原点からの降臨
ロンディニウム工員A
これの使い方ってこうで合ってるよな? 敵に狙いを定めて、それから――
うわっ!
――何なんだよ、ビビった。
キャサリン
トミー、使わない時はセーフティをロックして力を抜きな。危険っていう観点からすれば、あんたが普段使ってる旋盤だってそう大差ないんだ。どっちも人を血まみれにできるものだよ。
ロンディニウム工員A
あは、はは。
今のこの状況で、あの白髪のフェリーンさんは一体どっからこんな装備を仕入れてきたんでしょうね……
キャサリンさん……?
キャサリン
いや、大丈夫、いつもの持病さ。
この武器はどれも――新品で相当いいものだ、けど埃を被ってる……しばらくの間保管されていたようだね。
規格からして軍で支給される標準品とは違う、隠密作戦を実行するために特別に製造されたものに見えるよ。それに、ロンディニウムの軍需工場産でもない。
どうやらあの「ミルスカー」とかいう女性は一筋縄じゃいかなそうだ。あたしらの知らないただのギャングってわけじゃないね。
ロンディニウム工員A
それってつまり、彼女は実はどこかのお偉いさんがロンディニウム内に仕込んだスパイってことですか? なら、俺たちと武器を交換してくれるってことは――
キャサリン
ああいう連中のゲームの中で自分がいい役回りにあてがわれるなんて期待するんじゃないよ。今更あたしらを訪ねてきたのは、元々別の使い道があったけど、使う機会を逃したってところだろうね。
もちろん、どこぞの公爵がロンディニウムに隠していた秘密の兵器庫を「ミルスカー」さんが破壊して、「気前よく」中身をあたしらに分け与えた可能性も捨てきれないけど、どうだろうね。
けどまあ彼女の目的が一体何であれ、あたしらにとっちゃもうなんでもいい。どのみち様子を見ながら進むしかないんだからね。
ロンディニウム工員A
空が真っ赤になってから何度か偵察に行きましたが、どういうわけか今のハイベリー区ではサルカズの連中をまるで見かけなくなりましたよ。
キャサリン
それは安全になったってことじゃないさ。むしろ逆に、都市管理に意味がなくなったとサルカズが判断したってことだ。生産ラインやら、武器製造現場やら……奴らにとって役立たずになったんだよ。
ロンディニウム工員B
昨日ちょいとマグナ区に行ってみたが、あそこは巨大な法陣になっていたぞ――
何千何百っていう人があの不気味な巫術に閉じ込められて、サルカズはそいつらの命を使って祭壇を動かしてるんだ。
戦争がこのまま続くなら、すぐに俺たちの順番が回ってくるだろうな。
キャサリン
……
ロンディニウム工員A
これからどうします? 俺たちが秘密裏に作ったアレを動かして、そんで――
キャサリン
馬鹿な真似はよしな。いい装備が手に入ったからってすごい特殊部隊にでもなったつもりかい。
そりゃいくつか使える武器が手に入ったさ。サルカズがあたしたちを掃討しに来たら、その武器を使えば移動する際の自己防衛の足しにはなるだろうね、だけど足しにしかならないよ。
あたしらは――
???
「チャンスを待つ必要がある」、でしょ。
ですがチャンスはいつになったらやってくるんでしょう? キャサリンさん。
ロンディニウム工員A
お、お前たちは!? 俺たちの居場所がバレたのか?
キャサリン
……あんたたちのその格好は知ってるよ。
わざわざ手間暇かけてこんな時にロンディニウムにきて、そのうえあたしたちのことまで調べるなんて……フンッ、あたしらみたいな老いぼれ工員が、あんたらの何の役に立つんだろうね?
「レユニオン」の皆さん。
???
十三番ダクトがまだ稼働中、五十四番輸送索道にも摩耗痕がある。
後ほど全てをよく確認した方がいいと思います。私たちが気づいたからには、サルカズも気づくかもしれません。
ナイン
初めまして、私はレユニオンのナインです。
キャサリン
……忠告に感謝するよ。
で? あんたらのような危険分子がロンディニウムの地下に潜り込んでるのは、親切にもあたしらにそれを伝えるためだけだってのかい?
