崇高な裏切り

仲裁人
オリガさん、その夜アンナ・モロゾワが実質的に貴方の議長権限を奪ったことは、誰にでも察しがついたでしょう。
だからこそ、疑問を抱かざるを得ません。なぜ貴方は、他の学生のように大会から離れる道を選ばなかったのですか?
オリガ
……
それは――
トレープレフ公爵
仲裁人殿、公聴会はあくまで事実関係にのみ集中すべきでしょう。
オリガ
……あの場の雰囲気に呑まれ、冷静に判断できなくなっていたからです。
仲裁人
では改めて、貴方がアンナたちと決別した理由、そして彼女たちがどのように貴方を拉致し、脅迫したのかをご説明ください。
オリガ
……かしこまりました。
初日の夜は、学生のほとんどが劇場に残る選択をしました。皆で負傷者の手当てを行い、捕まった仲間の情報を集める方法について知恵を出し合っていました。
しかし二日目、状況が一変したのです――
セルゴ
……これでよし。オリガ、薬は塗り終わったよ。
見た目はあまり綺麗じゃないけど、早く治すためだ。ちょっと辛抱してくれよ。
オリガ
……
どうしてあなたが治療しているの? ラーダは?
セルゴ
昨日、君は先に寝てたから知らないだろうけど、あの後ナターリアと見たことのないヴァルポが一緒に来たんだ。二人はアンナたちと少し話してから、ラーダを連れてどこかに行っちゃったよ。
オリガ
他の人たちは? どうして劇場に誰もいないの?
セルゴ
僕にもよくわからない。アンナがみんなに任務を与えてたみたいだけど……
イースチナ
……今最も優先すべきは、連行された学生たちの居場所を突き止めることです。
この名簿に載っている学生の家族から接触を図れば、何らかの突破口が見つかるかもしれません。
ロサ
ええ、私も一族の縁を使って情報を探ってみるわ。何かわかったらすぐに知らせてちょうだい、裏取りをするから。
アンナ、くれぐれも気をつけてね。
イースチナ
おや、どうしてあなたたちがここに?
セルゴ
昨日の夜、オリガは舞台のそばで寝ちゃったみたいでさ。僕が今朝劇場に来てみたらちょうど目を覚ましたところだったから、薬を取り替えておいたよ。
イースチナ
……ご苦労様です。
セルゴ、彼女はしばらく安静にする必要があります。三階の稽古室に移動してもらうので、手を貸してください。
オリガ
……アンナ、私は一度家に帰った方がいいかもしれないわ。
もうずいぶん回復したし、歩けるようにもなった。お父様にみんなの罪を帳消しにしてもらうことまでは難しいかもしれないけど、せめて居場所を突き止めてもらうことはできるはずよ。
イースチナ
それについては心配いりません。皆さんが監禁されている場所は、すでに目星がついています。
それよりも、あなたはここに残って治療に専念してください。そんな姿で家に帰っては、あらぬ噂が立ちかねませんから。
怪我をした学生の多くはここに残りました。これから皆さんが家族に書く手紙は、私が人を手配して届けさせます。
オリガ
……
セルゴ
じゃあオリガ、担架を取ってくるよ。
オリガ
……彼らは、これは「保護」だと言いながら、私を個室に移しました。
すぐに、その言葉の意味を思い知ることになりました――消防斧を持った学生が昼夜交代でその部屋の前に立ち、私を見張り始めたのです。
わけを聞いても、会話は禁じられていると告げられるだけ……その時点で、父に手紙を書くことも諦めました。彼らが届けてくれるはずがありませんから。
仲裁人
そこで、ご自身がアンナたちによって軟禁されたと気づかれたのですね?
オリガ
はい。
仲裁人
アンナの動機に心当たりはありますか?
オリガ
あくまで推測ですが、アンナが貴族を利用することを仄めかした夜に、私が難色を示したからかと思います。
仲裁人
それは、自治団の貴族に対する憎悪の表れと捉えてよろしいでしょうか? 無縛者同盟と結託したソニアの行動とも通じることです。
オリガ
……はい。
なぜなら私だけでなく、心に迷いを持ち、情報を漏洩する危険性があると判断された人……そして利用価値のある貴族までも、私と同様の扱いを受けたからです。
仲裁人
その後、外部と連絡を取る、あるいは部屋を出る機会はありましたか?
