作戦対策会議

三時間後
ホルン
サルカズ部隊の痕跡は見当たりませんでした。
シージ
「ライフボーン」はただでさえ目立つ上に、墜落時の騒ぎはもっと大きかった。奴らがここに駆けつけるのも、恐らく時間の問題だろう。
クロージャさん、我々の現在位置は特定できたか?
クロージャ
あのでっかい骨骸が落ちてきてから全通信システムがダウンしちゃうし、あたしのドローンもあまり遠くへは飛べないし。こんなノイズ初めてだよ。
待って、ドローンが何か見つけたみたい……
こっちだ!
……
何だろこれ? レコーダー?
確かに今の戦場じゃ、直接顔を合わせないで情報を伝えるにはこれしかないもんね。
シージ
それはカスター公爵の紋章だ。
クロージャ
どれどれ――
「ジジッ――」
「やるべきことが山積みだから、早速本題に入らせてもらうわ。」
「――剣の台座よ。」
「……シルバーロックブラフスまで運んだわ。」
「だけど、こちらの前線の現状は……サルカズのやり口は、全員の予想を遥かに上回るものね。」
「南西方面より戦場に突入して。必ず剣を持ってきて――」
「ジッ――私はもう約束を果たしたわ。今度は……殿下、あなたの番――」
「――ジジッ――」
ヘドリー
……相変わらず、好転の兆しは見えんな。
W
あんたの新しいお友達に伝えてくれる? これ以上サボる気なら、残った骨格を一本一本ぶった切ってやるって。
イネス
もう死んでるし、痛みも感じないわよ。苛立ちを発散したいなら、もっと有意義な相手を見つけなさい。
ヘドリー
こいつの声は元々掴みどころのなかったが、俺たちが墜落してからはうんともすんとも言わなくなった。
イネス
神経束が萎れてきてるわ。潤滑油に、栄養剤に、私ですら聞いたこともないようなデタラメな巫術まであらゆる手段を試したけど、結果は……
ヘドリー
今となっては、こいつはさほど丈夫でもない単なる骨だ。文字通りのな。
W
まさか、完全に死んだわけじゃないわよね? とっくに死んでる巨獣が、もう一回死ぬなんてことがあり得るの?
イネス、そこの骨の隙間にある爆弾かして。
イネス
……ご忠告どうも。もう少しで、踏みつけるところだったわ。
で、今度はどんな血迷った真似をするつもり?
W
あんたの忠告通り、もっとマシな爆破相手を探しに行くのよ。
この骨っころに一番詳しいのって例のあんたらの昔馴染みよね? あの女、あばらと肉はまだ繋がってるからまともな話はできるはずじゃない? だったらもう少し何か喋るべきよね。
ヘドリー
……ウルスラか。奴は巨獣に関して多くの秘密を知っているだろうが、それを俺たちに素直に教えはしない。
だがそもそも、彼女にこの現状を解決するのは恐らく不可能だ。
イネス
そうね。
問題の元凶は……私たちの頭上に立ち込めるあの赤い雲に隠されているわ。
ケルシー
その認識に間違いはない。
W
あ~ら、何でもご存知のケルシーさまじゃない。今度はどんな悪い知らせを持ってきたのかしら?