ナイン
私たちは、あなたたちがいつまで待つつもりか知りたいだけです。
うちの部隊にいる以前サディアン区で働いていた者たちが言っていました。ロンディニウムの工員は自分たちがこの偉大なる都市を作り上げたと常に誇っていると。
ですが、戦争が始まる前にしろ今にしろ、この都市があなたたちのものであったことなどあるでしょうか?
キャサリンさん、お身体の状況は――
キャサリン
あんたたちの噂は聞いてる。力もあるんだろう。けど非感染者が全てを奪い取ったっていうお決まりの理論をあたしにアピールするのはよしとくれ、興味がないもんでね。
今のロンディニウムで、体に石が生えたからって何だってんだ? そんなことより気にかけなきゃいけないことは山ほどある。
ナイン
その通りです。
感染者、非感染者……今のロンディニウムにおいて、そんなものを議論したところでまるで意味がありません。
それで、あなたたちは自分たちの都市を奪い返すつもりですか?
全てが起こるのを傍観した者の手から、事態をここまで発展させた者の手から。
キャサリン
あんた……何を言ってるんだい?
ナイン
ロンディニウムは今、源石粉塵で満たされた都市となったのです。多くの者が感染し、多くの者がそれで死ぬでしょう。
その元凶は裁きを受けることになる。そいつらが何者であろうと、体に石が生えていようとなかろうと。
レユニオンは二度と、座したまま結果を待つことはしません。
ロンディニウム工員A
お前たち何を――
レユニオン構成員A
おい、俺のこと覚えてるか、トミー?
ロンディニウム工員A
マヨール!? お前、病気になってそれで――あぁ、だからレユニオンにいるのか。
レユニオン構成員A
俺は帰って来たぞ。ほらやるよ、抗鉱石病薬、一日一錠だ。まあ大して役には立たないから、自分の運が良いことを祈っとけ。
ロンディニウム工員A
お、お前たち……
正直言うと……お前が工場を去った時のあの目……俺はてっきり、俺たち全員がお前みたいに感染者になっちまえばいいと望んでるのかと思ってた。
レユニオン構成員A
……あの時は、本気でそう思っていたかもしれない。
だが俺が仕事を失うことになったのはお前のせいでも、キャサリンさんのせいでもない。お前たちが俺のために口添えしてくれたのは知っているが、当時の規則がああだったからな。
けど未来も……そうとは限らない。
ナイン
装備の使用とメンテナンス、高濃度源石環境における行動規則、戦術協力、隠密行動――あなたたちが必要とするどんなことでも、私たちは力になります。
あなたたちさえよければ、この場所を解放するお手伝いをしましょう……ここで起きた全てをただの「代償」としか見なしていない権力者どもの手からな。
キャサリン
……あんたたちの助けがなくても、あたしらはロンディニウムを奪い返すさ。レユニオンの「ナイン」さん。
だけど――
仲良くやろうじゃないか。
遠くの声
アエファニル……
Logos
母上……?
おぼろげな人影
……我が子よ。
Logos
我の送別に訪れたのか?
ラケラマリン
……我が子よ、甚だしき怪我であるな。
Logos
我は敗れた。
この身の持ちうる限りを尽くしたが、なおも敗れた。
しかし、それにより己が選びし道を後悔することも、信ずる理想に疑義を持つこともない。
ただ……母上を、失望させてしまった。
ラケラマリン
さしもあらず。
そなたは無数の強敵に打ち勝った。長年にわたり、バンシーの王庭にそなたほど強く、揺らがぬ戦士や王庭の主が現れたことはない。
バンシーの王庭は、そなたの傑出した才と確固たる信念を誉れと思う。うむ、たとえそなたが王庭の伝統を認めずとも、そなたは妾の誇りである。
Logos
感謝を……
どうか、我のために最後の挽歌を奏でてはくれぬか……
母上?
ラケラマリン
最愛の我が子よ、惰気を催すでない。
まだ眠りにつくべき時ではないぞ、起きよ。
Logos
我はすでに――
ラケラマリン
アエファニル、起きるのだ。
バンシー風の装置
ようやく目覚めたか。
Logos
母上……?
愛情深い声
ふむ、いまだ妾の声を認識できるとは、望外の幸いよ。
さあらば、久方ぶりに再会した母の頬に、挨拶代わりの口づけをすべきではなかろうか?
Logos
そのつもりはないが……
この珍妙な装置……よもや、母上がずっと我のそばにいたのか?
