模範の名のもと

ダグザ
あの谷の辺りを通った時に、ついでに何人かの息が残ってる兵士を助けてやった。そうだ、生存者たちも我々の部隊についてきたぞ。
インドラ
どいつもこいつも感染しちまった連中だ。まああんな死体だらけの穴の中で一夜過ごしたら、誰だって感染しちまうわな。
デルフィーン
彼らを連れ帰った後に消毒はきちんとしましたか? 活性源石粉塵が身体に付着してる恐れがありますから。
ホルン
心配しないで、デルフィーンさん。私はこれと似た大規模な活性源石環境を、ヒロック郡で経験済みですから。
消毒作業は標準的な手順通りにしっかり執り行いました。
あの兵士たちは、元々アッシュワース公爵の募兵なんです。交戦が起こった後、彼らの所属していた中隊は負傷者の救助も戦場の事後処理もせずに、そのまま撤退していったそうです。
……その兵士の内の一人が、同郷の仲間が近くに倒れてると言ってきたんです。きっと足を怪我したせいで身動きが取れなかったんでしょうね。浅い水たまりに倒れて、一晩中助けを呼んでいました。
私たちが発見した時には、その兵士はすでに死んでいました。水たまりで溺れてね。
その水たまりはくるぶしにも浸からないくらいの深さでした。誰かが身体を裏返してあげるだけで、彼は確実に生き延びていたはずです。
ダグザ
現場を調査してみたが、彼らは王庭軍の罠にはまったようだ。きっとサルカズ傭兵の一団が、自らを犠牲に囮になったのだろう。
モーガン
だけど……あんな風に何の抵抗もできない状況なんて、そんなのあるはず……
デルフィーン
よくあることです……最も強い力を持つ数名の公爵以外の部隊は、職業軍人の割合が全体の四分の一にも満たないでしょうから。
ヴィクトリア兵の大半は単に召集に応じるか、無理やり徴兵させられるかです。付け焼刃の訓練を数ヶ月経て、軍用クロスボウかアーツユニットの使い方も覚えたての内からここへ放り込まれるんですよ。
……正直なところ、もしもこの戦争がなかったら、士官たちも兵士たちも、互いに一生一言も話す機会すらなかったかもしれません。
インドラ
それをヴィーナが聞いたら、多分またキレるんだろうな……
デルフィーン
私はこの事実が気に入らないんです。お互いの間に信頼のない者同士が、戦場で互いの命を安心して預け合うなんて不可能ですから。
母は、これまで一度たりとも私の疑問に答えてくれたことはありませんでした。いつの日か、自分で答えを見つけることになるだろうと――
シージ
ゲホッ……ガハッ!
モーガン
ヴィーナ!
シージ
放せ……モーガン、首、が……息が、できん……
モーガン
えへへっ、ごめんって。ちょっと興奮しすぎちゃった。ヴィーナってば、丸二日も寝込んでたんだから……
その間ずっと熱出してたんだよ。まあ幸い、胸の裂傷はかなり回復してきてるみたいだねぇ。じゃなきゃ、みんなめっちゃ心配しちゃうとこだったよ~。
シージ
ここはどこだ……チェットリーでは、ないのか?
モーガン
ゴホン……吾輩が話すよ。
吾輩たちは二日前にあそこから撤収したんだ。今は、元々の野営地に戻ってるんだよ。
ゴドズィン公爵の援軍が正式に町に入って来る前に艦隊と正面からの接触を避けるため、なるべく人目を引かないよう迅速に撤退しようってホルンちゃんが言うから、吾輩たちはそれに従ったんだ。
シージ
……ホルンさんが?
ホルン
この部隊は隊員同士の関係や身分が……とても複雑ですから。ひとたび公爵の部隊と公的な繋がりを持ってしまえば、以前までは単純だった物事がとても厄介なものに変わってしまうんです。
これは私とMiseryさんとで出した結論です。皆さんも私たちの考えに賛同してくれました。
……この部隊にはウィンダミア公爵の残存兵がたくさんいますが、彼らの軍事識別コードはもう失効してますから、「誤射」される可能性も少なくないんです。
正確に言えば、失効というよりは……承認拒否されたといった方が正しいかもしれませんね……いえ、もしかしたら、その……
インドラ
ハッ、貴族どもの汚ねぇやり方を、そんなキレイに言い繕わなくてもいいだろ。
俺たちの縄張り争いと同じじゃねぇか?
