慈悲深き悲願

これは永遠に終わりのない長旅だ。
サルカズの魂の言葉はとうに沈黙し、その姿も長く磨かれるうちにほとんど形を失った。
唯一、彼らの魔王だけが、いまだ皆のために前進している。
テレジアは歩みを止めようとしない。
過去にも、彼女は数度「魔王」の深くへと向かったことがある。しかし今回は以前のどの歩みとも異なっている。彼女はもうその膨大な知識のために立ち止まらない。
彼女はただ見ている。
最後に、自身の目で、大地の人々や物事を見つめる――
起きたこと、あるいはいまだ起きていないことを。
フレモント
……結局のところ、彼女はやはりそこまで歩んでしまったか。
我らが殿下に何と言ってやれば満足だ? 頑固な馬鹿、あるいは天才か? いいや、罵ろうが褒めようが、これでもうサルカズの魂にも届かんな。
ヴィクトリアの件はひとまず脇に置いておくとしよう。向こうのごたごたは、テレシスとネツァレムが片づけてくれるだろう。
お次は……ハッ、ヴァッサー領の高塔は軍事委員会のスパイでいっぱいだ。あいつらは、カズデルに関心を向けさせないため、羊と猫にすぐにでもドンパチしてほしくてたまらんようだな。
お前たちの糸をちゃんと片づけておけよ! 私たちもすぐに出て行くことになる。派手な羊は私たちが彼女の目と鼻の先でいつまでも好き勝手していることを許さんぞ。
だからラケラマリンには早くから文句を言っておいたんだ。あの兄妹は過激すぎる、いずれ我々に数え切れないほどの面倒事をもたらすとな!
エルマンガルド、お前のカズデルでの仕事、あれも一段と力を入れんとならん。
もしテレシスの計画が不完全に終われば、ヴィクトリア……いや、リターニアと他の中核国家の軍隊はすぐにカズデルに向けて進軍する。
バベルが残した遺産を受け取り、その都市を保て。二百年前の出来事を再来させてはならん。
……待て。
糸が動いたか? エルマンガルド、お前が動かしたのか?
……
そうか。
テレジアは、老いたリッチの厳かな顔にかすかな微笑みが浮かぶのを見た。
彼女はその透明な、虚空に深く入り込んだ糸から手を放すと、束の間愚痴をやめた旧友に頷いて、さらに遠くの地へと向かう。
アルゲス
……
あの影に変化が視えました。
エイクティルニル
また凶兆か?
アルゲス
……全てがそうではありません。
エイクティルニル
遠見の結果を知らせに来てもらって感謝する。
だが俺はすでに心を決めた。悪魔がもたらす穢れは今まさに広がっているんだ。もし俺たちがひたすら南へ引けば、早晩サーミ全土は陥落する。
アルゲス
たとえ私が視た貴方の全ての未来が……いずれも悲劇だとしても?
エイクティルニル
分かっている。
俺が雪祭司に……いや、この氷原に生まれ落ちて、サーミの戦士となった時から俺は自分の結末を知っている。
俺は死など恐れん。悪魔がこの身体を奪い、穢れをばらまく敵へと変えてしまうことを憂いてもいない。
より若き戦士が俺の足跡をたどり、さらに北方へと向かうだろう。
転化させられた俺に不幸にも出会ったのなら、そいつらは弓とアーツユニットで俺の亡骸から穢れを取り除くことだろう。
サーミを守り抜く意志が簡単には死なないなら、そのような結末が「悲劇」だと、俺は見なさない。
アルゲス
では……貴方に祝福を、遠征する者よ。
エイクティルニル
これを持っていけ。
アルゲス
啓示板?
