王たちの行方

サルカズ戦士
(雄たけび)
ヴィクトリア兵士
こいつはもう死ぬ!
かかれ、こいつを殺れば、巫術祭壇を使えなくなる!
矢がサルカズの胸に突き刺さる。
しかし彼はそれを気にも留めず、前進し続けようとする。
「ピピ」「ピピ」。
下を向くと、胸に刺さる矢の矢羽が光を放っているのが見えた。
クラスター爆弾がサルカズの血肉の中で爆発する。
その爆発が何度も起こった。どれほど強大な巫術であっても、ここまで素早く傷を修復することはできない。
ヴィクトリア兵士
……うまくいったか?
はは、マジでやったぞ、吹っ飛んじまった。残ったのは骨のカスだけだ! この方法はほんとに使える、やっぱりこの化け物たちは怖くなんてないんだ!
待て――
サルカズの残骸が光を放っている。
兵士たちはたまらず後ずさりしたが、すでに手遅れだった。
噴き上がる火と源石粉塵が戦場の一角を呑み込んだ。
ネツァレム
……
「霊骸布」
宗主! お体が……
ネツァレム
戦闘には影響せぬ。
「霊骸布」
ヴィクトリア人は、猛攻撃を仕掛けています。
奴らの適応能力は高く……我々への対処法を確立しかけています。
我々の損害は拡大しています。
ネツァレム
我らの戦士は、諦めぬ。
我らの防衛線は、耐える。
「霊骸布」
はい。
ネツァレム
それで十分だ。
我輩はテレシス、そしてテレジアを信じておる。
かねてより今に至るまで……それは変わらぬ。
クロージャ
BMとTAAの二つの道は今のところ障害はないから通れるよ! 今後十五分間は源石クラスターがここまで伸びてくることはないはず。
I9はダメ。フェイスト、ビーコンの色の変化に注意して。付近の源石の山に崩落のリスクがあるよ。
フェン
――クロージャさん、現在I903偵察ポイントにいます! 負傷者がいます、民間人のようです。
クロージャ
見えてる見えてる、ロボットが今向かってるよ。ちゃんと防具と薬を受け取ってね、次どこへ行けばいいかはその子が知ってるから、従って。
あっそうだ、それとドローンが二機君たちの方に向かってるよ。
霧がかかってから、信号の色を見て、青だったら前方の道に問題がないということで、模範軍の人がI901で迎えてくれるからね。
フェン
気になるのですが……クロージャさん、同時に何人の手を操ってるんですか?
クロージャ
今の状況は、ロドスがやってる大抵の天災救助任務よりも複雑だからね。フェンちゃん……
フェン
安心してください、油断はしません。
クロージャさんのほうも……ジジジ……
クロージャ
……ジャミング?
176と178号ドローンの信号が途絶えちゃった。
……
サルカズ傭兵
……物資ポイントを発見。
薬、食いもん、いずれもある。使える武器はねぇ。
クロージャ
薬と食べ物なら君の分はあげるよ。多めに持ってくのはなしだけどね。
サルカズ傭兵
得物も持たねぇ奴が、どうやって止めるんだ……いや、ブラッドブルード?
クロージャ
そうだよ。
怖がらなくていいよ、王庭とは関係ないし、あっという間に君たちの血管を空っぽにする術なんかも使えないから。
サルカズ傭兵
ケッ、もし本当にあのクソどもの手下なら、テメーの首を一瞬で撃ち抜いてやるからな!
クロージャ
……君たちは任務で来たんじゃないよね。あたしたちのマークさえ分からないような人を、あのマンフレッドが寄越すはずないし。
まあ君たちにこんなこと言っても仕方がないと思うけど……この場所はもうすぐで吹っ飛んじゃうんだよね。
あたしの仕事の邪魔しないでもらえるかな?
サルカズ傭兵
うおっ――!
どうして天災がまた来やがった? 王庭の老いぼれどもは一体どんな代物を生み出したってんだよ。こんなクソみてぇな場所はもういられねぇな!
もしもし、こちら467号、お前たちどこだ? こっちは――
Misery
野営地を襲撃した傭兵は全員片づけた。
クロージャ、行くぞ。次の安全地点まで移動する。
クロージャ
はーい、ありがとね、アサシンマスター。
サルカズ傭兵
……
クロージャ
投降する?
投降するなら、あたしたちと一緒に来てもいいよ。
サルカズ傭兵
……もう捕まっちまったんだ、他に選択肢もないだろう。
Misery
戦争が今に至るまで続き、戦場各地に散らばる傭兵が増えてきた。軍事委員会の指揮に従うだけでなく、奴らは本業に戻るだろう。
ゆえに、同様の襲撃はこれから何度も遭遇するだろう。
クロージャ
あの時も……こうやって耐え抜いたんでしょ?
Misery
……そうだ。
天災、あるいは多くの敵を乗り越える必要があろうと……
俺たちは家に帰りたいと思う者たちをなるべく多く……家に帰してやる。
サルカズ平民
軍事委員会に新たな動向はあったか?