オリガ
いいえ、ほぼ皆無でした。ですが学友のセルゴだけは、当番の時にこっそり学生たちの動向について話してくれました。中には、このような話も――
イースチナ
……それは本当ですか?
動揺した学生
本当よ! 私のお母さんは、サンクト・グリファーブルクで十年以上も縫製工場を経営しているの。そのお母さんが言うんだから間違いないわ。
イースチナ
お母様の話によると、九百着以上の冬用の軍服が封鎖エリアへ運ばれたのですね。しかし、昨日ナターリアが封鎖エリアを訪れた際には、中の武装勢力は五百人にも満たないと言っていました。
もしどちらの情報も正しいとすれば、結論は一つ――封鎖エリアに援軍が送り込まれようとしているのでしょう。
動揺した学生
ソニアは大型兵器に太刀打ちできないと言っていたのよね。そこに援軍が来るなんて……アンナ、どうすればいい?
イースチナ
……
これから数日間、お母様は工場にいる予定ですか?
動揺した学生
いるはずだけど、それがどうしたの?
イースチナ
警察との繋がりを持つ友人に連絡し、警官の制服を持ってきてもらいます。そして背の高い人を何人か選び、軍警を装ってお母様の工場へ査察に潜入させましょう。
あなたはお母様のもとへ向かい、「数日の間、授業がないから工場を手伝いに来た」と伝えてください。私たちに対して訝しむ様子を見せたら、「少し見せるくらい大丈夫」と助け船を出すのです。
動揺した学生
そんなこと……
イースチナ
迷っている時間はありません。仲間は今この瞬間も危険に晒されているのですから。皆さんを本気で助けたいと思うなら、私を信じてください。
軍服の発注先こそ、私たちがずっと探していた突破口なのです。
動揺した学生
でも警官を装うなんて……学生の私たちには難しすぎるわ。
イースチナ
舞踏会の後、通信担当のボタニとは連絡が途絶えましたが、彼女が残した携帯用通信機はまだ使用できます。
それを皆さんで身につけ、私の指示に従ってください。当日は、警察との繋がりを持った友人も手伝ってくれますので……
セルゴ、来てください。
私たちの中で、一番背が高いのはあなたです。制服が届いたら試着してください。
セルゴ
えっ? 確かに僕は演劇サークルに入ってたけど、舞台に立つとすぐ顔が赤くなっちゃったんだ。そんな僕に――
セルゴ
……警官役なんて。
まさか、こんなに顔を隠せるなんてね……
イースチナ
セルゴ、独り言は厳禁です。オフィスのドアを見張り、誰の侵入も許さないように。
セルゴ
わかったよ、アンナ!
イースチナ
……返事も不要です。
セルゴは反射的に頷いた。マスクの下で、喉が上下に動く――わずか一分の間に、もう三度も唾を飲み込んでいた。
イースチナの友人は、まだオフィスで書類の山を調査している。まだ答えが見つかっていないことを除けば、何もかもセルゴの予想以上に順調だった。
セルゴ
でも……それにしても遅いな――
???
何が遅いんだ?
待て、あんたは誰だ? 今日の監査担当は、俺たち第二班のはずだぞ。
セルゴが振り向くと、そこには本物の警官が立っており、怪訝な様子で自分を見つめていた――もっとも、ゴーグル越しにそう感じただけかもしれないが。
セルゴは反射的に口元を隠す。そうしたところで、相手に見透かされることはないのだが。
警官
あんたはどこの区の、どの班所属だ? 新任の上官のやつ、また指示を間違えたんじゃないだろうな。
セルゴ
あ、えっ、その――
警官
おい、どこか具合でも悪いのか? 薪もそんなに焚いてないのに、すごい汗をかいてるじゃないか……
イースチナ
……
セルゴ、その人にビンタを。
セルゴ
……え?
イースチナ
躊躇わず、指示に従ってください。ちょうど私の友人がそちらに向かっています。
ビンタと同時に「ヤロスラフ様のご令嬢の仕事を邪魔するな」と叫ぶのです。
セルゴ
……ヤロスラフ様のご令嬢の仕事を邪魔するな!
セルゴは力いっぱい腕を振り、相手の頬を叩いた。すると手のひらにひりつくような痛みが走り、セルゴは思わず声を上げそうになるのを必死で堪えた。
一方、平手打ちを食らった相手は呆然と立ち尽くし、打たれた頬をさすっていた。
イースチナの友人
すみません。上官が急遽任務を変更したので、あなたまで連絡が届いていなかったようです。
こちらの方は私の付き人です。父は私を一人で社会に出すのは不安だと言い、一族にかけ合って彼も一緒に入隊させました。
警官
……つまり、また「あれ」ですか?