シージ
……今の状況はどうなっている?
デルフィーン
一部の人たちは、ゴドズィン公爵の部隊に加わって反抗を続けています。ゴドズィンの士官は感染者に文句も言わなかったんです。けどそれよりも多くの人々が、私たちについてきてくれてます。
モーガン
みんな、吾輩たちのことを信頼してくれてるんだよ! もっと正確に言えばヴィーナ、あんたのことをね。だって吾輩たちは勝ったんだから! 今やみんなの士気もアゲアゲだよ!
あはっ、みんなお互いが過去に感じてた不満を持ち出して、冗談言い合ったりしてたくらいなんだから。
シージ
……我々はやり遂げたのだな。
デルフィーン
あなたの計画がうまくいったおかげで、最後まで持ちこたえられたんです。まあ、時が経てば私たちがあそこでどんな犠牲を払ったかなんて、誰一人知る人はいなくなるんでしょうけどね……
戦争全体で見れば、単なる局地的な勝利に過ぎませんから。
だけど私たちは、チェットリーを救ったんです。ヴィーナ。
シージ
ああ。そのようだな。
もしも誰しもが、戦争が始まってからただひたすらヴィクトリアのために戦う者たちばかりだったら、事態はこうも滅茶苦茶にならずに済んだだろうか?
……いや、人々は皆、自分はヴィクトリアのために戦っていると頑なに信じ込んでいた。
ダグザ
そうだシージ、我々に加わったチェットリーの生存者の一人が、サプライズを持って来てくれたぞ。
彼の家はガリアの芸術品を「コレクション」しておく伝統があるそうでな。彼の父親が、かつてのリンゴネスの航路上からヴィクトリア制式の小物を拾ったことがあったそうだ。
帰ってきた後で、その真っ黒な小物には何の価値もないことに気づき倉庫にしまい込んだらしい。撤退する際に感謝のお礼にといただいたんだが、その後ホルンさんがその正体を一目で見抜いた。
それがこれだ。
ホルン
ヴィーナさん、これは歩兵戦闘車の中で使われるものです。ヴィクトリア軍はこれが発する信号を通して互いの所属を確認し合うんです。
シージ
……つまりその中には、軍事識別コードがあると?
ホルン
ええ。この黒い箱は間違いなくヴィクトリア軍のものです。表面のデザインはよく知っていますから……
だけど、これがかつて仕えていた部隊コードなんて、とうに跡形もなく消えたものと思っていました。ガリアの廃墟の中に埋もれる――
――「模範軍」と共にね。
私たちテンペスト特攻隊の前身でもある伝説の部隊です。ただ、思いもしませんでしたけどね。これが紆余曲折を経て、ヴィクトリアの元へ……
私たちの手元へ、再び戻って来るなんて。
シージ
……ハッ。
運命からの贈り物と受け取っておこう。
デルフィーン
これって……シアラー少尉が残していったビーコンが信号をキャッチしたようです?
シアラー少尉ですか?
シアラー少尉
デルフィーンお嬢様、「ガラヴァエ鉄盾」で思わぬ事態が……
今あなた方の元へ向かっているところです。一時間ほどで合流できると思います。
少し不愉快な情報を持ち帰ることになりそうです。それと、あなたにぜひお会いしたいという客人も……
シアラー少尉
傷口の処理がお粗末すぎる。まったくもって無茶にもほどがある!
君がそれほど長い間熱にうなされていたのは、傷口が一見すぐに癒えたように見えても、内部の炎症に有効な処置が成されていなかったからだ。
こうした重傷であればもっと早く軍医を介入させ、随時各指標の検査を行い、後遺症が残る可能性を抑えるべきだ。
君の身体を貫いたのは単なる金属片であって源石結晶ではない。あれらはサルカズの巫術装置であって、少しでも体に付着すれば完全な感染を引き起こしてしまうからな。
だがたとえ源石による負傷でなくとも、ああいった状況下では感染の可能性は極めて高いんだ。君の採血結果を見たが、血液中源石密度は正常値の範囲に収まっているな。
ただただ幸運だった、としか言えんよ。
シージ
ふぅ……少尉、あの時は状況が混乱していたんだ。
少なくとも、私は今生きている。私の身体は頑丈なんだ。
シアラー少尉
……はぁ。
まあいいさ。デルフィーンお嬢様から当時の状況については聞いている。
双方の戦力差を鑑みれば、確かに軍事学校の教材としても使えるレベルの戦いだったと言えるだろう。それに君たちの大半は軍人ですらないのだからな……
シージ
では、私たちの成したことなど誰の記憶にも残らんだろうと、惜しむべきか?
