解けない謎
酔っぱらいの職人
おお、慈悲深く勇敢な建国の英雄ケレセイラよ、夜闇にさえもあなたの輝きを覆い隠すことはできませんね!
第一神殿へのご加護に感謝いたします。我らの抱える難題を解決して、あなたの神殿を修復すべく、二人の賢者を遣わしてくださったのですから。
あなたのリラの代わりに虫の音が鳴り響き、冠は後世の者の手で勝利の形へと編み上げられ、月の光は――
ああ、失礼しました。今あなたが身に纏う輝きは月の光ではなく、我らが先週取り付けた照明でしたね。
ごっくごっく……ぷはぁ!
理性的な職人
……
お前なぁ、飲みすぎるなって言っただろ。今夜は投票をしに来たんだってこと、ちゃんと覚えてるか? 陶片に字を刻む時、間違って自分の手を傷つけないようにしろよ。
酔っぱらいの職人
もっちろん覚えてるわよ。私はティティさんの責任者就任への賛成票を投じに来たんだから!
あの人は恩人なのよ。実は昨日、一人で神殿の奥の彫像を調整していたら、うっかり転びかけちゃってね。その時彼女がアーツで助けてくれたおかげで、私は今もこうしてお酒を飲めてるってわけ。
理性的な職人
うーん……
???
危ない!
その瞬間暗がりから、柔らかく白い布帯が、意思を持っているかのように何本も伸びてきて、酔っぱらったフォルテの女性へと飛んでいき、彼女を支えた。
そうして、彼女の無事を確かめると、その布は力を緩め、思いがけず乱れた彼女の髪を撫でて直したあと、その頭の角を軽く叩いた。
酔っぱらいの職人
ね? こんな感じで帯に助けてもらったの! 不思議でしょ?
んん? ティティさん、どうしてここに? そうだ、一緒に飲みましょうよ。
ティティ
パラスから話は聞いてたのよね。運搬チームに、お酒が好きで、小柄だけど力持ちな、よく転ぶ子がいるってこと。
だけど、まさかたった三日のうちに十回も転ぶところを見るとは思わなかったわ、カンティア。
酔っぱらいの職人
助けてくれてありがとうね、ティティさん。
理性的な職人
こいつはミノス人としては酒の強さは普通くらいで、あんまり多くは飲めないほうなんだがな。ミノスの人間はたしなむ程度の人間が多いのに、気持ちだけは立派な酒好きに育ったもんだ。
ティティ
あはは……
理性的な職人
だが、こいつの言うことには一理あるかもな。ティティさんも、一杯飲んでおいたほうがいいんじゃないか?
ティティ
私……緊張してるように見えるの?
理性的な職人
顔にこそ出てないが……ここ数日一緒に過ごしてきたからな。俺たち建設隊の人間は全員わかってるのさ。お嬢さんのしっぽは隠し事ができないってことをな。
ティティ
うっ……
理性的な職人
緊張をほぐすために、ちょっとクイズでもしようか。今足場の下にいる、あの灰色のしっぽに葉っぱの輪飾りをつけた奴は誰だ?
ティティ
塗装班のセラフィムさんでしょ。たくましい塗装工さんと一緒にしておくと、怒られまいとしてやる気を出すから、彼が怠け者を自称してても誰も信じてないわよね。
理性的な職人
じゃあ向こうの、隅っこのほうでうずくまって、誰にも声すらかけないエラフィアは?
ティティ
彫刻班のレフテリアさんね。いつも日が当たらない場所にいるけど……二言、三言話しただけでも、自分の作品にまっすぐな人だってことはわかったわ。
理性的な職人
ほとんどの職人は、今でもレフの存在すら知らないくらいなのに、あんたはそうしてちゃんと把握してるよな。
ティティさん。ほかの連中があんたとその立場のことをどう評価するかは知らないが、俺からすれば、あんたはもうこの建設隊の一員だよ。
ティティ
……!