愛情深い声
妾か? いいや……そんなはずはなかろう。最愛の我が子はすでに大きくなったのだ、子に自由に成長してもらうことは母として当然のこと。
これは、ただ慈愛に満ちた呪文が込められた特別な装置にすぎぬ。こうすることで、そなたの生活における重要な場面を記録し、収蔵することができよう。
まさか戦場でのそなたの素晴らしき振る舞いに加え……そなたが布帛(ふはく)に着替えるところを記録しようとは思わなんだ。
何と言うべきか……テレジア殿下が定めたデザインではあるが……
うむ……そなたが気に入っておるならそれでよい。
Logos
我の装いにケチをつけるより、この装置のデザインの方が……
愛情深い声
もしや、そなたはこの装置を愛いとは思わぬのか?
Logos
……
バンシーは言の葉の重みを尊重すべきである。美醜について装置と口論するのはやめておくとしよう。
愛情深くも厳しい声
何を言うか!
これはそなたの母、さらには姉妹らが深き愛情を授けた装置であるのだぞ! 我らの誼を、美的センスをかくも軽視してよいと思っておるのか!
Logos
……
母上……感謝する。
愛情深い声
……
行くがよい、そなたのともがらが待っておろう。
アエファニル、そなたは永遠に妾の誇りだ。
Mon3tr
(恐ろしい雄たけび)
アーミヤ
この先は崖です、道がありません!
待ってください、ザ・シャードの方角……
あれは――何ですか?
ケルシー
……間に合わない。
ティカズの最後の一筋の残留は、やはりこの大地で散った。
しかしそれは首肯を、承諾を、返事を得た。
初めは、はっきりとした感覚がなかった。
ただ赤い空で、ザ・シャードの先端に集まっていた暗雲が消えただけだ。いつの間にか、別のものがその位置に取って代わっていた。
枝と蔓が囲む中で、真っ赤な果実がついに実る。
あまりに奇異な光景であったが、それは人々の心に恐怖を生むというより、むしろはたとした気付きと納得を与えるものだった。そうだ、こちらこそが本道なのだと。
「世界」は、本来このような姿で動いていたようだと。人々は偶然にも時計の裏蓋を開け、ずっと無視されてきたぜんまいと歯車を見つけただけなのだ。
源石はテラの生態の一環であり、大気中の源石は天災をもたらし、人体の源石は病を引き起こす。昆虫でさえ、自らの体に源石による硬い殻をまとっている。
平行線というものが永遠に交わらないのと同じくらい自然なこととして、源石とテラは共生している。これはすでに、この大地の理となっている。
しかし、源石はどこからやってきたのか?
ケルシー
聴罪師の「アナンナ」に対する制御は予想よりも上であったため、我々は一歩遅れてしまった。
いや……「アナンナ」がもたらせるものは天災に留まらない。あれの機能もまた単なる兵器を遥かに超えている。
あれは単にサルカズの原点であるだけでなく……テラの現在における全ての原点であるとすら言えるものだ。
今回は、我々が今に至るまでに直面した……いや、テラの歴史上最大の危機になるかもしれない。
アーミヤ
「ライフボーン」、Wさんがまだあそこにいます。あの巨獣の力を借りましょう!
少し待ってください、Wさんに連絡してみます――
ダメです、やはり繋がりません――
Wの声
もしもし――やっ……わ!
……ウサギ……あんたたち……どこ……
すぐに……マンフレ……今……ヘドリーが……
約束の時間……
――
アーミヤ
Wさん! よかった、皆さんまだいるんですね!
ですがノイズが強すぎます――
Wの声
……どこに? どうやっ――
アーミヤ
通信が切れました!
ドクター、「騒がしい」というのは……?
ケルシー
危険すぎる。
だが……試してみる価値はある。
十二時間前
作戦開始から五十八時間
王庭軍戦士
将軍、「ライフボーン」の中枢を制御しました。
マンフレッド
骨骸を点検し、抵抗を試みる傭兵は全て殺せ。周辺部隊を率いて残りの傭兵を掃討するようにナディーンに伝えよ、一人として生かすな。
骨骸を中心に防御を周到に築け。それから、十分な量の爆破装置を骨骸に設置するのだ。
王庭軍戦士
将軍、それは……
……了解しました!