シアラー少尉
それは違うな、シージ。
私も、外にいる兵士たちも、そしてチェットリーの生存者たちも、皆君たちが成したことを忘れはしないだろう。
伝説とは、往々にして公的な記述から生まれるものではない。
シージ
……貴様からそんな言葉を聞くとはな。
シアラー少尉
コホンッ。
よし、君の傷は改めて処置しておいたぞ。これからは随時検査させてもらうから、身体能力が高いなどという理由でごまかさないでくれ。医者は私の方だということを、よく覚えておくように。
君の仲間たちの傷の具合も一人一人再検査するつもりだ。負傷した兵士や、市民も含めてな。
シージ
ありがとう、少尉。
シアラー少尉
ああ……それと。
君の方もあの客人に会いに行ってやってくれないか。デルフィーンお嬢様では……応対に手を焼くのではないかと心配でな。
私のこれまでの悪行と、君に対する誤った評価に関しては、心からお詫び申し上げる。
だが一つだけ、決して曲げない考えがある。君はあまりに向こう見ずすぎるし、感情的すぎるってな。
あらゆる物事を、常に自分一人で解決しようとする必要はない。時には振り返ってみることも大切だ。そこには君を支えたいと願う多くの者たちが立っているのだから。
シージ
……
疲れ果てた子爵
ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ――プハァ!
デルフィーン
もう少し落ち着いてお飲みください、マニングおばさん。
疲れ果てた子爵
もう少しで死ぬかと思ったわ! ここへ来る道中、私がどれだけのサルカズを避けながら進んできたことか!
けどシアラー少尉がいてくれて助かったわ。彼が何日も諦めずに移動中の「ガラヴァエ鉄盾」に追いつこうと動いてくれたおかげで、彼と鉢合わせて救ってもらえたんだもの。
んー……ただ、なかなか頼れる人ではあるけど、少し融通が利かなすぎるきらいがあるわね。あの人たちが彼の乗船に同意するわけがないでしょう。
デルフィーン
あの、あなたは「ガラヴァエ鉄盾」から逃れてきたのですか? あそこは……一体どうなっているんですか?
疲れ果てた子爵
話してるだけで腹が立ってきたわ、あの忌々しい士官どもめ! 一斉に要塞中枢に突っ込んでくるし、この私に剣まで突きつけて! ヴォルテール侯爵の後ろ盾があるに決まってるわ!
なんとかチャンスを伺って、こんな質素な服に着替えて抜け出してきたのよ! 要塞の昇降機でドレスが破れるところだったわ!
デルフィーン
……どうやら運が良かったみたいですね、おばさん。
疲れ果てた子爵
デルフィーン、私はてっきり、今回はただあなたのお母さんについて前線を見学しながら、あなたを迎えに来るものと思ってたのよ。移動要塞の中なら安全でしょう? なのにまさかあんなことが……
デルフィーン
……
お母様の生き様は、ウィンダミア公爵の名に恥じぬものでした。
疲れ果てた子爵
ええ、その通りだわ。
だけど、これからはあなたが、そのウィンダミア公爵として生きるのよ、デルフィーン。
デルフィーン
おばさん? ちょっと、痛いです……どうしたんですか? そんな顔なさって。
疲れ果てた子爵
参謀団が急遽領地へ撤退していったのはね……公爵の死が、リターニア人の陰謀によるものと睨んだからなの。
バカげた話だと思うかしら? けど、証拠はすでに見つかっているのよ。リターニア人がサルカズと通じているとは限らないけど、今回の結果を助長したのは間違いないわ。
デルフィーン
なんですって……? リターニア人が?