ありがとう、マノスさん。
カサンドラ
ご友人を励ましてあげなくて良いのですか? 彼女は少し緊張しているようですが。
パラス
他者を気遣うのはあなたの得意分野ではありませんか。
今のティティに必要なのは友の励ましではなく、建設に携わるミノス人からの支えです。
カサンドラ
そうですか。時に、あちらの親切な職人二人が声をかけるまで、メジェティクティさんはずっと演説のために用意した言葉を暗唱しているようでしたが……
彼女は舌がもつれた時、無意識に自分のしっぽを掴んでしまう癖があるようですね。二回ほど、誤ってそばにいたペットの毛を掴んで怒らせていましたよ。
パラス
そこまで見ていたとは。どうやらあなたも、ティティを気に入ったようですね。
カサンドラ
……
今ある事実だけでは、彼女が信頼に足る人物だと証明することはできません。私はただ、偏見を理由に、己の目で確かめる権利を放棄したくないだけです。
あなたは最初から、彼女こそが責任者に最適な人物であることを見抜いていたようですし、その判断は尊重するつもりです。
今宵、ケレセイラの双眸に迷える者の姿は映っておりません。皆がそれぞれの決断を胸にここにおりますから、英雄の代弁者による慰撫の言葉など不要でしょう。
ゆえに私は、お先に失礼いたします。個人的な用事がありますもので。
パラス
もう行ってしまうのですか?
神殿再建の表向きの主導者である祭司が投票に参加していないとなれば、何らかの示威行為だと監督官さんに曲解されかねませんよ。
カサンドラ
大丈夫ですよ。私の陶片はもう投票箱に入れてありますから。それに、リディアさんが本気で神殿祭司の粗探しをするつもりなら、そんなあからさまな口実など必要ないはずです。
パラス
交換の儀が第一神殿で行われるのならば、英雄たちをお呼びする演劇の儀式は……
カサンドラ
その件なら、リディアさんともう一度話し合って、せめて演目を選定する権利だけでも、アテヌスの祭司に返してほしいとお願いするつもりです。
詳しいことは、また別の機会にお話ししましょう。まずは今夜の投票が上手くいくよう祈っています。
ティティ
――以上のことから、ここ数日この場で見学させていただいた内容を踏まえ、石材の問題が解決した今、当神殿の主要部分はほぼ完成していますので、見学者の受け入れも検討して良いと思います。
最後の仕上げを計画通りに終えて、一つ一つ検査をしていけば、数日後には実用に耐えうる状態になるでしょう。
加えて、交換の儀を広場で行うことになっても、必要な作業量はさほど増えないと思います。ただ空間を確保したうえで、バックヤードとして使う区画を一つ設けるだけで足りますから。
ほかの部分には変更を加えずとも済みますし、全体が完成してから全面的に市民に開放していけばいいと思います。
そちらに際して、私は施工関係の専門知識と経験をもとに、実行可能なプランを策定していくつもりです。
私が当選した暁には、明日から正式に作業に参加し、皆さんと共にこの壮麗なケレセイラ第一神殿を完成させていきたいと思います!
リディア
……
ペリアンドロス
いやはや、今宵の神殿広場は盛況そのものですね。どうやらメジェティクティさんは、誠実な方であるのみならず、人に好かれる才能をお持ちのようだ。
無事就任が決まれば、彼女は両国間の友好関係にも、神殿の仕上げ作業にも、大いに益をもたらしてくださることでしょう!
リディア
あなたは何が目的なのですか?
ペリアンドロス
仰る意味がよくわかりませんね。私は、ご招待に応じ馳せ参じた客の一人にすぎないのですが。
リディア
コリニアの商人の子が、私とサルゴン大使の話し合い中に偶然通りかかり、気まぐれに提案してきた解決策が採用され、今宵の投票の儀が成立した……
このすべてが、ケレセイラのご加護だとでも?
ペリアンドロス
何がご不満なのですか?
