終焉を迎える良き夜

待って、ここは……バベル!?
アーミヤ
布の小人さんはお友達の助けもあって、涙の川を渡り、背後のその未知の金色の海も渡ったのでした……
そして最後、彼らは再び大地へと足を踏み出し、希望の平原を見つけたのです。
テレジアさん、私が考えたこの結末は気に入ってくれましたか?
テレジア
もちろんよ。
あなたのお話の中で、私が一番気に入ったのは、やっぱり布の小人のお供をする友人たちね。
アーミヤ
だけど……テレジアさん、本に書かれているこの物語の元々の結末はどんなものなんですか?
……テレジアさん?
自分とテレジアさんとの間で、こんな会話があった記憶はない。けれどこんな会話があったことを、夢の中で数え切れないほど想像した。
これは結末のなかったその物語についに結末ができたこと、そして物語を語るその人が、決して自分のそばから離れたことはなかったのを示している。
私は彼女に伝えたい、私はもう物語の結末を変える力を持ったのだと。
あの時には答えられなかった質問にも、とうに答えが出ている――
私はこの王冠を戴くことを望み、それに相応しい力もあると。
Logos
「鉄石の物、翼のごとく落ちよ。」
ウィシャデル
やっぱりこのデカブツを安定させられない! このままだと地面に真っ逆さに落ちて粉々になるわよ!
老いぼれ、さっさと出てきて仕事しなさいよ!
レヴァナントの声
この船の制御を取り戻すのは容易ではないんだぞ! 今試しているところだ!
ウィシャデル
嘘おっしゃい! 軍事委員会のために働いてた時は、あんなに有能だったじゃない!
レヴァナントの声
無礼なサルカズの若造が! 貴様は年長者に対してあるべき尊重に欠けている!
ケルシー
この状況であれば、不時着はやむを得ない。衝撃に備えろ。Mon3tr、ドクターとアーミヤを守れ。
ケルシー先生……皆さんが私を必要としている。
テレジア
アーミヤ、布の小人の友人たちは決して小人を見捨てなかったわ。たとえどんな困難に直面しても……
布の小人が必要とすれば、彼らは現れ、小人を受け止めて、苦境の中を共に歩んでくれるの。
これは私の願いでもあるのよ。私は、あなたが私を必要とした時、ずっとそばにいてあげることを望んでいるわ。
――彼女が……私を見ている?
テレジアさん……?
テレジア
だけれども、私たちの経験することが、常に願い通りとはいかないわ。
布の小人の友人たちにも旅の中で道に迷ってしまう人がいたでしょう。
けれど彼らの共通の思い出は、布の小人に寄り添って終点までたどり着くわ。
アーミヤ……私はずっとあなたたちと共にいるわ。
……どのような形であっても、ずっと。
アーミヤ
テレジアさん――
もう……行ってしまうんですか?
テレジア
何を言っているの。アーミヤ、私はとっくにいないのよ。
アーミヤ
えっ……
あなたは……テレジアさんじゃない。
テレジア
夢の中の記憶はとても温かいものよ。だけど、もう目を覚まさないと。
今の仲間のそばに戻りなさい。みんなが、あなたを必要としているわ、アーミヤ。
あなたたちはこれからも歩み続けるでしょう。
私はなぜここに?
私たちは……さっき内なる宇宙から出て――
たしか飛空船が見慣れた空へと戻り、船全体を覆っていた源石結晶が潮のように引き……
Logos
呪文の力はすでに限界に至っておる、恐らく衝撃を完全に防ぐことはできぬはずだ。
ウィシャデル
操縦桿を目いっぱい引いてるわ! 老いぼれ! もっと気合い入れなさいよ!
ケルシー
Mon3tr!
皆さんが……私を必要としている……
私にこれ以上、何ができるの……?
あなたの持っている力を信じるのよ、アーミヤ。
私が手伝うわ――
巨艦の構造全体が震えて金属音を立てる。
飛空船の落下速度が再び緩やかになった。
彼女はテレジアに教わった全てを使い、この巨物を全力で支えた。
温かな力が、まるで夢の中のささやきのように、アーミヤを取り囲む。
遠くへと去っていった人が今自分のそばに戻って、柔らかく抱きしめてくれているように彼女は感じた。
アーミヤ
テレジアさん……
「……ここにいるわ。」
アーミヤ
――!