マンフレッド
……
血がマンフレッドの足元まで広がっている。彼は地面に倒れた者へと視線を向けたが、すぐに身を翻して船室を離れた。
王庭軍戦士A
将軍、「ライフボーン」内にて捕らえた敵の傭兵たちは、いかが処理いたしましょう?
マンフレッド
これで全員か?
王庭軍戦士A
はい。中にはかつて軍事委員会に仕えていた傭兵も多数います。
マンフレッド
全員処刑するのだ。
王庭軍戦士A
はっ!
マンフレッド
……
出てきなさい。
パプリカ
マンフレッド……将軍。
マンフレッド
……パプリカ。
君にここに来いと言ったか?
パプリカ
うちは……荷物の輸送中に、ここの傭兵たちに捕まったっす。
できるだけうちの小隊メンバーを守って、生きて帰らないといけないから……
マンフレッド
それは、軍事委員会がこの骨骸に進攻した時に君が我々の作戦に応じなかった理由の説明になっていない。
しかも……ここに潜んで、何をするつもりだった?
パプリカ
いや……うちはただ……ちょっと怖くて。
マンフレッド
怖いか……フンッ。
パプリカ、これまでの君の任務は終了だ。
新たな任務は、軍事委員会を裏切ったこの傭兵たちを処刑することだ。
パプリカ
なんで……この人たちはもう捕虜なんすよ――
マンフレッド
この者たちは戦士としては組織を裏切り、傭兵としては一方的に契約を破棄した。どの観点から見ても、代償を払う必要がある。
パプリカ
けど、この人たちにもう抵抗する力はないし、将軍の脅威にはならないっす。
こんな殺戮に意味なんてあるんすか? 将軍だって言ってたじゃないっすか、より多くのサルカズをこの戦場から生きて家に返してやりたいって――
マンフレッド
パプリカ、君にはすでに選択の機会を与え、また辛抱強く答えを出すのを待ってやった。
今日私を失望させたのは君が初めてではない。
王庭軍戦士B
将軍!
術師エンジニアが一通り調べたところ、「ライフボーン」の基本骨格は無傷でした。傭兵たちには骨骸を直接改造する手段がなかったようですが、しかし……
骨骸に爆薬を設置している際、我々が設置したものではない爆弾が多数発見されました。
マンフレッド
爆弾?
王庭軍斥候
将軍、ナディーン旗尉に連絡がつきません!
マンフレッド
何だと?
W
ヘドリーの石頭も少しは役に立つことがあるじゃない。やっぱり部隊を連れて襲撃しに来たのね、マンフレッド。
あら、そういえばちゃんと顔を合わせるのはこれが初めてだったかしら? 自己紹介させてもらうわ、あたしはバベルのメンバー、そしてあんたの命をゴミ回収しに来た者よ、Wって呼んで。
マンフレッド
ヘドリー小隊の傭兵か……
死にに戻ったのか?
W
死ぬ?
ハッ、骨骸の襲撃がこんなに上手くいくなんて不思議に思わなかった? 傭兵はどこへ行ったか考えないの?
今、包囲されてるのは一体どっちか見てごらんなさい。
マンフレッド
烏合の衆の蛮勇で、軍事委員会の戦士に対抗すると?
W
ずいぶん吠えるじゃない。せいぜいあんたの体がその鼻っ柱と同じくらい強くて頑丈なのを祈ってることね。
だって、あんたの部隊が攻めてくる前に、あたしが先にあんたの頭を吹き飛ばしちゃうから。
マンフレッド
フンッ……
マンフレッドが剣を前に振り下ろそうとするも、足元の影に手足を絡め取られる。そこから抜け出す間もなく、周囲にばら撒かれた爆弾が次々に炸裂した。
イネス
W、ちゃんと狙って!
W
説教はたくさんよ! 言ったでしょ、爆発範囲のコントロールは得意だって!
マンフレッド
ゴホゴホッ――
骨骸を破壊するつもりか――
W
どうしたの、心が痛むかしら?
お生憎様。あたしはヘドリーみたいに女々しくないの。必要なら、あんたと一緒にこの骨骸を埋葬してやったっていいのよ。
ねえ、この大切なデカブツを失うことと、最愛の養子が死ぬこと、どっちの方がテレシスにより辛い思いをさせられると思う?