ところで、伝統に則るならば、ご加護を受けたミノス人はその翌日に神殿へ赴き、祭司の元を訪れて、英雄の祝福を授かったことを告白せねばなりませんよね。
もっとも、たとえエンディミオン神殿が執務室の近くにあったとしても、あなたがカサンドラ祭司の元を訪れることはないのでしょうが。
リディア
……
余計なお世話というものです、ペリアンドロス祭司。
ペリアンドロス
ともあれ、メジェティクティさんの就任は、あなたからすれば単なる外交上のパフォーマンスには留まらぬものでしょう。私もあなたも、ミノス自体の問題を憂う身ですからね。
リディア
要求があるのなら述べてください。ですが、どれほど巧みに弁舌をふるったところで、取引の条件を提示しなければ、私を頷かせることはできませんよ。
ペリアンドロス
ははっ、そう慌てないでください、監督官殿。
商人は何よりも信用を重んじるもの。すべてが片付いたあとに、こちらから商談に伺わせていただきます。
今はまだ、その時ではないということですよ。
リディア
……
パラス
では皆様、伝統に則り、まずはお手元の陶片の背面に、責任者就任に対する「賛成」あるいは「反対」の文字を刻んでください。
その後、背面を下にして、こちらの投票箱にお入れください。
全員の投票が済み次第、我々が最終的な投票結果を集計します。
この際に「賛成」が過半数を超えた場合、ティティ……メジェティクティさんは、文化財交換の儀が完了するまで、神殿建設の責任者となります。
それでは、開始いたします。
ティティ
……
人々は次々と前に進むと、陶片を投票箱へ入れていく。
投票箱の設置場所はティティの立つ広場の中心からはやや離れたところにあったが、それでも彼女には、この数日で知り合った友人たちの笑顔が見えていた。
視線が合えば、彼らはティティに頷いてみせる。
その陶片に刻まれた文字こそ見えなかったが、ティティには彼らがどちらの票を投じたのかが伝わっていた。
自分がミノスの神殿建設を取り仕切ることになろうとは、誰に想像できただろう、と彼女は思った。パーディシャー・マラの時代においてすら、これは非常に名誉ある仕事だったからだ。
アテヌスの民は彼女に、この上ないほどの好意を示してくれた。そのことに、どう報いるべきなのだろうか?
???
ハッ、バカげているな。
その時、唐突に響いた声がティティの思考を断ち切り、広場のざわめきまでもが瞬く間に静まり返った。
憔悴した男
今年は1100年だったはずだよな。
百年前に戻ったかと思ったぞ。サルゴン人がまた俺たちを支配しに来たのかと。
パラス
……
戦争はもう終わったのですよ、メイガス。
憔悴した男
あんたからすればそうかもしれんが、俺にとっては違う。
サルゴンの連中は今も最悪の夢の中にばかり現れて、決して俺を逃してはくれない。
あんたたちみたいに、俺も忘れられたらと思ったことはある。だが英雄は夢を介して、それを許さないと告げてきたんだ。
パラス
あなたの夢を解釈して、祭司がそう言ったのですか?
憔悴した男
……
いいや。だが、繰り返し見るあの夢は、英雄が与えた指示に違いない。彼らの意図は俺だけが知ることだ。
だから俺には、サルゴン人と笑顔で語らい、働くことなんてできない。
たとえ皆が、そのサルゴン人の行いは正しく、もたらす結果も良いものだと言ったとしても、俺には受け入れられないんだ。
そのミノス人はティティには目もくれず彼女の前を横切っていく。
そうして彼は、投票箱の前を通ると、無造作に陶片を投げた。それは箱をかすめて転がり落ち、その背面が上を向く。そこには、何も刻まれていなかった。
ティティはそれを見て悟った。この男は、サルゴン人への憎悪が深すぎるあまりに、この投票に参加して反対の意思を刻む価値すらないと考えたのだと。
彼女は、強く頬を打たれたかのように感じた。顔が火照り、その一方で背筋は冷えて震えが走る。
急激に、周囲のすべてがはるか遠くに行ってしまったようで、人も声も、すべてが分厚い膜の向こうにあるかのように、近づきようがなく感じられた。
隣にいたパラスは、一歩前に出たようだった。近くにいる職人たちも、心配そうにティティへ目を向けてくれている。
ティティは、大丈夫だと伝えたかった。悪行を重ねた侵略者たるサルゴン人が遣わした平和の使者として、侮辱を受ける覚悟はできていたはずだった。
さらに言うなら、あのミノス人とて彼女を侮辱したわけではなく、単に共に働きたくはないと表明しただけだ。誰しもすべての人から好かれることなどできないし、それでもいいはずだった。
彼女は笑おうとした。メジェティクティ゠ナストゥ゠マーシャイェルのトレードマークである、朗らかで無邪気なその笑顔は本来、博物館を訪れる人々の心を打つようなものだった。
しかし、言葉は喉に詰まり、笑うことすらできなかった。
陶片を投げ捨てたミノス人の言葉が、頭の中で反響する。彼女はアテヌスに来た初日、渡し場で問いかけてきたあの渡し守を思い出していた。
職人たちと過ごした時間は決して偽りではなく、彼らは今も自分を信じてくれている。
だが、見知らぬミノス人からすれば彼女という人物は、奇想天外な発想を持ち、ミノスの伝説を愛するティティではなく、一人のサルゴン人なのだ。
ミオ
……
もう皆解散しちゃったし、像を照らしてた照明だって消えたのに、まだそこで縮こまってる気か? あのフォルテの小娘も、職人たちも、お前のことを心配してるみたいだぞ。
まさか、皆が休んだ後に、お前の両手とボロ帯だけで徹夜で神殿を修繕して、ミノス人にお詫びしようだなんて思ってないよな?