疲れ果てた子爵
参謀団はリターニア貴族へ軽率に非難を浴びせることには消極的だけど、領地内での反乱には目を光らせ始めているわ。
サルカズと争い合った結果、何世紀もの間平和だった領地がリターニアの領土になるなんて展開は、誰も望んじゃいないからね。
デルフィーン。あの人の娘である以上、あなたには間もなく果たすべき使命が訪れるわ。
さて、じゃあ少しの間休んでから……一緒に、この場を離れるとしましょうか。
デルフィーン
――離れるって、どこへですか?
疲れ果てた子爵
あの下賤な人たちと一緒にいてはいけないわ。
デルフィーン
彼らは下賤な人たちなんかじゃありません。言葉に気をつけてください!
疲れ果てた子爵
……ねえデルフィーン、よく聞いてちょうだい。
あなたが本当に彼らを大切に思っているのなら……彼らのことを英雄だと、ヴィクトリアの一部であると思っているなら――
――お母さんの領地内に、ああいった人たちがどれだけいるか考えてみなさい。
彼らを本当に守りたいのなら、なおさら私の意見を聞くべきよ。カスター公爵に支持を求め、それから領地へ帰ってもう一度権力を手にするの。
たとえ……カスター公爵の下僕に成り果てようと、己の使命を果たすことはできるわ。
デルフィーン
私は――
疲れ果てた子爵
それとも何? ただ彼らが共に戦ってくれたってだけの理由で、彼らのことは愛しておいて領民は愛さないとでも言うつもり?
受け入れなさい、私のデルフィーン……あなたも、あなたのお母さんも、もう十分苦しんだじゃない。
カスター公爵の提案を受け入れれば、少なくともウィンダミア公爵の領地が窮地に陥ることはなくなるわ。
デルフィーン
……
疲れ果てた子爵
何をためらっているの!? まさか本気で自分の一族を、血統を、使命を捨てて、永久に彷徨い続けるつもりじゃないでしょうね!?
デルフィーン
……おばさんの気持ちはよく分かります。
私は母の娘です。あなたの言う通り、私は仲間たちだけじゃなく、領地に住まう民たちに対しても同じく責任を持っています。
だとしたら……
なぜソードガードたちは、使命を背負う私を戦場に置き去りにしたのでしょうか?
私の使命が、本当に疑いの余地のないほど名誉あるものなら、なぜ私を訪ねに来たあなたがそんなに狼狽えておられるのですか?
疲れ果てた子爵
それは……
デルフィーン
おっしゃる通りです。仮にウィンダミア公爵領に本当に陰謀の霧が立ち込めているなら、私には責務がありますし、私自身も何か力になりたいと望んでいます。
だけど……
シージ
デルフィーン、我々は貴様の味方だ。言いたいことがあるならはっきり言うといい。
すまない、どうしても我慢できなくてな。
子爵、貴様は我々が先刻なにを経験したか知っているか?
疲れ果てた子爵
……あなたは……
デルフィーン
私は、あなたと共には行きません。
疲れ果てた子爵
あなたには果たすべき使命があるのよ!
デルフィーン
私は母の娘であり、彼女ら戦士たちの仲間です。それ以外の何者でもありません。
かつてはそうじゃなかったとしても……私はもう信じていません。
私は彼らのため……あなた方のような人に、彼らの命を弄ばせないためにここに立っています。最後の一滴の血を流し尽くすまで、私はどこへも行きません。
今は、どうかお引き取りください。
サルカズに捕まらないよう祈っています。
もう大丈夫です、行きましょう。
シージ
野営地を出て西へ向かえ。貴様が幸運に恵まれていれば、あの慈悲深いカスター公爵に会えるはずだ。
疲れ果てた子爵
……公爵の庇護もないのに、自分たちは生き延びられるとでも思ってるの?
