壁一枚の隔たり

アブサント
「……その後、私は名簿に掲載されていた学生一人ずつと面会しました。」
「ソニアとは違い、拠点ではなく外壁近くの執務室で会って話をしましたが、ほとんどの学生は恐怖に顔をこわばらせ、何も語ろうとしませんでした。」
余裕のない貴族
我慢ならん! 仲裁人殿、帝国の公聴会が、潔白の貴族に対するこれほど理不尽な侮辱を容認してよいのですか!?
彼は陛下より直々に任命された枢密官です。万が一ナターリア嬢の手紙の通りの人物であれば、そのような栄誉にあずかれるはずがありません!
誰が聞いても明らかな通り、この手紙の「懺悔」とは名ばかりで、実際は単なる糾弾に他なりません。これ以上、妄言に振り回されるわけにはいきませんぞ。
私の知る限りでは、もう一つの証言が――
アブサント
あなたはパヴロヴィッチ氏の「芸術的管理」を高く評価しているのでしょう。それでもナターリアが書いた、血と涙に満たされた事実を「妄言」と呼ぶのはやめてください。
今の私たちは暖房の効いた室内で対話していますが、外では飢えと寒さに震えている人がいることは否定できない事実です。
この世がそれほど多くの苦難で満ちているなら、ウルサスが数百年も繁栄してきたはずがない――それが、あなたの考え方ですよね?
余裕のない貴族
ゾーヤ君、言葉を慎みたまえ。君が警官の遺族だからこそ、公聴会は君の立場を尊重し、公平な判断を下すため代読を任せたのだ。断じて、ここで貴族を侮辱させるためではない!
アブサント
仲裁委員会の皆さん、私はたった一人の真の貴族を擁護したいだけです。彼女の言葉を軽々しく「妄言」と決めつけて蔑むことは許せません。
余裕のない貴族
ふん、話にならんな――
仲裁人
静粛に!
ゾーヤさん、貴方の責務はナターリア嬢の証言を代読すること。事実関係の判断は、我々仲裁委員会の領域です。
アブサント
……失礼しました。
皆さんが「懺悔」の部分を気にされているなら、ここからの内容がそれにあたります。
仲裁人さん、続きを読んでも構いませんか?
仲裁人
その前に、一つだけご忠告を。これ以上貴族の見解に対して私見や批判を差し挟むようであれば、貴方の発言権を剥奪いたします。
では、続けてください。
「私は街に戻り、学生たちの様子をご家族の方々に伝えました。その中には、お子様の様子をより詳しく知るため、私を引き留めようとする方もいらっしゃいました。」
「封鎖エリアの惨状を改善する糸口を探るため、私はより多くの力を貸してくれる方を見極める必要に迫られました。」
「そこで私は、数名のご家族と個別で会い、学生たちが置かれた状況の過酷さと悲惨さを、あえて誇張して伝えました。」
「そしてついに、とある貴族の方に行き着きました。一人息子を拘束された方で、彼はすぐに私をご自身の上司と引き合わせてくださいました。」
ロサ
……以上が、私が封鎖エリアで見聞きしたことの全てです。
このままパヴロヴィッチ卿の行動を見過ごし、さらには大型兵器の使用まで黙認し続ければ、遠からず取り返しのつかない惨劇を招くことは間違いないでしょう。
某議員
ナターリアさん、君の言葉から察するに、議会がパヴロヴィッチの罪を公表し、彼の官位を剥奪した上で、解任に追いやることを望んでいるようだね。
ロサ
私は、彼を止めていただきたいだけです。
恐れながら申し上げます。私は議会に意見するつもりもなく、議会に影響を及ぼす力も持っていません。ですが彼を阻止しようとすれば、どれほどの抵抗に遭うかは想像に難くありません。
某議員
ならば私たちは彼の要求を呑み、封鎖エリアの放棄を一時的に見送るべきだろう。そうすれば学生たちを解放するという約束なのだから。
しかし、君はあの男が約束を守ると思うか?