ケルシー
巨獣が通常の天災の影響を受けることはない。たとえ……数百年前に死んだ個体だろうとそれは変わらない。時間をも越えられるトンネルが、嵐によって封鎖されることなどあり得ないからだ。
ここで起きているのは、「天災」とはまるで異なる現象だ。
アーミヤ
はい。墜落の瞬間、かすかに感じました。
骨骸の中に残った、古の巨大な意志が……泳ぎ去っていくのを。私の手の届かない場所へと向かっていくのを。
ヘドリー
……俺たちとの接続は途切れてしまった。
あるいは一時的なものに過ぎんかもしれんが、時間が経てば、奴へのコントロールは完全に失われてしまう可能性が高い。
ケルシー
君の推測の通りだ。Logosの調査によって、サルカズがこの骨骸に与えた巫術は、巨大なエネルギーの妨害を受けていることが分かった。
ブラッドブルードの儀式は間違いなく完了したようだ。聴罪師……クイサルトゥシュタがテレシスに手を貸し、サルカズが何千年もの間成し遂げられなかったことを、今まさに実現しようとしている。
……(古代サルカズ語)「アナンナ」。常しえに癒えぬ傷、苦難の揺籃を。
W
あんたねぇ、もっと人に意味が分かるように話しなさいよ。せっかく聞いてあげてるんだから。
ケルシー
それは原初の呪いであり、始めの源石でもある。
W
……それっておとぎ話に出てくるやつでしょ? ヘドリーが毎日飽きもせず読んでるデタラメばっかりの本の話よ。
ケルシー
たとえ完全に原形を失くしていたとしても、おとぎ話が真実の影であることに変わりはない。何よりもこのおとぎ話は、サルカズに、ひいてはティカズに由来する。
W
あっそう。じゃあ、テレシスの奴はとんでもない物をヴィクトリアの頭上にぶら下げようとしてるみたいね。
ケルシー
ああ。彼がロンディニウムを足がかりとしたのは、そのことが理由だろう。ザ・シャードの天災と源石への影響力は「アナンナ」の道しるべとするには十分だ。
今のテラで降臨の地に定めることができるのは、ここくらいだ。
W
で、どうやったらそいつをバラバラにできるわけ?
ケルシー
……現時点のテラの科学技術では、我々に成す術はない。
Logos
唯一の朗報は、あれの降臨が未だ不完全なものであることだ。
アーミヤ
Logosさん、何か分かったんですか?
Logos
ブラッドブルードが支配しておったあの血。「ティカズの血」と呼ばれておったが……あれは今もその役割を果たしておる。
「アナンナ」が万年の歴史を越え、再び降臨を遂げることができたのは、正しくあやつの祈りによるものだ。
血の主は既に倒れた。なれど、血脈の繋がりは依然として堅固なままである。
「アナンナ」のこの大地への再臨を阻止したくば、ブラッドブルードの呪いを静め、かの血に込められた怨嗟を完全に消し去らねばならぬ。
アーミヤ
なるほど……ではそれを試してみましょう。
Logos
ブラッドブルードとの死闘による影響が今もなお、我に染み付いておる。それゆえ、我には「ティカズの血」が脈動する方角を感じ取れるのだ。
あれは今、ナハツェーラーの軍隊の後方に位置しておる。
ケルシー
恐らくそこには聴罪師の祭壇があるはずだ。だがナハツェーラーの防衛線を全て突破するとなると、支払わねばならない時間的コストが高すぎる。
リスクの点では、そのルートも敵陣を突破するのと大差ない。
観測報告によれば、レッドメイン山脈は「アナンナ」の影響により変わり果てているそうだ。あの場所は今、極めて危険な活性源石が至る所に溢れている。
だが……確かに不可能ではない。
シャイニングが先行してクイサルトゥシュタの元へ向かっている。うまくいけば、我々の助けにもなってくれるはずだ。
アーミヤ
私はドクターの作戦を支持します。時間を節約するには、それが一番効果的ですから。
このまま何もせず時だけが過ぎて、やがてケルシー先生のおっしゃる「アナンナ」が完全に降臨し、それをテレシスが戦争兵器として利用すれば……
戦局を変えるチャンスを見逃すことになります。
たとえリスクがあったとしても、私たちは進まねばなりません。
……Wさん、一つ頼みたいことがあります。
W
骨っころの見張り役を探してるんでしょ、子ウサギちゃん?