シージ
やってみせるさ。
疲れ果てた子爵
私は……確かにカスター公爵の元へ向かうつもりよ。適当に速度を緩めておいてあげるわ。これがあなたたちにとって最後のチャンスだと思ってちょうだい。
私についてくれば、みんな生き延びられるわよ。
シージ
止めはしない。
疲れ果てた子爵
けど、デルフィーンと、あの子の母の……
いえ、私は何も間違っちゃいないわ……全部あなたたちのせいよ。単純で、愚かで、自分が一番正しいと思い込んでいる。
じゃあね。
シージ
……
デルフィーン
彼女の話は聞きましたね。正直言って、認めざるを得ません。提案された条件が多くの人にとってとても魅力的なものであることは。
ヴィーナ、私たちは先刻、最も困難な時を乗り越えました……
けどこれからは? 皆が燃え上がらせた闘志と士気が、苦難によって完全に燃え尽きてしまったその後は?
彼らが向かうべき先を、一体誰が教えてくれるんでしょうか?
シージ
皆の者。
もし貴様らが、名だたるヴィクトリア公爵たちをいまだ信頼しているなら、今すぐあの女性を追いかけるべきだ。
誰もその選択を責めはしないだろう。
……誰も動かないか。
より力の強い者の庇護を求めることは、我々皆が持つ本能ではないのか? それは何も恥ずべきことではない。
なぜなら、私もそう思っているからだ。夢の中でも、この役立たずの剣に友人たちを救う力があればと願うんだ。そうであれば誰も死なずに済むのにと。
彼女もそうだ。誰の目にもつかぬところで、母の命を救えた者がいたらと夢想し、幾度となく涙を流したことだろう。
貴様もそうだ。うつむくな、私は知っているぞ。護送部隊が逃げ出さなければ、サルカズに兄弟を死体も見当たらぬほどバラバラに切り刻まれることもなかったのにと、考えたことがあるはずだ。
だが貴様らは誰一人この場を離れなかった。
なぜなら知っているからだ。貴様らの生死を真に気にかける貴族など存在しないことを。
なのに貴様らは、なおも誰かの力と庇護を当てにするのか?
我々の生活はいつもこうだ。人や、あるいは出来事が真に何かをもたらしてくれたことなどないのに、我々は自らそれらを崇拝し、支配されようとする。
虐殺、感染、包囲。そんな危機の数々を、我々は自らの力で生き延びてきたじゃないか!
我々は皆故郷へ帰りたいと、この骨の髄まで腐った戦争を終わらせたいと願っている。だが逃げているだけでは、勝利を手にすることは叶わない。
それを成す最も手っ取り早い方法は、あのいまだロンディニウムに隠れている戦争の元凶、クソッタレどもをぶん殴ってあごを外してやることだ!
あの大公爵どもに拳を振るう勇気がないのなら、我々がロンディニウムを取り戻し、奴らをぶん殴ってやろう!
誰も故郷へ連れ帰ってくれないのなら、自らの足で帰ろう!
我々は偶然にも、とある贈り物を受け取った。公爵たちがガリアに置き去りにした、部隊の識別コードだ。
「模範軍」。あれはかつて、輝かしい名で呼ばれていたそうだ。精鋭たちの集まりであり、国家の意志であり、積み重ねてきた数々の戦果だ。
だがそれも今や、この手の中の単なる箱に過ぎない。
不思議な力など何もないが、これを持ってロンディニウムへと戻り――
戦争をけしかけた間抜けどもの顔面をボコボコにした後で、この黒い箱を公爵たちに突きつけてこう言ってやろうじゃないか――
ここは我々のシマだぞ、クソッタレ!
「模範軍!」「模範軍!」「模範軍!」
インドラ
そういやあ、変な夢を見たんだよな――
金色の野獣が俺たちの野営地を散歩してる夢をよ。
モーガン
なんか縁起のいい夢なんじゃないの?
これからの作戦が全部うまくいくといいねー。
ダグザ
自救軍は私たちより先にブレントウードに着いているのだろうか……
彼らと合流したら、この軍をさらに増員できるな。
……数日前には誰も夢にも思わなかったことだ。自分たちだけの軍隊を立ち上げるなんて。
「模範軍」という名はなかなか気に入った。
モーガン
けどヴィーナ、ほんとに決めたの? 全員を引き連れてロンディニウムを取り返すなんて。
ほとんどの人たちは王庭軍と正面切って戦うなんて無理なんだよ。
デルフィーン
もしかしたら……
この道中でさらに犠牲が出るかもしれません。
シージ
……
私が皆を守ってみせる。
それかもしかしたら、もはやあいつらには誰かの庇護など必要ないかもしれないな。