ロサ
……いいえ、パヴロヴィッチ卿のことは信用できません。
それに、その質問をされたということは、あなた自身もまた彼を信用していないのでしょう。
某議員
はは、君は聡いな。私の娘と気が合いそうだ。
君については、部下から報告を受けていたよ。君が封鎖エリア存続のために、パヴロヴィッチから被害者家族の扇動を要求されたことも、それに従っていないこともね。
それどころか、君は家族たちの身分や状況、人となりを見極め、私の元まで辿り着いた。
君は、私こそが事態を左右しうる鍵であり、同時に今の君が接触しうる中で最も政治的影響力を持つ人物だと判断したわけだ。
ロサ
ご推測の通りです。私の考えや未熟な企みなど、閣下は全てお見通しなのでしょうね。
ですが、どうしても友人たちのことが頭から離れないのです。私たちがこうして話している瞬間にも、彼女たちは封鎖エリアで苦しみに喘ぎ、常に命を落とす危険に晒されています。
私の考えが非現実的だというご懸念は、私自身も承知しています。
ですので、パヴロヴィッチ卿の速やかな処罰までは望みません。せめて、封鎖エリアにいる学生たちの待遇を改善し、重火器を撤去していただきたいのです。
某議員
……残念だが、今の議会がその要求に応えることは難しいだろう。
ロサ
ええ、パヴロヴィッチ卿も、議会の多くの貴族から支持を得ているとおっしゃっていました。
某議員
正確には「古い」、あるいは「軍事」貴族からの支持だがね。
包み隠さず言ってしまえば、ウルサスの貴族間における派閥の対立など、今やボリバル人にとってすら周知の事実だ。だから、それほど慎重に言葉を選ぶ必要はない。
昨今の動乱の影響で、あらゆる決議や法令を巡り、今日は誰が議会の舌戦を制するか、明日は誰が陛下のお褒めにあずかるかなど、至るところで派閥争いが起こり、常に優劣が競われている。
帝国議会だけでも、四百を超える議員がいる。その多くが名門の出身であり、功績を持つ者だ。
サンクト・グリファーブルクに邸宅を構え、『貴族の系譜』に名を連ねる世襲貴族は、およそ八百人程度。
影響力を持つ名誉市民に至っては、もはや数えきれないほどだ……そして、彼らはそれぞれの複雑な立場にいる。
世の中の全てが、パンケーキを切るような容易さで二分できたなら……ウルサスが今のような状況に陥ることもなかっただろう。
ロサ
おっしゃりたいことはわかります……
新興貴族の中にも、パヴロヴィッチ卿を支持する方がいるということですね。そして、彼の背後には多くの有力者がいると。
某議員
その通りだ。ゆえにこの件については、私や議長であっても、他者の意見を差し置いて君たちに有効な支援を行うことはできない。
ロサ
こうしてお話ししてくださるだけでも、多大な助力をいただいているようなものです。
ですが、自分の考えを変えるつもりはありません。ソニアや封鎖エリアにいる学生たちを救い出すには、何としてでもパヴロヴィッチ卿の行動を妨げなければならないのです。
某議員
状況判断は悪くない。だが、それだけでは不十分だ。
若いうちは、異を唱えるべきことは容易に見つけられても、自分がなすべきことを知るのは難しい。
ナターリアさん、君はどう動くのかな?
ロサ
……もし、パヴロヴィッチ卿を支持する方々の目的を明らかにし、潜在的な「協力者」になりうる方と接触できれば……
先ほど、貴族の方々はそれぞれ複雑な立場にあると助言してくださいました。視点を変えれば、伝統貴族であっても、昔からの友人であっても、状況次第で態度を変える可能性があるということです。
某議員
あの言葉を「助言」と受け取るとは。いやはや……
この一件が片付いたら、是非ともまた訪ねてきなさい。アローダの手が空いている時ならなおいいだろう、もしかすると……
ロサ
すみません、今なんと?
某議員
いや、気にしないでくれ。
ナターリアさん、一つ情報を提供しよう。ヴィッテ議長が箝口令を敷いているにもかかわらず、一部の貴族の間で広まりつつある噂がある。
冬季舞踏会が終わってからというもの、陛下が宮殿にお戻りになっていないのだ。
ロサ
……
某議員
これまで議長が密かに調査を進めてきたが、一向に消息が掴めていない。消去法で考えれば、残る場所はただ一つ。
今の状況では、極めて調査が難しい場所だ。
ロサ
まさか――
陛下が封鎖エリアにおられる可能性があると……それも、議長の捜索さえ及ばない場所に?