イースチナの友人
はい、「あれ」です。
セルゴ
……?
警官
上層部はこの工場の帳簿に問題があることを掴んでいたから、わざわざ貴族の娘を寄越して手柄を立てさせようってわけか……
俺は警察に勤めて三年になるが、毎年こんなことばかりだ。上官が変わるたびに、機嫌を損ねてはいけない相手が増えていく。
イースチナの友人
なにせ、ここはサンクト・グリファーブルクですから。
警官
待ってください!
……お父様に、よろしくお伝えください。できれば、俺の識別番号と名前も合わせて伝えていただけると。
セルゴ
――そんな感じで、その警官は何も言えずに、すごすご引き下がっていったんだ。どうせなら、もっと強く引っぱたいてやればよかったよ!
オリガ
……すごいわね、セルゴ。
それで帳簿からは、トレープレフ家が長らく秘密裏にパヴロヴィッチ卿を支援していて、援軍まで送ろうとしていることがわかったのね?
セルゴ
ああ、昨日の夜アンナとナターリアがずっと話し込んでたよ。君の親戚や友人、特に君のお父様についてね。
オリガ
待って。どうして彼女たちは、私の交友関係まで把握しているの?
セルゴ
アンナは何人かの学生に対して、あえて何事もなかったかのように家や大学に戻るよう指示したんだ。
大会にはこの街のほぼ全部の大学からの参加者がいただろ。その皆で、捕まった学生の友人や教員を訪ね回ったんだ。彼らを心配する人は多かったから、自然と情報がたくさん集まったんだよ。
アンナはもうトレープレフ家の邸宅を特定していて、刺客を送って公爵を待ち伏せる手立てを進めてると言ってる人もいる。まあ、ただの学生同士の噂話だけど……
オリガ
……
セルゴ
オリガ……君にとっては理不尽な話だよね。
オリガ
でも、受け入れるしかないみたいね。
彼らが何を企んでいても、ここで軟禁されている私に止める術はない。ただ、良い結末になることを祈るだけよ。
セルゴ
ふぅ……
そう思ってくれるなら安心だ。それじゃ、ゆっくり休んで。
そういえば、前に大会の旗を仕立てるからって、僕にいろんな布をかき集めさせただろ。あれはもう完成した?
その旗をアンナに見せたら、きっと彼女も君と向き合ってくれるはずだ。
オリガ
ええ、完成したら伝えるわ。
セルゴ
了解! おやすみ、オリガ。
ドアが音もなく閉まり、オリガはふっと息をついた。
彼女はベッドの下から、色とりどりの布を繋ぎ合わせて作った長いロープを取り出した。端を重い木製のベッドフレームに結びつけると、何度も強く引っ張り、体重に耐えられることを確かめる。
それから窓辺へと歩み寄り、ロープのもう一端を外へ放り投げた。ロープは底の見えない深淵へと落ちていき、たちまち夜の漆黒に呑み込まれていく。
オリガ
ごめんなさい、セルゴ。あなたがアンナに責められないことを祈っているわ。
……あなたたちが望む旗は、もう作れない。
劇場を逃げ出しても、私は家に帰れませんでした。全てを許してくれるであろう父と向き合うことも、噂に聞いたアンナの刺客と遭遇することも恐ろしかったからです。
私は大学へ戻り、助けてくれる方を探しました。そうして匿ってくれたのが、ヴァレリヤ先生でした――もっとも、トレープレフ家に対する畏怖からですが。
先生の宿舎で、私は人生で最も長い冬の夜を過ごしました。
ウルサス教員
……何かの勘違いよ。
???
ヴァレリヤ先生、教え子を庇うお気持ちは理解できます。
ですが、この大学には彼女以外にも多数の学生が在籍しています。閉じ込められた学生を救出するには、彼女の力が必要なのです。
どうか――
オリガ
……
窓の外のぼやけた人影が、突然オリガに向き直る。分厚く不透明な磨りガラスを突き抜けるような鋭い視線に、残っていた微睡みは全て吹き飛ばされた。
オリガはベッドから飛び起き、靴も履ききれずに裏口のドアを勢いよく開くと、無我夢中で階段を駆け上がった。恐怖で振り返ることもできないが、背後からは足音と叫び声が刻一刻と迫ってくる。
オリガ
はぁ……はぁ……
こ、こっちに来ないで――!