マンフレッド
させん!
アスカロン
……間に合った。
W
アスカロン?
あんたその……
全身を血に染めた刺客が強敵の剣を阻んでいる。アスカロンの持つ刃は微動だにしなかった。
マンフレッド
君は……
アスカロン
私を殺したいか? お前の覚悟ではまだ足りない。
W
ねえアスカロン、その金髪頭を斬り落としてあたしにくれたら、今後一年間の任務はあんたの指揮に従うことを検討してあげてもいいわよ!
マンフレッド
アスカロン、君に問うたのは一度や二度ではない。君が今信じているものは一体何だ?
アスカロン
……私たちの間の隔たりには、今日この時この場で終止符が打たれると信じている。
そして今回、私は相手を間違えたりはしない。
作戦開始から七十時間
W
ふぅ……はぁ……息つく暇もないわね。ほんと人遣いが荒いったらないわ。
「クレーン」! あんたの部下はどこなの!? 背骨の頂上で守ってろって言ったのに、なんで空挺兵がずっと下りてきてるのよ――
……
忘れてた。「クレーン」はしばらく前に死んだんだったわ。マンフレッドのせいで、頭まで麻痺してきたわ。
アスカロン――
イネス
彼女はまだ外よ。
W
ここを出るときには大量の死体を運ぶことになりそうね。めでたいわ。
イネス
W! 私の見間違いじゃないわよね、ここの神経束が光ってる?
ドクターたちは、成功したの?
はっきりしない通信音
W――
どうにかし――飛ぶん――
――一番騒がしい場所へ――
イネス
ドクターたちからの通信よ!
W
イネス、ヘドリーの息はまだあるのか確認してくれる!?
ヘドリー
(弱々しい呼吸)
イネス
幸い……血はほとんど止まっているわ。
W
ならぐずぐずしてないでさっさとそいつを起こして! 巨獣のお友達を目覚めさせて働かせなさい!
イネス
無茶言わないで――
W
いいわ、ヘドリーはまだ寝なきゃいけないにしても、こいつはさすがに寝すぎよね。
こら、老いぼれ! 起きなさい! こういう目覚まし時計は好きかしら――
イネス
あなた頭おかしいの!? ヘドリーは重傷なのよ!
爆発音が次々に鳴る中、混濁した声が広間に響き渡る。
混濁した声
ん?
おぉ、お前たちか。歴史に精通するサルカズよ、誰がお前をこんな姿にした? お前たちの大冒険は失敗に終わったのか?
W
無駄話はいいのよ! 残りの骨まできれいさっぱり吹き飛ばされたくないなら、あたしたちを乗せてここから去りなさい! あんたの体にいるあの王庭軍のノミどもは振り落としておくことね!
混濁した声
あぁ――忘れていた。儂の体はまだここにあったのだったな。
だがな、無理難題を押しつけるな。儂の体にいるお前たち全員が同じ大きさほどのノミなのだ。
はぁ、とにかく行くとしよう。
混濁したため息に伴い、時空の渦が一瞬にして湧き起こった。
マンフレッド
今回は……私の勝ちだ。
大した勝利ではない。時間をかけ過ぎた……それに、今まで君がこれほど弱かったことはない。
ここまでの戦闘で君は大変に消耗しており、こうした形式の戦闘も専門外だ。
アスカロン
ゴホゴホッ……
お前もこれまで私に対して本気で剣を繰り出したことがない。お互い過去にチャンスを逃している。
マンフレッド
アスカロン、君もよく分かっているだろう。新たなカズデルはすでに出来上がった。そして君が抵抗しているのは、その未来における我々自身だ。
アスカロン
「未来」、フッ。
お前は言っていたな、私は殿下の考えをまるで理解していないと。
だが今なら分かる……
殿下が成せなかったことは、彼女の代わりに成す者がいる。アーミヤが、ケルシーが……私は彼女たちを阻む障害を取り除こう。
マンフレッド
君はやはり頑迷だ。一体どうすれば分かってもらえるのだ、これはテレジア殿下の願いでもある!