アーミヤは今までにない感覚を覚えた。
「魔王」の力が自分を包み込んでいる。そして、この溢れるほどの力は、温かい。
幻だろうか? それともまだ夢から覚めていないのか?
アーミヤ
テレジアさん……? 本当にあなたなんですか?
テレジア?
アーミヤ、よくやったわね。
仲間を、そしてあなた自身の力を信じるのよ。
ゆっくりと落ちていくわ。
戦場にいる全てのサルカズが顔を上げ、どうやら懐かしい気配を感じたようだった。
光の中には、亡くなったはずのあの魔王の姿がある。
その人が溜息を一回をついたあとで彼らの前に現れたのは、華奢なコータスだった。彼女は、彼らが期待したその人とよく似た姿をしていた。
ウィシャデル
あたしたち……無事着陸できたの? 老いぼれが役に立ったのかしら、それとも……
子ウサギ? あんたなんだか……
アーミヤ
ウィシャデルさん……私がどうされました?
ウィシャデル
……
何でもないわ!
あたしたち、今ロンディニウムに突っ込んだのかしら? 見た感じザ・シャードまではそう遠くないみたいよ。
アーミヤ
はい……飛空船はとても大きいので、都市内を守るサルカズがすぐにやってくるはずです。
できるだけ早く撤退する必要があります。
ウィシャデル
フンッ……
あたしにもっといい計画があるわ。
アーミヤ
テレジアさん……いえ、あなたは違います……
あなたのことが見えるのは私だけ、そうですか?
テレジアの幻影
そうよ、あなたが望んだ時のみ、ほかの人は私のことを見ることができるわ。
アーミヤ
あなたは一体……
テレジアの幻影
私は、約束よ。
テレジアが約束したでしょう、あなたの傍で、あなたが成長するのを見守るって。
テレジアはもういないわ。だけど、彼女は王冠にプログラムを残した。あなたの感情によって、私はこの容貌で姿を現しているのよ。
一人のサルカズの約束、王冠に託された感情、「文明の存続」を頼りに存在する意志。
アーミヤ
えっと……
テレジアの幻影
アーミヤ、まだほかに質問はある? 何でも答えてあげるわ。
アーミヤ
……
もし、あなたが本当にテレジアさんの残した意志なら……
あの布の小人の童話の、物語の結末……テレジアさんが私に伝えたかったことは、一体何なのでしょう?
テレジアの幻影
あれは、テレジアが自分で作った物語で、どの書籍にも記録はないわ。
だから、その質問に答えることはできない。
アーミヤ
そうですか……
テレジアの幻影
けれど彼女が願った通り、あなたは彼女を越えたわ。
彼女が言いたかったことは、もう全部あなたに伝わっているわ。これからの物語は、あなた自身で書くのよ。
アーミヤ
……
ありがとうございます……テレジアさん。
ヴィクトリア兵士
お前たち見たか? サルカズの飛空船が落ちたぞ!
雲が――消えていく!
サルカズは嵐を制御できなくなったんだ!
シージ
アーミヤとドクターたちがやり遂げたんだ。
どれだけ猶予があるかは分からないが、このチャンスを掴まねば――
ホルン
シルバーロックブラフスを奪取し、城壁に向けて前進。
デルフィーン
……サルカズを叩き潰す。
ネツァレム
……今日で、二度目だ。
我々は彼女が去るのを見届けた。
偉大なる魔王。真の英雄。
彼女は、サルカズのためにかつてない偉業を始め、成した。
我々は……その目撃者であり、参加者だ。
王庭の天幕から戦争議会、そして今の軍事委員会に至るまで――
戦争が止まぬ限り、我らが倒れることはない。何千何百年と、我らはカズデルのために十分な勝利を奪取してきた。
……
彼は空の驚くべき光景を見上げ、ただ敬意を抱く。
ネツァレム
ヴィクトリア人は勝利の幻影を熱狂的に追い求めているが、我らが渇望する戦争が一体何であるかを理解したことがない。
……「新生は滅びより生まれる」。
ハッ、この戦争、もう十分楽しんだぞ。
「一零六突撃砲旅団とノーマンディー公爵擲弾連隊第二大隊および第八大隊が合流しました!」
「第九大隊装甲中隊と模範軍が92号高地を攻略!」
「対巫術砲が再び前線に到着!」
上級士官
中距離通信もほぼ復旧しました。
公爵様、戦場は我々の支配下に戻りつつあります。
カスター公爵
……彼は?