イースチナ
……
セルゴはあまりにも純粋でお人好しですから、人を疑うことを知りません。見張り役を任せれば、隙が生じる可能性があると予想しておくべきでした。
ですが、今ならまだ取り返しがつきます。
オリガ
どうやって私を見つけたの? まさか、私の大学にまであなたの内通者がいるの?
イースチナ
ここ数日、行方不明になった学生の名簿を頼りに、協力者を求めてサンクト・グリファーブルク中の大学を回っていました。
劇場から逃げ出し、助けを求めた先が大学とは……やはり、あなたはそういう人でしたね。
オリガ
他にどこへ行けと言うの? アンナが私の家の近くに刺客を潜伏させてるって、セルゴから聞いているのよ。
お父様の暗殺を狙っているというのは、本当なの?
イースチナ
そんな計画はありませんし、ウルサスの貴族相手には通用しないでしょう。これまでも、私たちは常に交渉で解決しようとしてきたはずです。
オリガ
みんなを助け出すと約束してくれた夜、私はあなたを信じたのよ。こんな状況になってしまったのは、誰より私の責任だもの。
でも、あなたはその私をどう扱ったの? 私を騙して部屋に軟禁しておいて、それでも信じろと言うつもり?
イースチナ
どこでそんな噂を聞きつけたか知りませんが――
オリガ
来ないで!
オリガはよろめきながら数歩後ずさった。そして廊下の突き当たりの窓辺に腰かけると、両手で窓枠を強く握り締めた。
イースチナ
……
オリガ
アンナ……私、もう耐えられない!
私のせいでお父様が被害を受けるのも、大会のみんなが死ぬのをただ眺めているのも。
今すぐに全部終わらせたい! もし、無理やり私を従わせるつもりなら――
イースチナ
落ち着いてください! もしあなたに万が一のことがあれば、あなたのお父様にとっても、大学の皆さんにとっても取り返しのつかないことになります。
娘と跡継ぎを同時に失えば、公爵は復讐に命を燃やし、封鎖エリアの全てを潰しにかかるでしょう。
オリガ
ち、違う。私は――
もうどうすればいいか、わからないの!
ああっ――
冷たい風が吹き荒れ、オリガを呑み込まんばかりに外套を乱暴に煽る。オリガの手首からふっと力が抜け、一瞬にしてバランスを失った身体は、背後へと投げ出されていった。
余裕のない学生
オリガ――!
オリガ
……幸いにも、下にはまだ敷き詰められていない芝生の山があったので、軽い怪我で済みました。そうして、私はアンナの強要から逃れられたのです。
その後は一日中街に身を隠していたところ、父の部下に見つかり、家へと連れ戻されました。
以上が、全ての顛末です。
再び潮流のようなけたたましい議論が湧き上がる中、安堵のこもった長いため息が一つ、ひときわ鮮明にホールにこだました。
仲裁人
オリガさん、学生たちはどのようにトレープレフ家の邸宅に侵入したと思われますか?
オリガ
具体的なルートはわかりませんが、アンナが屋敷の住所を知っていた以上、手段はいくらでもあったかと思います。
仲裁人
ええ……ご列席の皆様も、すでに各々ご想像のことでしょう。
それでは正式な手順に則り、確認させていただきます――
オリガさん、貴方は学生連合大会のリーダーであるアンナ・モロゾワがソニア・ミハイリヴナと結託し、国家反逆罪を含む一連の罪を犯したとして、彼女を告発なさいますか?
オリガ
……
私は……告発します。学生連合大会のリーダー――
オリガ・ダニーロヴナ・トレープレワは、「カトルガ事件」に関与した学生の全行動に対し、全責任を負うべきであると。
トレープレフ公爵
――!?
オリガ
アンナによる貴族への脅迫行為は、確かに罰せられるべきです。しかし、あくまで一刻を争う状況下での措置であり――
仲裁人
オリガさん、貴方はご自分が何をおっしゃっているか、理解しておられるのですか?
オリガ
私は、ただ事実を述べているに過ぎません。
ゾーヤが証言台に立った時点で、この嵐の元凶が誰であるか、誰もが勘づいていたはずです。それにもかかわらず、誰一人としてその名前を口にしようとはしませんでした。
誰が学生連合大会を指揮し、組織を束ねたのか。また誰が全員をこのような道へと導いたのか。そして、誰がこの崩壊した秩序の代償を払うべきなのか……
その罪を贖うためならば、私はいかなる極刑をも受け入れる覚悟です!