アーミヤ
はい。
この骨骸は、今後の私たちの作戦にとって非常に重要です。それにヘドリーさんもこれを必要としています。
ヘドリー
俺たちが墜落した瞬間から、軍事委員会は間違いなくここに目を付けているはずだ。
とはいえ、せっかく苦労して奪ったものを易々と渡してやる道理はない。
ここでどれだけ保せればいい。おおよその時間だけ教えてくれ。今は……午後の六時だな。
ケルシー
……三日だ。
周辺の地形は完全に別ものと言っていい。我々は未知の危険に満ちた荒野を抜けねばならない。
道中で戦闘も起こることを考慮すると、「ティカズの血」の処理には最低でも三日を要するだろう。
身動きの取れない骨骸は非常に目立つ的となる。君たちにとってこの骨を守り抜くのは、以前にこれを奪った時よりも楽な仕事になるとは限らない……
アスカロン
ドクター、私の仕事はお前と共に行動し、全力で身の安全を守ることだ。
前のブラッドブルードの大君による奇襲の際、私の失態でお前に傷を負わせてしまった。あんな事態を繰り返すのはごめんだ。
……
ケルシー
賛成だ。サルカズは戦闘の際、指揮官の現場判断に頼るところが大きい。マンフレッドを抑えられれば傭兵たちの負担をいくらか軽減できるかもしれない。
アスカロン
分かった。お前たちの決定を尊重する。
W
そこの役立たずのヴィクトリア人たちはどうするの? あんたらも一緒に行くつもり?
シージ
我々はシルバーロックブラフスの前線へ向かう。
W
あんたら、たかだか数千人じゃない。しかも中には数ヶ月前まで武器を持ったことすらなかったようないい子ちゃんの市民も山ほどいるでしょうに……そんなんでナハツェーラーの大軍と戦えるの?
シージ
サルカズ、貴様らには貴様らのおとぎ話があるように、我々にも伝説がある。
「諸王の息」。天災を両断する剣。
サルカズ軍が嵐を制すると言うのなら、そろそろこの剣の使いどころだろう。
ケルシー
カスター公爵からの連絡を受け取ったのか。
シージ
連絡というよりは、単なる招待と言ったところだ。
我々の推測通り、サルカズたちの奇妙な物体が起動してからヴィクトリアは……あるいは公爵連合軍は、かなり大きな打撃を受けている。
カスター、いや、カスターに限らずどの大公爵も身に染みて理解したはずだ。ヴィクトリアが今どんな状況に置かれているかを。
あの赤やら何やらの光を放つアーツの祭壇を我々は目にしてきた。今や、ロンディニウムを取り巻く戦場全体がサルカズの法陣と化しつつある。
これこそが……サルカズ式の戦い方だ。リターニア式でも、ウルサス式でもない。我々の知る、どの戦術とも異なるものだ。
「グレーシルクハット」はきっとカスターにこう伝えたはずだ。奴らが集めた情報はサルカズたちによって紙くずに変えられるだろうと。
「諸王の息」……私の持つこの鉄の棒は、もはやカスターが交渉のテーブルに置きたがっているだけのチップではない。これは戦局を覆すほどの、大いなる変化をもたらすことになる。
次の天災がいつやって来るかは誰にも分からないんだからな。
カスターの「剣の台座」がどんな物だろうと構わない。タイヤのついた家屋だろうと、士官が背負う奇妙な機械だろうと、私はそれを探しに行く。
少なくとも嵐を鎮めれば、この戦場も少しは公平になるだろう。
ケルシー
スフリオ峡谷からシルバーロックブラフスの前線までは、公爵たちが掃討したであろうウェストバウンドの森から、ギブソンハムのルートを通っても二日はかかる。
カスター公爵は隙を見て君から「諸王の息」を奪い、それによって難局に立たされた公爵たちを統率することで、王座に一歩近づこうという魂胆のはずだ。
そして、当然ながらそう目論んでいるのは彼女一人だけではない。
シージ
分かっている。
ウィンダミア公爵は亡くなり、彼女の軍隊もこの戦場を去った。
これ以上はどの公爵が撤退しても、戦局は厳しくなる。ロンディニウムの奪還は引き延ばされ、戦争によって発生する市民の犠牲者はますます増えていくだろう。