上級士官
「ガストレル」号はひどく損傷を受け、恐らくまだ――
お待ちを、「ガストレル」号の位置を再び特定しました!
「ガストレル」号は――我々のすぐ隣です!
「グレーシルクハット」
公爵様、ゴドズィン公爵から緊急の電報です。
カスター公爵
……
……すぐにダスクグロー川に送り込んだ者たちを撤退させなさい。
「グレーシルクハット」
はい。
公爵様……
カスター公爵
……遅かったかしら?
「グレーシルクハット」
全ての周波数の音が……同時に消えました。彼は我々の目を全部潰したようです。
カスター公爵
……
ウェリントン……
何年も前にダスクグロー川の畔で……彼に言われた。いつの日か、全ての山や川の流れは、高速軍艦の行進を止められなくなると。
やってのけたのね。
上級士官
公爵様、「ガストレル」号の前進が止まりました!
鉄公爵の全戦艦が再び整列しています!
軽型艦三隻が砲口を回転させ、その向きを――
ヴィクトリア兵士
――あれはウェリントン公爵の船ではないのか?
彼らは何をしているんだ!?
サルカズが退いたばかりだというのに、もう公爵たちと開戦するつもりか!? 本当に正気を失ったのか?
ホルン
……
……亡くなった人たちの目の中の火が……
「副官ヒル」がさほど遠くない場所で立ち止まった。
紫の炎が彼の目から離れ、さらに高く遠くへと漂い行く。
その場所で影と煙の背後に隠れているのは、鋼鉄の艦隊だった。
ウェリントン公爵
エブラナ殿下、準備はできましたかな?
エブラナ
いつでも構わない。
炎が空から降り、旗艦の船首を巻き込む。そこにあった旗は一瞬にして燃え尽きた。
一つまた一つと同様の紫の炎がウェリントンの全ての軍艦の上で咲く。
ターラー市民
なあ、今日は何の日だ? なんで花火なんて打ち上げてるんだ?
うおっと、花火だけじゃないな――あれは市政府のビルじゃないのか? 上から落ちてきたのは――
アルモニ
新しい旗よ。
この日のために、私たちは相当苦労したんだから。
どう、綺麗かしら?
ターラーの子供
リードお姉さん、お花ありがとう、ほんと綺麗だね!
リード
……
ターラーの子供
お姉さん、何見てるの?
リード
うん……ここはまだロンディニウムから遠いところのはずだよね?
戦場の灰は、こんなに遠くまで漂うの?
ドラコの指先に火の粉が落ちる。
そして、瞬時に紫色は消え去り、薄い灰色だけが残った。
リード
……熱い。
エブラナ
……ターラー。
あれから百年あまり、ようやく我々の旗がまたこの土地にて揚がる日が訪れた。
我らはサルカズとヴィクトリア人に我らの強大さを証明した。
今この場所において、我々を阻み、軽視できる者は誰もいない。
ターラー人――私の民は、戦争の天秤を左右し、大地の姿を形作る力となるだろう。
我々はこの地に生きる者全てに、新たな時代の到来を見せつける。
ドラコは手を上げ、大地に向けて微笑みを浮かべる。
ターラーの旗が一斉にはためく。
濃い紫色が雲の下で積もり――
最終的に、深紅色の嵐、そしていまだ輝く金色の光と対等に振る舞う。
カスター公爵
……私たちが反応する余地を本当に少しも与えてくれないのね。
ウェリントン……
あなたは本当にヴィクトリアを恨んでいるの、それとも……
「グレーシルクハット」
公爵様、ゴドズィン公爵から緊急連絡です。
それからノーマンディー公爵、ファイフ公爵……
カスター公爵
ひとまず彼らには焦らせとけばいいわ。
あの時、我々は共同で戦争狂を大公爵の礼服に押し込んだ。今がその結果を共に受け入れる時よ。
私のデスクの右の一番上の引き出しに鍵がかかっている。その中にある提案書を持ってきてちょうだい。
あれは私が自分で書いた……今回ロンディニウムに来る前にね。
「グレーシルクハット」
鉄公爵は……再び交渉に応じるでしょうか?
カスター公爵
いいえ、あなたは間違えているわ。
この先ヴィクトリアには、もう鉄公爵なんていない。
だけど、カスターは新たな強大な同盟者を持ってはならないわけではないのよ。
「グレーシルクハット」
今この瞬間に、ウェリントンと再び同盟を結ぶのですか?