仲裁人
そこまで! 休廷です!
書記官、記録を即刻中止してください! 今すぐオリガさんを控え室へ!
新たな証言が、公聴会のホールに火をつけた。公爵の怒号と貴族たちの喧騒が入り乱れる中で、力なく打ち下ろされた木槌の音は瞬く間にかき消される。
オリガは目を伏せ、書記官に従って出口へと歩を進めた。その時、証人席に座るアブサントの前を通りかかった。
アブサントは小さく頷いた。
???
はぁ……はぁ……
しっかり掴まって!
オリガ
……え?
イースチナ
この手は絶対に放しません! 動かないでください!
イースチナは上半身を窓の外へと投げ出しながら、両手でオリガの腕を固く掴み、今にも落ちてしまいそうな命を必死で繋ぎ止めていた。
群衆が一斉に駆けつけ、彼らの激励と二人の息遣いが入り乱れる。最後は全員が力を合わせ、二人を廊下へと引き上げた。
イースチナ
はぁっ……
オリガ、あなたはここで死んではいけないと言ったはずです。私の言葉が届いていなかったのですか……
オリガ
でも、私にはどうしてもできないの。あなたたちのような覚悟が持てなくて――
イースチナ
覚悟……?
答えてください。先ほど窓辺に座った時、あなたは本気で飛び降りるつもりだったのですか?
オリガ
……
イースチナ
あなたは覚悟がないのではありません。ただ逃げ続けているだけなのです。
デモを決議した時も、今回の件でも……あなたは何に対しても、忌憚なく反対の声を上げられた。なぜなら――
どれだけ問題を起こしても、背を向ければお父様の懐に逃げ込めると知っていたからです。
生きるために歯を食いしばらなければならない日々を、あなたは経験したこともなければ、想像したことすらない。家が編んでくれた揺り籠の中で、ただ夢を見続けているだけ……
しかし、この大地に生きる全てのウルサス人に、あなたと同じ夢を見る資格があると思いますか?
教えてあげましょう、オリガ。
あなたはこの国を、本当のウルサスを見たことがないのです。この国では無邪気さは罪であり、躊躇いは最大の共犯者となります。それなのに、あなたは自分の道を選ぶことから逃げ続けています。
オリガ
私は――
イースチナ
夢の続きが見たければ、すぐにお父様の元へ帰るべきでしたね。温かい暖炉のそばに立ち、ただ眺めていればよかった。屠殺人の刃が私たちを襲い、ウルサスの未来が断ち切られる光景を。
けれど、もし本気で仲間を救いたいのなら、持っている全てを懸けてください。たとえその中に、血の繋がった家族が含まれていたとしても。
私はとうの昔に選択しました……オリガ、立ち上がりましょう。
たとえ拒否したとしても、私はあなたを連れて帰ります。そして、その目に焼きつけてやります。囚われている学生たちが、封鎖エリアを脱出するその姿を!
オリガ
……
余裕のない学生
アンナ、もう時間がない。大学じゅうの人が、騒ぎを聞きつけて集まっているんだ。協力者の学生が足止めしてくれているが、長くはもたないぞ。
イースチナ
……劇場に戻りましょう。
オリガ、学生はいつまでも学生ではいられません。誰もが、すべきことからは逃れられないのです……そして、私が今すべきことは、あなたをしばらく「消す」ことです。
全てが終われば、あなたにしかるべき自由をお返ししましょう。
オリガ
……アンナ、待って。
あなたはトレープレフ家の住所をもう特定しているのよね……
イースチナ
はい。ですが、あなたのお父様の暗殺を企てたことは一度もありません。私はただ、彼を説得する計画を立てていただけです。
オリガ
それも、みんなを救い出すためよね?
イースチナ
はい。
オリガ
……だったら、一つ方法があるわ。
サンクト・グリファーブルク西の郊外にあるブドウ農園の倉庫に、屋敷の地下ワインセラーに繋がっている隠し通路があるの。
政敵による暗殺に備えて、お父様が用意したものよ……警備員でさえ知らないわ。そこから屋敷に入れば、お父様はすぐに私が教えたと気づくはずよ。
イースチナ
オリガ……
それは、一族との決別を意味しているのですよ。それでも構わないのですか?
オリガ
いいえ、アンナ。
私は自分のやり方で、自分と一族の尊厳を守るわ。