聞いた話だとヴィクトリアの大公爵を一人殺したらしいぞ、すぐに二人目三人目も殺っちまうだろうな!
ゴホゴホ……そういえば最近何か、その、よく効く薬はないか? この怪我した足を治したいんだ、石の数がちょっと減るだけでもいい、戦ってる時に少しでも速く走りたいんだ……
オッダ
……
お前もロンディニウムに行くのか?
サルカズ平民
ロンディニウム? そんなん間に合わないだろ、たとえ行きたくても、摂政王は俺なんていらないさ。
でもこの戦争は……いずれカズデルまで及ぶだろ? あのヴィクトリア人やリターニア人どもが……そう簡単に俺たちを見逃してくれるか?
チビ助、お前も早めに覚悟を決めといた方がいいぞ。武器を磨いて人の殺し方を思い出しな……
オッダ
……軍事委員会。
あれから何年も経つのに、俺たちの都市が、本当にまた……
???
ふぅ……はぁ……ようやく追いつきましたわよ。
オッダ
えーっと、一体……
エルマンガルド
そうね……あなたの同業といったところでしょうか?
オッダ
……
エルマンガルド
トランスポーターだと言ってるのですわ!
はぁ、あれから何年も経ちましたから、カズデルもすっかり知らない場所みたいになりましたわね。この座標にて探している人が見つかると聞いたのですが。
教えてくださるかしら――「バベル」の跡地には、どう行けばよろしくて?
塔。
十分高く建てさえすれば、塔は私たちの頭上の暗闇に届く。
私たちが建てた全ては崩れて滅び、流砂に埋もれることだろう。
だが私たちの意志、私たちの渇望は、塵の中から何度も何度も立ち上がるだろう。
登る。
登っていく。
絶えず上へと、私たちの無知を越えて。
この暗闇を、越えるまで。
アーミヤ
……
だからこそ……ここに塔があるのですね。
W
いずれにせよ、ようやく終わりまで来たみたいね。
一体どれだけ登ったのかしらね? なんだか人生を何周もした気分だわ!
アーミヤ
はい、あるいは……もっと長かったかもしれません。
W
子ウサギ! なにぼうっとしてんのよ?
アーミヤ
聞いているんです。
W
……くたばった老いぼれたちのボキャブラリーに乏しい愚痴を? まだ聞き飽きないわけ?
アーミヤ
うぅ……
アーミヤはその声の持ち主が誰だか分かっていた。
魔王がサルカズの魂の中にいる。
サルカズの魂は魔王に聞かせようとしている。
アーミヤはその声に従い「魔王」の深くに潜り、無数の時間と空間の破片の中を模索したい気持ちを抑えられずにいる。
指輪が彼女の手のひらに食い込む。
これらを解き放てさえすれば……古から現在に至るまでの秘密の真相を、全てのいきさつを頭の中に流し込むことができる。
ケルシー
アーミヤ、今はその時ではない。
アーミヤ
ケルシー先生……
ケルシー
サルカズの魂の意志が君に干渉をしている。彼らは自分たちの選択を君に受け入れさせたくて仕方がないんだ。
アーミヤ
私は……彼女の気持ちを理解したいんです。
ケルシー
なら君は彼女に向き合う必要がある。我々の全員に、その必要があるんだ。
アーミヤ
分かっています。
サルカズの魂以外にも……ドクター、ケルシー先生、Wさんの心の声もとてもはっきりしています。
W
アーツを使ってあたしの考えをのぞこうとする奴は、普通ろくな死に方をしないのよ。
でも……ハッ、ここまで来たんだし、あたしたち全員が考えてることは大して変わらないでしょ。賭けてもいいわ。
切迫、緊張、そして期待が満ちる。
静まり返った過去のこだまと全く異なるのは、今この瞬間だけの生き生きとした感情だ。
アーミヤ
共に登りましょう、あと少しで辿り着けます。
W
この透明な天井をどうやって壊せばいいか、考えさせて。
アーミヤ
もしかしたら……
もう彼女からの答えはもらっているのかもしれないです。
彼らの頭上に懸かっているのは、暗闇の中の目。
菱形。
暗闇の中の唯一の光源のようなもので、万物から光を全て呑み込んだ元凶のようなもの――
アーミヤが顔を上げる。
サルカズの魂の中の魔王一人一人が顔を上げる。
アーミヤは菱に手を伸ばす。
サルカズの魂の中の魔王一人一人が手を伸ばす。
これが最初の魔王が私に残した唯一の言葉――
「暗闇のように我々を覆う石、それは我々の苦難であり、さらには一種の希望である。」
私たちはまさしく希望のために来た。
この瞬間、「放逐されし者」「築城匠」「蒼き怒火」……全ての魔王が私と共にいる。イレーシュでさえ再び自らのアーツユニットを手に取った。
彼らが私と共に戦う。
同じ使命のために。
魔王の使命のために。
ここで、サルカズの未来が明らかになる。
天と地、上と下、光と闇、未来と過去――
全てが一瞬にして覆った。
塔の頂上かつ底辺、終点かつ原点である場所で、アーミヤは一つのため息を聞いた。
???
あなたを待っていた……
……「魔王」。