某議員
現在の情勢を鑑みれば、これ以上の混乱を避けるため、できる限り穏便に対処したいと考えている。
しかし、どこからかご失踪の情報を掴んだ一部の貴族は、この状況が続くことを望んでいるようだ。これは君が先ほど提供してくれた状況とも符合する。
……利害の取引、暗黙の了解に基づく立場の変化、あるいは……この機に乗じて、彼らの頭上を覆う最大の障害を一挙に排除しようという腹積もりか。
陛下の身をお守りするため、本来は即座に発動されるべき「特別な手段」も、折悪く何らかの理由で遅れている。
したがって、私が伝えた情報がいつまで価値を持ち、いつ遍く知れ渡るものかは不明瞭だ。
重要なのは、その「特別な手段」の発動前であれば、君は自分の方法で友人を助け出せるということだ。しかし、ひとたび発動してしまえば……
君の友人たちは、自らの幸運を祈るしかなくなるだろう。
ロサ
……その「特別な手段」とは一体――
某議員
それが発動すれば、陛下は必ず宮殿に無事お戻りになる。君が知るべきことはそれだけだ。
ロサ
……
某議員
それからもう一つ、君にとっては朗報だ。ヴィッテ議長が封鎖エリア放棄の決議を一時的に保留した。少なくとも今後一週間は、状況が変わることはないだろう。
ロサ
……本日教えてくださったことは、私たちにとって非常に貴重な情報です。私自身はもちろん、この場にいない友人たちに代わって、心より感謝申し上げます。
仲裁人
……つまり、新興貴族の中には陛下が封鎖エリアで苦しみ、ひいては命を落とすことを望んでいる者がいる。そうナターリア嬢に漏らした議員がいるということでしょうか?
ご列席の皆様、公聴会は各貴族の尊厳を重んじ、氏名の非公開を支持してきました。しかしご安心ください、本件については後日改めて徹底的な調査を行います。
余裕のない貴族
信じられん、その狂人どもは一体何者なのかね!? 証人よ、今すぐその不埒者の名を明かしたまえ!
奴らを巣穴から引きずり出し、金銭のためのみ脈打つその心臓に、ウルサス人の血が通っているか確かめてやろうではないか!
アブサント
すみません。私はナターリア本人ではないので、手紙に書かれている人物についてはわかりかねます。
ですが手紙の続きには、その後伝統ある貴族の邸宅を訪ね歩いたナターリアが、あまり歓迎されていない様子が書かれています……もちろん、彼らはお金に流されなかったとも受け取れますが。
男が反射的に勢いよく腕を振り払うと、公聴会の重苦しい雰囲気に乾いた平手打ちの音が響いた。その場の全員が好奇の視線を向ける先で、男を制そうとしていた同席者が頬を押さえている。
周囲から向けられる「気遣い」の視線に、同席者は引きつった愛想笑いを浮かべるしかなかった。しかし、その眼差しは性急で軽率な貴族を鋭く睨みつけており、男は渋々口を閉ざした。
アブサント
続けて構いませんか? この後、ナターリアはある人物から軍事貴族の名簿を受け取ることになるのですが、その名簿も手紙と一緒に添えられているので。
手紙には、その貴族たちが裏取りもせずに陛下のご失踪を流言と決めつけていたと書かれています。中にはナターリアを通じて、拘束された学生の家族を恐喝しようとした人までいたと……
特に十二月二十九日の午後には、ある紳士がナターリアを恐喝して――
仲裁人
一応念を押しておきますが、個人情報はお伏せください。
アブサント
言われた通り、名前は伏せますし、貴族の行動についての私見や批判も差し挟みません。
仲裁人
……具体的な日時や場所への言及も避けることです。そ知らぬ顔でこちらの要求を無視するのではなく、事実だけを述べてください。お分かりいただけましたね?
アブサント
わかりました。
その後、ナターリアは一部の貴族から支持を得られました。ですが何より重要だったのは、彼女がある有力な貴族のもとを訪れたことです。
その貴族は長らくパヴロヴィッチ氏を支持し、問題を起こした学生には厳罰を与えよと主張してきた人物でした。しかし――
ロサ
……私たちの考えに賛同してくだされば、封鎖エリアで激化する戦闘を最小限に抑えることができるのです。
某公爵
ロストフ家のお嬢さん……お引き取り願おう。事態は急を要すると君が吹聴していなければ、チェルノボーグの貴族などと関わるつもりは毛頭なかった。
ロサ
公爵閣下、これは陛下の危機なのです。ウルサスを国難に陥れたとなれば、その責任は誰にも負いきれるものではないでしょう。
某公爵
国難だと? 君は知らないのかもしれんが、ここ数年のサンクト・グリファーブルクでは、狂人どもが毎日その言葉を叫んでいるのだ――もちろん、君のことを言っているのではないがね。
君が語った耳を疑うような話については、聞かなかったことにさせてもらおう。何しろ私の理性が絶えず警告しているのだ。これもまた、あの成金貴族どもの自作自演に過ぎんと。
ロサ
私の思い違いでしたら申し訳ないのですが……公爵閣下は起こりうるリスクについて一切の考慮をせず、私たちが陛下の危機を利用しているとご非難されているのでしょうか?