カスター公爵
それが私たちの利益に最もかなっているわ。
彼は私がこう選択すると分かっている。ゲル王の末裔と彼は……戦争と死を自らの交渉材料にした。
こんな肝心な時だし、挟み撃ちに遭いたくないのなら、我々はターラーの独立を認めざるを得ない。
「グレーシルクハット」
ウェリントンの裏切りを知ったら、我らの兵士と民衆は激怒するに違いありません。我々の選択を簡単には受け入れないでしょう。
カスター公爵
……そうね。
だけどそれが何だというの?
人々が渇望しているのは、突然降臨して、自分たちのために方向を指し示す「英雄」よ。
公爵は視線を眼下の戦場へと向けた。
兵士たちはたった今決定的な勝利を収めたところだ。彼らはある名前を興奮しながら叫んでいる――
「模範軍」と。
カスター公爵
確かに父親にはあまり似ていないわね。
あの金髪を除いて……面白いわ。アスラン王室の正統継承者は、皆まばゆいばかりの金髪をしている。どれだけ離れていてもはっきりと分かるほどに。
「グレーシルクハット」
それはつまり……
カスター公爵
フッ。アレクサンドリナ、あの子は「ヴィクトリア」に選ばれたその人なのかもしれないわね。
デルフィーン
大公爵たちの艦隊が陣形を組み直しています。
彼らは……
……追撃の手を緩めた?
インドラ
道理で砲声がさっきほど鳴ってねぇわけだ! あいつらは今度は何考えてやがる? サルカズはやっとほんの少し引いたところだ! 一気に追撃する絶好のチャンスだろうが!
ダグザ
あれはゴドズィンの護衛艦だ。
彼らは今……カスターの旗艦の残骸に近づいている。どうやらこの隙に一息つきたいようだな。
モーガン
……ほんとにただ一息つくだけなのかな?
どうせ船の修理が間に合わずに、ナハツェーラーが甲板に押し寄せてきて呑み込まれるのが怖いだけでしょ。
シージ
……
我々はもうどれだけの間、ロンディニウムの城壁を見ていない?
あれには裂け目ができたか? 源石結晶で満たされたか? あるいは鮮血が染み込み、枯れ枝で覆われ、ひいては同胞の死体がはめ込まれているか?
ノーポート区から出た時、あれこそ最悪の状況だと、我々の多くが思っただろう。
その後、我々は血にまみれた甲板を目にして、源石でできた荒波を抜けた。
戦争が我々のヴィクトリアを少しずつ変わり果てた姿へと変えていくのを、この目で見てきた。
あの壁の中の都市がどんな姿か想像できると胸を張って言える奴はまだいるか?
デルフィーン
……大公爵のスパイは我々より詳しく知っているはずです。
彼らの行動からするに、カスターたちはロンディニウムを放棄しようとしている可能性が高いです。
サルカズに破壊された移動都市が、巨額の費用をかけて作られた艦隊よりも価値があるとは限りませんから。
ホルン
それに……ザ・シャードはまだ倒れてはいません。サルカズがまだどんな手を残しているか、戦場となってしまう次の都市があるのかどうかは誰にも分かりません。
今後はより多くの貴族が軍隊を領地に戻す可能性があります。
インドラ
クソが。マジであいつらがやりそうなことだぜ!
激しくやり合っておいて、ロンディニウムの生死なんて誰も気にしちゃいねぇってのかよ!
シージ
そうだ。貴様の言う通り、あいつらは元々そういう奴らだ。だから何も驚くことはない。
我々に関しては――自分たちが何をすべきか、とうに腹を決めているだろう?
シージが群衆の中に入る。
ぱっと見ただけでは、誰が模範軍で、誰がこの戦闘の中模範軍が助けた者か分からなかった。
皆が疲れ果てていたが、いまだその多くが顔を上げている。
多くを言う必要はないことをシージは理解していた。
なぜなら、一度開いた目は、簡単には閉じられないからだ。
人々がシージを見つめている。
シージはロンディニウムへと、模範軍の都市へと、同胞へと目を向ける。
彼女は握り締めたハンマーを掲げた。
シージ
模範軍――
進め!
恐れるサルカズ兵士
もういい……もういいだろ! お願いだから軍令を撤回してくれ!
ザ・シャードはもう止まったんだ、どうやって戦えってんだ?
今突っ込んだって高速軍艦にミンチにされるだけじゃねぇかよ!?
サルカズ下級士官
黙れ黙れ! *サルカズスラング*な吠えはやめろ!
