたくしの判断の正しさを裏付けているの。
シュヴァルツ
左様でございますか。ですがお嬢様が学ばれたのは、あくまで科学であり、誰かを裁く法学ではないと存じますが?
セイロン
えっ……?法学ですって?
シュヴァルツ
ロドスはシティホールで何をしているのです?
セイロン
クローニンさんの罪の証拠を集めてるわ。
シュヴァルツ
罪?
セイロン
クローニンさんは悪人ですけど、頭が悪いというわけではない。
そう、彼がいま起きている事態に気付かないはずありませんもの。
彼が事実を故意に隠蔽しているのは、何か意図があってのこと。ですから、わたくしたちは秘密裏にそれを裏付ける証拠を集めて…。
シュヴァルツ
ロドスのその方たちとクローニン様は、真正面から衝突することになるでしょう。密かに証拠を集める余裕なんてあるわけがありません。
セイロン
……。
だ、大丈夫ですわ! 貴方が加勢しなければ……。
シュヴァルツ
お嬢様、あなたがそうまでされる理由をお聞かせください。もしそれに納得できるのであれば、ロドスを追うのは諦めますから。
セイロン
……そうするしかないからよ。わたくしはお父様が血も涙もない人だなんて信じない。お父様がいたら絶対にこんなこと見過ごすはずないもの。
お父様はこの都市を愛している。誰よりも。わたくしよりもそのことを知っている人などいないわ。
シュヴァルツ
もしかして旦那様のこと、恨んでおられないのですか?
セイロン
どうして? 恨むというのなら、お父様がわたくしを恨むのが正しいのではなくて? わたくしを生むために命を落としたお母様のことで……。
でもお父様は、一度もそんな素振りを見せたことはないわ。
わたくしがお父様の事を嫌うとしたら、何も言わずに全てをお膳立てしてしまうところだけよ。
周りからすれば、確かにお父様はわたくしを守っているように見えるでしょう。ですがその結果、わたくしには何も知らされず、行動を起こすこともできないの。
セイロン
今回だって同じよ! クローニンさんがお父様を騙して、火山が噴火することを隠しているに違いないわ。
だからお父様もクローニンさんにわたくしが警報を発信するのを止めさせようとしているに違いありません! これには恨みなんて関係ないでしょう?
シュヴァルツ
えっ……。お嬢様……いまなんと? 火山が噴火?
クローニン様が言うには、お嬢様は旦那様の過去に関わる機密事項を全て暴露することで旦那様を市長の座から引きずり下ろし、裁きを受けさせるつもりだと……。
セイロン
えっ? 違うわ。お父様は過去に何かなされたの?
シュヴァルツ
い、いえ、なんでもありません。
……なるほど、そういうことでしたか。ようやく分かりました。
セイロン
つまりクローニンさんも、お父様の命令でわたくしを止めようとした訳ではないのね。ふぅ……わたくしもある程度、状況が理解できましたわ。
シュヴァルツ……。もし、わたくしが貴方の言う通りのことをするなら、もっと法的効力を持った方法でやりますわ。
わたくしがやっていることは、この都市の、わたくしの故郷のためです。
シュヴァルツ
お嬢様がやろうとしていることは、過去への糾弾でも自身の名誉を守るためでもないことが、よく分かりました。
私もお嬢様と同じです。そして旦那様も。
セイロン
ええ、わたくし、他の人になんと言われようと、貴方を、そしてお父様を信じますわ。
でも可笑しいわね。わたくしたち二人、今までお互いの認識がズレていただけなのに、それにはまるで気が付かないなんて。
わたくしを知り尽くしている貴方だからこそ、認識のズレがあってもわたくしがここに来ることが予測できたのね。
でも、わたくしも、貴方なら自らわたくしを止めに来ると予測していたわ。
セイロン
お父様は、いつもこの都市のことを第一に考えていらっしゃるわ。もし市長でなかったとしても、それは変わらないと思うの。
だから、お父様なら必ずわたくしの考え方に同意してくれるはず。
シュヴァルツ……わたくし、間違っているかしら?
シュヴァルツ
……大きくなられましたね……お嬢様。