某公爵
そうではない、ただ私は脅しに屈しないと言っているだけだ。たとえ君が、サンクト・グリファーブルクのいかなる貴族にも劣らぬほどの高貴で立派な身なりをしていようともな。
今のウルサスにおいては、思想を汚染された若者たちを再教育することこそが何より重要なのだ。
もしも、陛下のお膝元――ツァレフグラード区で起きた暴動にすら厳罰を与えられないのであれば、ウルサスの威信はどこにあると言うのだ?
君が学友を案じる気持ちは理解できる。だから、反逆者の肩を持った君の罪は不問としよう。今日の面会は、初めからなかったのだ。
ロサ
……わかりました、公爵閣下。
ですが、閣下もいずれは「反逆者」を弁護するため立ち上がることになるでしょう。
某公爵
……何だと?
ロサ
本日私が閣下をお訪ねしたのは、閣下とそのご令嬢が裏で学生を扇動していたと、一部の貴族の方より伺ったからです。
中には、邸宅の地下室が学生の活動拠点となっている証拠を掴んだ方もいるそうです。また、庭園で学生たちがデモ運動の予行練習をしている様子まで撮影されているとのこと。
某公爵
……ふん、下らぬ流言を。君がどれほど虚勢を張ろうと、その手には乗らんぞ。
公爵はロサと目を合わせようともせず、ゆっくりと立ち上がる。
某公爵
警告したはずだ。もし私を脅すつもりなら――
???
私の号令に続け! 最後尾を先頭として、隊列を維持し退却!
ロサ
私の知る限り、ご令嬢と学生団体との関係を疑う声は以前からありました。閣下はその「流言」の拡散を防ぐため、教員にすら圧力をかけたそうですね。
ですが、冬季舞踏会のデモに参加した学生たちが拘束されてから、ご令嬢は奇しくも一度も公に姿を現していないのです。
某公爵
それは、娘が中部へ遊学に出ているからで――
ロサ
もちろん現実から目を背け続けることも可能です。私はてっきり、閣下と私は同じ立場にあり、共にご令嬢の前途を再び開くことができるとばかり信じ込んでいたのですが……
ああ、かわいそうなオリガさん。
某公爵
き、貴様、私の娘に何をした!?
ロサ
私はここにいただけで、何もしていません。ただ偶然にも、閣下の邸宅で学生たちが予行演習を行っている現場に居合わせてしまったのでしょう。
私のように突然押しかけてきた者でさえ、奇しくも居合わせてしまうのですから……学生たちは、閣下の屋敷でとても熱心に取り組んでいたようですね。
某公爵
貴様――
窓から眩しい日差しが差し込む中で、ロサは伏し目がちに、相手も気づかないほど小さく頷くと、すぐさま貴族の令嬢らしい上品な笑みを浮かべた。
ロサ
これまで申し上げた通り、私はただ噂を耳にしただけです。そして閣下にとっては幸いなことに、その噂はまだそれほど広まってはおりません。
某公爵
……何が望みだ。
ロサ
私が何を望むかではありません。ご自身と一族の未来のため、閣下の決断が必要なのです。
ちょうど正午を過ぎました。ここでしばし休みつつ、閣下のお返事を待たせていただきます――
???
ま、間違っている!
仲裁人殿、この話は全て偽りだ!
仲裁人
トレープレフ公爵?
トレープレフ公爵
白状しよう、ナターリア・ロストワが接触した相手はこの私だ。そして、私は確かにパヴロヴィッチの軍備削減に同意していた。
だが、我が娘は潔白だ! 娘は奴らに……あの学生団体の狂人どもに脅されていたのだ!
本日、娘は証人としてこの場に立ち、勇敢に自らの潔白を証明してナターリアの妄言を暴くだろう。まさしく、次の証人こそが我が娘だ。
アブサント
公爵様、ナターリアは、あなた方に対する不誠実を悔いてこの手紙を書いたのです。
ウルサスが私たちに機会を与えてくれたことは一度もありません。ナターリアは最初から最後まで誰一人として裏切らず、ただ正しい選択をして、守るべき友人を守っただけです。
誰がここに立ち、どれほど事実を曲げた証言を行ったとしても、ナターリア自身はウルサスに対しても、私たちに対しても、何一つ恥じることなどありません。
トレープレフ公爵
貴様――
仲裁人
静粛に!