サルカズにとっても、ヴィクトリア人にとっても、今回は最後の運命を分ける一戦になる。
そして……我々は模範軍なのだ。
奇跡を一番に必要としている場所があるなら、どこであれ私たちはそこへ向かう。
それに、もしこの剣に伝説通り嵐を鎮める力があるのなら、これから貴様らがロンディニウムへ向かうための助けにもなるはずだ。
ケルシー
クロージャ。
クロージャ
あれ、どうして分かったの? 私がもう準備万端だってこと。
まっ、とにかくだよ。頼れるチーフエンジニア・クロージャさんとそのチームの力で、ノイズ対策の通信手段を七種類も開発しといたからね。
それと、この巨大な天災の動向と、それによる影響についても、あたしが設置した機械で現在分析中だよ。
どれだけ強烈だろうと源石が引き起こす反応には痕跡が残るし、粉塵の濃度とか、活性化の指数とか、それから拡散状況とか――
もちろん、この戦場じゃどのデータも振り切っちゃうほど並外れた数値だろうから、一番危険なエリアで何が起こるかは予測不能だけどね。
でも、この戦場で比較的安全な場所がどこかを割り出すくらいなら十分可能だよ。
ただ、そのためには戦場の中心までもっと近づいて、多くのデータを採らなきゃいけないんだ。
一応Miseryちゃんがあたしたちの護衛を引き受けてくれたけど、ここにいる皆も巫術と爆弾の飛び交う戦場中心に向かうわけでしょ? だったら目的地は同じってことだよね。
だから模範軍の皆さんにも護衛をお願いできないかなー、なんて。
シージ
断る理由はない。
クロージャ
物事が悪い方に転ぶのを防ぐのがロドスの使命。そうだよね、ケルシー?
ケルシー
感謝する、クロージャ。
……ドクター。
アーミヤ
恐らく、私たちのルートが最も危険だと思います。
ですが、私がドクターのことを守ります……今までと同じく。
シージ
ドクター、貴様の信頼に感謝する。
貴様の指揮経験はきっと役に立つだろう。
W
それ本気で言ってる?
子ウサギとクソババアのペットがいないなら、あたしは好き勝手するわよ?
ケルシー
君がオペレーター全員の安全を気にかけており、それゆえに自身の選択に躊躇いが生じていることは分かっている。
それでも、君には私と同行してほしい。
……我々が最後に相対する物は初めから決まっている。
「源石」。それがサルカズの歴史を作り出し、我々全員の未来をも決定づけようとしている。
ロドスがこの戦争に関与する理由については、君も疑念を抱いたことがあるだろう……そしてこれまでのところ、私にはそれを説明する機会を得ず、また確かな答えも出してはこなかった。
ザ・シャード上空の暗雲には何か恐ろしい物が隠されているのではないかと、私は常に疑ってきた。それを実際に目にした今もなお……非常に複雑な思いを抱いている。
私は運命に関する話題を論ずるのに不慣れだ。とりわけ、君と私の「運命」に関しては。
だが今、それは我々の元へと近づきつつある。
……
源石がもたらし得る影響は、我々全員の認識を遥かに凌駕するものだ。
もちろん。
Dr.{@nickname}……私は願っている……
……いや、信じている。
君が今も変わらず、全てを変えることのできる人物であることを。
アーミヤ
はい。私もそれを疑ったことはありません。
ドクター……そろそろ行きましょう。
W
景気づけに爆弾はいるかしら?
アーミヤ
Wさん、どうかご無事で。
W
……あたしはどこぞのヒツジと違って簡単には死なないわ。それを忘れてもらっちゃ困るわね、子ウサギちゃん。
シージ
模範軍の準備も整った。
アーミヤ
はい。それでは。
皆さん、私たちに残された時間はあとわずかです。
この戦争では、今も刻々と……誰かが「源石」によって苦しみ続けています。
はい。
それから、立ち込める闇の最も奥深くまで進みましょう。
シージ
……ロンディニウムか。
W
あの塔をぶっ飛ばして、一番のクソ野郎を引きずり出してやるわ。
アーミヤ
今、目の前に広がる……そしてこれから起こり得る災厄を、食い止めるために。