アスカロン
……もう十分だ。
今、私とお前はただの敵同士……もう、とうに戻れないんだ。
マンフレッド
「ライフボーン」が起動している? そんなはずは――
アスカロン
お前たちの計画は失敗に終わった。お前はもう私たちを止められない。
マンフレッド
……この骨骸は滅ぼされる。
何人たりとも……将軍がカズデルにもたらす未来を脅かすことは許さん。
……たとえ、我々の誰もが未来を目にできる者ではないとしても。
マンフレッドは剣を捨て、懐から起爆装置を取り出した。彼の指先はスイッチにかけられている。
しかし、そこには躊躇いがあった。
なぜだ?
戦場に長く身を置き、自分一人の生死などとうに投げ捨てても構わない。彼が躊躇うはずなどない。
しかし、「ライフボーン」は……
どれだけの者にとって、故郷への帰路となるだろうか?
アスカロン
――!
マンフレッドが躊躇ったその瞬間、アスカロンは残されたほんのわずかな力を振り絞って彼に飛びかかった。
二つの傷だらけの身体がぶつかり合い、時空の渦へと共に落ちていく。
ケルシー
このようにして引き起こされる源石反応は極端に激しく、制御不能だ。
ドクター、心の準備をしろ。
アーミヤ
では――
黒いアーツが、まるで連なる山々のように巨大な源石の中に沈み込んだ。
アーミヤ
崩壊が始まりました。
ケルシー
走れ!
あなたは慣れた手つきでMon3trの爪に抱きつく。Mon3trは愉快そうに鳴くと、素早く駆け出した。
破滅のエネルギーが背後で容赦なく放出され、恐ろしい轟音が鳴り続けている。
あなたの周囲の全てがそれに戦慄するほどの激しい反応だった。
「霊骸布」
……
しかし、ナハツェーラーの軍団は戦慄と共にやってくる。
アーミヤ
「霊骸布」が追撃してきています!
ケルシー
戦わなくていい、そいつらの足止めを食らうな!
破れた軍旗を身にまとう戦士が集まり、漂う。一部は源石反応に呑み込まれるも、より多くの者が獲物を追う部隊の穴を埋める。
Mon3tr
(不満げに鳴く)
「霊骸布」がMon3trの体にまとわりついた。彼らの空虚な呼吸があなたの耳元でこだまする。
ナハツェーラーの戦士は、あなたたち全員を死へ引きずり込もうとしている。
???
「争闘の影は、争闘がために退く。」
Logos
ドクター、エリートオペレーターたちを信じるがよい。
彼らは常にうぬが最も必要とする時に現れる。
気を抜くには尚早である。
時空の潮流を感じた。巨獣が来るぞ。
我らが確実に骨骸へと乗り込めるよう、呪術でもってここに導を立てるとしよう。
この崖から飛び降りよ。
時間は差し迫っておる。
ドクター、アーミヤ、ケルシー医師、今だ。
跳べ。
イネス
W! 残りの王庭軍は私が対処してるから、そのまま巨獣を操縦して!
W
あ、あたしが今操縦してるの?
老いぼれ、えーっと戦場で一番騒がしい場所へ行きなさい。
返事はなく、混濁した声が響くことはない。ただ話すのが面倒なだけかもしれない。
W
こいつ、あたしたちを超巨大砲とやらの砲身の中に送り込んだりしないわよね?
幻の潮が引いた。
W
……本当に爆発の中心に送り込んでくれたわね。
やるじゃない。
白銀の呪文で形成された縄が浮遊する巨獣を止め、数人の影が船室に落ちた。
W
子ウサギ? バンシー?
あんたたちほんとに乗り込んだの?
アーミヤ
あはは……
W
よくやったじゃないの。あんたたち本当に聴罪師の邪悪な儀式から逃げてこられたのね。
ご覧の通り、骨骸は無事よ。
ヘドリーはマンフレッドの剣を食らったわ。まだ息はあるけど。
ほかの奴に関しては……
イネス
骨骸にアスカロンとマンフレッドの痕跡は見られなかった。
彼女はきっとマンフレッドの足止めを食らい、骨骸が飛ぶのに間に合わなかったのでしょう。
Logos
アスカロンの実力は疑う余地がない。
我を信じたように、彼女を信じよ。
W
あのね、ここで涙を流したところで状況は変わらないでしょ。それくらいにしときなさい。今はまだやらなきゃいけないことがたくさんあるのよ。
次の計画は何かしら?
ケルシー
この場所は目立ちすぎた。今すぐ移動する必要がある。