一触即滅の「火種」

アリーナ
それで、その人たちを追い払ったの?
タルラ
ああ。
アリーナ
私は一緒に行かなくて正解だったみたいね。人が焼けるにおい……あんなものをまた嗅いだら、きっと吐いてしまうもの。
タルラ
アリーナ、無理して私と一緒にいようとしなくていいんだ。
アリーナ
ううん……私は自分からあなたについていくって言い出したのよ。あなたと一緒に行きたいの。
タルラ
ああ。私がお前たち感染者たちを守り抜いてみせるさ。
アリーナ
違うの。私は守ってほしいなんて――
タルラ
わかってるさ。アリーナがいないと、物資や情報の収集もままならないからな。
アリーナ
それより、誰と連絡を取ってたの? よかったら教えてくれない?
タルラ
……
アリーナ
私がウルサスのスパイじゃないかって疑っているの?
タルラ
違う、アリーナをこんなことに巻き込みたくないだけだ。
アリーナ
感染者になった時点で、これ以上悪くなることなんてないわ。
タルラ
……連絡を取っていたのは、他の都市の感染者だ。
彼らから都市の動向を探り、凍原で苦労している感染者をなんとか助けたいと思っている。
アリーナ
すごいことを……しているのね。
その正義感は一体どこから来ているの? 誰かに教わったもの?
タルラ
違う。
私が受けた教育は、邪悪で狂っていた。統治の傲慢さと権力の恐怖に満ちていた。
タルラ
だからそいつを反面教師にした。奴らの偽善的な仮面を剥ぎ取り、力を誇示するためだけの貴族都市を一つ一つ破壊して、この雪原に生きる全ての人に真実を伝えたい……
そして、私たちは自らの手で自身の運命を決めるのさ。
この大地を切り拓き、自分たちの楽園を作り上げる。邪魔するものは何だろうと排除する。
そもそもこの大地は感染者のものでもある……大地の全ては、元よりこの地に生きるもの全員に与えられたものだ。
アリーナ
……もっと現実を見て、タルラ。その考えは手の届かない話よ。
タルラ、あなたがそんなことをすれば、この村はもう本当におしまいよ。帰る場所を失って、監視隊に追われ続ける身になってしまうわ。
タルラ
私が何もしなくても、あの村は荒廃の一途をたどるだけだ。
アリーナ
誰もがあなたのように戦士になれるわけじゃないわ。たとえ痩せた土地でも老人、子供、病人にとっては生きていくために必要なの。捨て去ることなんてできないのよ。
タルラ
わかっている、アリーナ。だからこそ新たな土地を見つけなければならない。
さぁ、こっちだアリーナ。今晩は泊まる場所があるんだ。
アリーナ
はぁ……
タルラ
泊めていただいて感謝する。
感染者
とんでもない! 君がいなかったら、みんな死んでいたところだ。まあ、今でも死人同然の生活だがな。
最初はきつく当たって悪かったな。しかも武器まで向けた。こんな腑抜けを許してくれ。
もてなすほどの物は残ってないが、麦粥が少しある。食べてくれ。
アリーナ
ありがとうございます。でも、大丈夫です。
感染者
いや、どうせ余り物だ。持ってあと数日、大して変わらないよ。
平和に暮らせる村を作ろうとこんなに遠くまで来てみたが……意味なんてなかった。
逃げ切れるわけがないんだ。ウルサスは広いと言っても監視官はあちこちにいるし、他に受け入れてくれる場所もない……俺たちに行くあてなんてないのさ。
タルラ
それなら、私と行かないか?
感染者
……行くってどこに? 今からか?
タルラ
今でなくてもいい。
考えが決まれば――もしくは本当に八方塞がりになって、それでも生きていきたいなら、私か仲間に連絡をくれ。
凍原での暮らしは……厳しさを増す一方だ。
私たちにはまだ行ける場所が、未開の地がある。田畑を耕して収穫が見込める土地を見つければいい。それに、仲間もたくさんいる。それぞれの村で助け合いながら商売をすれば、収入も得られる。
いずれにしても、生き延びることができる。
感染者
でも、監視隊がまた来たらどうするんだ?
タルラ
――奴らを打ち負かせばいい。
感染者
何だって?
……冗談だよな?
タルラ
私にはできるし、お前たちにもできる。あの時、私に武器を向けたことも決して間違いではない。
略奪者は、団結して追い払うまで。感染者にだってその力はある。
少しずつでいい。私たち感染者も自分の人生を取り戻すんだ。
まず手始めに必要なのはパン。それから……火だ。