エイクティルニル
別れの餞別だ。
多くのサイクロプスがサーミの諸部族を去ることにしたと聞いた。だがお前は残ることを選択したな。
アルゲス
一つ……この土地の生存の希望に関する予言があります。私は、それを実現させる必要があるのです。
エイクティルニル
サルカズ、お前の長年にわたる貢献にサーミは感謝するだろう。
お前は自身の遠見を共有してくれた、なら俺も俺が聞いた音を贈ろう。
アルゲス
はい……
角笛の音が氷原に響き渡る。
それは遠征の合図であり、伸びやかな挨拶でもある。
目の前のサイクロプスはもう二度とカズデルには戻らないだろう。この氷に閉ざされた地がすでに彼女の故郷だ。
テレジアの視線がアルゲスのと重なる。
彼女は、雪祭司が残した木板に奇妙な模様を見つけた。
「アイクルン」。
草木、獣羽にも栄枯あり……
其が常しえに続かんことを祈る。
ナスティ
……見つけた。
この数値……きっとこの付近だ。
気をつけろ。私の計算が間違っているはずがない。ゆえに私たちは今クルビア……いや、現代国家で最も偉大な考古学的発見の真上にいる。
クリステン
ならば、今すぐ穴を開けて、エネルギー誘導ケーブルを私と一緒に下へ送り込むのはどう?
ナスティ
マリアムが喜ばないだろうな。彼はきっと我々がより慎重に探索と発掘をすることを望むはずだ。
だが、彼はずっと北地から帰ってきていない。この仕事を引き受けているのはエンジニア課だ。
君に知らせる前に、うちの者がすでに着手している。
クリステン
素晴らしいわ。
私が、最初に下りるその人になってもいいかしら?
ナスティ
(サルカズ語)「衛護」。
クリステン
ん? あなたが仕事で呪術を使うなんて珍しいのね。
ナスティ
目の前にいる者に、こうしたサルカズの小細工に怯えられても困るからな。
統括、本来であれば安全に関する注意事項をあといくつか言い聞かせるべきなのだが、聞くつもりなんてないのだろう。
軍とマイレンダーの者がすぐにでも訪ねてくる。君が何を見つけることを望んでいたとしても――急がなければならない。
クリステン
そうね。
死の陰りが私の両目を覆う前に……私は自分が見たいもの全てを、全力で見に行くわ。
テレジアは見た。
時間がまたいくらか進んだ。彼女にはこの場所が自身を拒絶しているのが感じられる。
彼女は何年も前、ケルシーと共に初めてロドス本艦の最深部に近づいた時のことを思い出した。
この似たような場所は、彼女が足を踏み入れたことのない地であり……「神」の居場所だ。
「保存者」
(未知の言語)あの子が去ったと思ったら。また新たな侵入者。
(未知の言語)ん……いないのか?
(未知の言語)君がもたらした小さなデータのさざ波の中に、わずかな親近感を覚えるよ。
(未知の言語)もしかしたら、君は僕と同じなのかもしれない。どちらも過去に取り残され、やむを得ず自分に属さない時代においてかろうじて余命を繋ぐ……亡霊だ。
(未知の言語)君をここまで歩かせたのは一体何だろうか……同様に微弱で薄い希望だろうか?
(未知の言語)それとも二度と会えない同類への想いだろうか?
グレイディーア
矛にお気をつけて、あなたのその脆弱な肌を傷つける恐れがありますわ。
ケルシー
構わない。
グレイディーア
海面の下にはひとまずあなたが気に留めるに値するものはありません。何をそんなに、見つめていらっしゃるの?