十分間の休廷としましょう。
書記官、次の証人に準備するようお伝えを……
余裕のない貴族
ヴォロンツォーワ夫人……解せませんな。全くあなたらしくないやり方です。
あなたは、ナターリアの真の証言をお持ちのはずです。それをゾーヤの証言にぶつけていれば、この場にいる貴族たちがこれほど取り乱すこともなかったでしょう。
それなのに、ゾーヤの証言が封鎖エリアに及んでからというもの、あなたはずっと黙り込んだままです。何人もの方があなたに憤りの眼差しを向けておりますぞ。
一体何を待っておられるのです?
ヴォロンツォーワ夫人
……
ロサ
……書き終えました。
ヴォロンツォーワ夫人
ええ、いい子ね。これであなたのご両親にも顔向けできる。今ならまだ間に合うわ。
まあ、ナターシェンカ、なんてきれいな字。さて、書き漏らしたことがないか確認させてもらうわね――
……
……ナターシェンカ、あなた……
これは一体何かしら? 「懺悔の手紙」と言っていたわよね?
ロサ
はい、これが私なりの懺悔です。
計画のため欺いた全ての方々、またその方々に利用され、見捨てられ、苦難を強いられた学生たちに対しての。
たとえ同じ大学に通ったことはなくとも、彼らは皆、私の学友だったのです。
私たちは同じウルサス人であり、運命を共にすべき存在なのですから。
ヴォロンツォーワ夫人
まあ、なんてこと!
愛しいナターシェンカ! あなたは誰にこんな苦痛を背負わされたの? 一体誰から、彼らを欺いたと責められているの? 私はこんなものを書いてほしかったわけじゃないわ、断じてよ!
ああ、マーシャ。私は……どうすればいいの? どうすれば可哀想なあなたの娘を慰められるの? ナターシェンカ、そんな恐ろしいことを言うのはおやめなさい。あなたは何も悪くないのよ!
ロサ
たとえそうだとしても、結局は誰かが代償を支払い、罪を背負わなくてはならないのです。
私はおばさまが求める通りに、彼らがこの件にどう関与したか、それと……私の知る全てを綴りました。それなのに、おばさまは私のすべきことではないとおっしゃるのですね。
自分自身を晒け出す私のやり方は、間違っているのでしょうか? それとも、私はいつまでも大人になれない子供のように、永遠に責任から目を背け続けるべきなのですか?
ヴォロンツォーワ夫人
私たちからすれば、あなたたちは永遠に子供よ! 私はただ、あなたの力になりたかっただけ。友人の家族――いいえ、実の娘のように。
あなたのしたことは、笑って許される程度の過ちなの。こんなに重い懺悔なんて誰も求めていないわ。だから、自分を追い詰める姿なんて見せないでちょうだい……
ロサ
わかっています、おばさま。全てわかっているのです。
おばさまの熱意も、誠意も。時には、ご一緒していると息苦しく感じるほどでした。ですが、それも私を思ってくださってのこと。
ただ私自身が、これまでは手の届かなかった高貴な方々と接する中で、皆様の思想やウルサスに対する想いを知ってしまいました。それからは、どうしても考えてしまうのです――
ヒッポグリフ王国が滅亡するまでは、今のウルサス貴族の祖先たちも普通の人々でした。あのイゴール大帝でさえ、軍隊の一兵士に過ぎなかったのです。
ヒッポグリフが鞭を振るっていた時代、彼らは恐れることなく、虐げられていた人々の盾となりました。だからこそ人々は、彼らが栄誉ある勇者の血脈だと信じました。
ですが、もしある日、勇者の血脈である彼らが、今度は別の虐げられた人々を踏みにじり、ヒッポグリフが振るっていた鞭を手に取ってしまったら……
それでも人々は彼らを信じ、共に歩もうとするのでしょうか?
そして私も、虐げる者の一員に加わらなければならないのでしょうか?
ヴォロンツォーワ夫人
違うわ……それは私たちが生まれ持った権利で――
ナターシェンカ、それ以上はいけないわ……
ロサ
いいえ、おばさま。今回だけは、どうかお断りさせてください。
もし私が、全ての人に生来与えられるべきだと望む権利があるとすれば、それはきっと……
「選択する権利」です。
ヴォロンツォーワ夫人
……
ロサ
そして、おばさまがおっしゃった通り……「今ならまだ間に合う」のです。
何かを選ぶことも、何かを背負うことも。
ヴォロンツォーワ夫人
……どうして、そこまでするのかしらね。
「どれほど巧妙に仕立て上げた嘘でも、身をもって経験した事実には敵わない」。ナターシェンカは……ただ、選択をしただけです。
余裕のない貴族
しかし、彼女はあなたを欺いたのですぞ。少なくとも、相応の代償を払わせねば――
ヴォロンツォーワ夫人
お心遣いには感謝いたします。ですが……
私はもう、少し疲れてしまいました。