ティティ
……
ミオ
はぁ……さっきからずっとお前の周りを回って合図を送ってたんだぞ。少しでもこっちを見てくれてたら……お前は何かおかしいと思わなかったのか?
あの嫌味な副使は口実をつけてこの投票の儀式への出席を避けてたし、あのリディアって監督官も明らかに何か裏があるのに、お前ときたら自分から罠に飛び込んじゃうなんてさ。
今の自分を見てみろよ、すっかり取り乱しちゃって!
ティティ
……
ミオ
おいおい、泣いてるのか? こんなの大したことじゃないだろ。僕なんか、あの黄金の都市で――強者が得をし、弱者が虐げられるのが日常になってたあの場所で、このくらいのことは何度も見たよ!
それに、お前が悲しんでるのは、あいつらに利用されたからじゃないんだろ?
言わんこっちゃない。パーディシャーから任務を受ける時に伝えたはずだろ。この旅はきっと楽しい観光なんかにはならないぞって。
忘れがたい歴史も、未だに癒えない傷跡を抱えるミノス人も、サルゴン大使としての立場も、すべてがお前に何度も突き付けてるはずだ。お前の仕事は、単なる文化財交換じゃないってことを。
ティティ
……
尊大なその生物は珍しく心配そうな表情で、袖の下からティティの顔を覗き込もうとした。しかし残念ながら、うつむいたままの彼女の顔はよく見えなかった。
ミオはため息をついた後、頭でティティの手を軽く押すと、彼女のそばで丸くなり、自分を撫でろと促した。
ミオ
ほら、早くしろ。もふもふは人を幸せにするって、お前が言ってたことだろ。
今回は特別に、僕のしっぽを撫でてもいいし、憂さ晴らしに背中の毛をくしゃくしゃにしてもいいし、僕の毛並みで涙を拭いてもいいぞ。
……
やっぱり、涙を拭くのはナシだ。濡れるのは嫌だし。
あーあ、僕ときたら、どうしてこんなに弱っちくて、あちこちで面倒起こす小娘を選んじゃったのかな。おまけにこうして慰めてやらなきゃいけないなんて。
ティティ
ふふっ……
私が弱い子だったなら、グランドバザールを離れる時、私を選んだりしなかったでしょ?
ミオ
やれやれ、偉そうに何言ってんだか。まあ、今は落ち込んでるみたいだし、大目に見てやるよ。次はないからな。
ティティ
ありがとね、ミオ。
ミオ
元気は出たか?
ティティ
うん。賛成票を投じてくれた人がいる以上、その人が寄せてくれた信頼と期待に応えなくちゃ。
マノスさんも言ってくれたでしょ。私はもう建設隊の一員だって。
それに、一つの家族の中にさえ、嫌いな人や、一生疎遠のままの親族がいるものじゃない? そう思えば、私は今、サルゴンに傷つけられた国にいるんだからこのくらい当然よ。
私にはミノスの伝説の英雄のように、音楽や詩や弁解の言葉で、すべての問題を奇跡でも起こすように解決することはできない。
できることなんて、このケレセイラ第一神殿を一日も早く完成させて、とうに返還されているべきだったミノスの物を、彼らの手に、そしてケレセイラの元に返すことだけよ。
月明かりがケレセイラの顔を照らし出す。彼女は今も桂冠を戴き、弦を爪弾きながら、遥か彼方を見つめていた。
ティティはそびえ立つ大理石の彫像の下に立ち、ケレセイラと共に静かな月光を浴びながら、目を閉じて、一つの願いを口にした。