ケルシー
ほんの記憶にすぎない。
エーギルは大地から遠く離れ、直面しているのはまた別の問題だと思っていた。
だが……私は、完全に正しかったわけではないのかもしれない。
グレイディーア
あなたがこんな時に反省なさるとは、珍しいこともありますわね。
ケルシー
私はただ自分が二度とその時に遅れないことを望んでいるだけだ。
もし海の問題が独立していないのであれば、我々が直面している脅威は一つに重なり合う。その場合、既知のシミュレーションにおけるどの窮地よりも厄介な状況になる。
幸い、危機が起きる前に、一足先に主導権を握るチャンスが我々にはある。
グレイディーア
私と共にエーギルへと戻っても、今と変わらず同じくらいの自信を持っていてほしいものですわね。
ケルシー
グレイディーア、私が信じているのはハンターたちの方だ。
グレイディーア
……興味深い発言ですこと。
ケルシー
アビサルハンターが海底から陸地に上がり、また故郷へ帰ろうとしている。君たちのここまでの変化はこの目で見てきた。
グレイディーア
変化……フッ、それは私が望んだものとは限りませんわ。
ケルシー
君たちは来た場所にて自分を見つけるだろう。
君にせよ、スカジとスペクター、あるいは一人去ることにした君たちの仲間にせよ。
グレイディーア
……ウルピアヌス。
ケルシー
心の準備をするんだ。
その時、君たちはエーギルに対して……海と陸に対して「我々」が共に向き合わねばならない災禍に対して、異なる考えを有していることだろう。
それは、目に見えるいかなる「橋」よりもはるかに価値がある。
光の粒がまばらに浮かび、海面にくっきりとした影を映し出していた。
まるでケルシーが言った、「橋」のように。
テレジアはその虚空の橋へと足を踏み出す。時間と波の飛沫が共に加速し、彼女は自らの意識が進むのを抑えられない。
ケルシー……ケルシー。
テレジアは必死になって振り返り、親しい友を、そして友の背後の新たな友人と旧い友を見つめる――
彼女たちと小さな光の粒が一つに溶け合うまで。
光の粒が広がっていく。
かつての魔王は、自分が今まさに教会の中央に立ち、最も神聖なる光を浴びていることに気づいた。
そして光輪を頭上に浮かべるサンクタの教皇が彼女と「見つめ合って」いる。
川岸で偶然出会った若きトランスポーター、教会の窓辺にいる穏やかな老人……テレジアは彼を覚えている。歳月が経っても、彼女の判断が鈍ることはなかった。
イヴァンジェリスタⅪ世
……新たな名前が現れなくなって随分と経つな。
教皇騎士
それは良いことなのでは?
わずか数年の間に、「聖徒」が随分と増えました。その中には……私にとってはいささか認めがたい者もいます。
イヴァンジェリスタⅪ世
我々には未だ、聖徒たちが各々未来においてどのような役を演じるかは分からない。
教皇騎士
教皇聖下、新たな聖徒が選ばれなくなったということは……危機がすでに取り除かれた可能性があるのではないでしょうか?
イヴァンジェリスタⅪ世
君は楽観的だな。
私も、我らがラテラーノが、そのような楽観主義を長く保っていられることを願っているよ。
だが……
……
これまでに、アレが口をつぐんだことは一度もなかった。
教皇騎士
うっ――!
聖下、一瞬、感じ取れなくなりました――
いや、そんなはずが!?
光が消えた。
最初は街灯一つが、そして通り全体が。
啓示の石塔からミカエレオン区の公証人役場、それから聖マルソー区のサンセット礼拜堂、教会広場が――
暗闇が進む。
急速、かつ無秩序、そして抗うことなどできない。
氷原へ、海へ、陸へ。
あらゆる兆候が、人々がこれから直面するであろう苦難を予言している。彼女がこれまで「魔王」を通じて無数に見てきたものと同じように。
テレジアが暗闇から出た時、足元は柔らかな黄砂になっていた。
廃墟、結晶、砂丘……眼前の全てが見慣れない。
砂ぼこりを巻き上げる狂風の中で彼女は聞いた、見た、感じた――あの孤独な少女を。
正面から歩いてくるマントに包まれた姿が、フードを持ち上げる。
源石が少女の足元で雪の跡のように咲き、テレジアは少女の目の中にある菱形の瞳孔を見た――
あなたは……
黄砂が吹き、彼女の視界は遮られた。
ここは終点ではない。しかし、テレジアにとっては、彼女がたどり着くことのできる最も遠い場所だ。
暗闇が押し寄せてくる。ほどなくして行く道を封じ、両目も思想も覆うだろう。
彼女の熱い感情だけが、いまだこの永遠の闇の中で揺蕩っている。
彼女は数多の問題を抱えて歩み、己の果てへとたどりついた。しかし求めているのは、最も単純な答えが一つきり。
切実な思いで探し、暗闇の中の唯一の光に目を向ける――そこで。
彼女は答えを得た。