我々は今戦争に参加していて、戦場はここなんだぞ! ここに隠れたところで、いずれフェリーンどもに首を斬り落とされるだけだ!
刀を拾え! 死ぬなら少しは意地を見せろ!
我々にもう行き場はないんだ!
なんだ……まだ王庭軍のチャンネルを使える奴がいるぞ。誰からの通信だ?
もしもーし、聞こえるかしら?
あたしの名はウィシャデル。サルカズで唯一の魔王テレジア殿下が直々に付けてくださった名前よ。
あたしは今、軍事委員会にまだ従ってる全てのサルカズに話しているわ。
あんたたちがロンディニウムに来た理由が、テレシスのふざけた話なのか、それともどっかの王庭の老いぼれの戯言なのかはどうだっていい。
一つ嬉しいお知らせがあるわ。この戦争はすでに終わった、あんたたちの負けよ。
でも殿下が言ってたわ、サルカズをみんな故郷に帰してやりたいって。
だから、生き残りたい奴は、軍事委員会の命令なんてほっぽって、おとなしくこの通信の指揮に従いなさい。
おっと、一つ言い忘れてたわ。
こちらはバベルよ。
フェイスト
早く、ついてこい!
この道は安全だ、ひとまずサルカズはいない!
……通信?
俺たち模範軍のチャンネルだ……クロージャさん!
クロージャ
聞こえてる! 音をもっと大きくして……もうちょい……
これで全員聞こえるはず。
フェイスト
……
マジかよ……嘘じゃないんだよな?
シージさんがやったんだ! あの人が、俺たちの仲間を連れて……
ロックロック
……帰る道を切り拓いてくれた。
Misery
発信地点から最も近い小隊がすでにそこへ向かっている。フェンの小隊もだ。彼女は移動が一番速いので、前方の道を確保してくれるだろう。
クロージャ
うん。
あとは、安全な合流地点さえ見つかれば……
フェイスト
それについては大丈夫だ。
クロージャさん、俺たちはもう城壁に十分近づいてるんだ。
この場所の整備通路は……全部俺の頭ん中に入ってるぜ。
ロンディニウムから撤退した自救軍メンバーの全員が、覚えてるはずだ。
サルカズには絶対見つけられない、古い整備通路がいくつかあるんだ。
……俺たちは家に帰れる。
ヴィクトリア傭兵
……ずっと気にされていた通信チャンネルに新たな動きがありました。
この速度からして、あの者たちは都市内に向けて一直線と言っていいでしょう。
「ミルスカー」
サルカズに見つかっていない整備通路はわずかよ。
彼らはきっとハイベリー区から最も近い通路を選ぶはず。
ヴィクトリア傭兵
K13ですか?
「ミルスカー」
K13では思わぬ事態が起きたことがある。フェイストの性格ならもうそんな危険を冒しはしないでしょう。
K15でしょうね。もし彼らがそこへ向かわないようなら、十一号軍事工場に関する情報を流して、どうにか引き寄せましょう。
ヴィクトリア傭兵
いつも通りにですか?
「ミルスカー」
ええ。その通路をできるだけきれいにしておいて。
ヴィクトリア傭兵
……それと手を下す時は彼らに見られないようにする、ですね?
あんな何の変哲もない工員たちと「模範軍」に対して、サルカズに対処するより慎重にかかるんですね。
実行に移す前に、万一に備えて、あなたが彼らを友人と見なしているのか、それとも敵と見なしているのか教えていただけませんか?
「ミルスカー」
……友人にせよ、敵にせよ、彼らの知る人物はもういないわ。
あの恥知らずな裏切り者は、諸王の眠る地で死んだ。それに……自らの手で捨てた栄誉を拾い上げる資格なんてもう二度とない。
彼女はかすかに、再びあの馴染みのある音を耳にした。
何度も何度も、彼女の鼓膜と心臓を刺激する。
しかし空に白い蒸気の痕跡はない。
それはただ活性源石が急速に気化する音にすぎなかったのだろう。
「ミルスカー」
あの甲冑は……また飛んで行ってしまったの?
ヴィクトリア傭兵
特に情報はありません。
サルカズにやられたか、あるいは戦場の源石に埋もれたかもしれません。
今回あれを「諸王の息」へと導き模範軍を助けたことで、あなたの目標もひとまずは達成されました。あれは本当に制御が難しいですが、それでも回収しますか?
「ミルスカー」
……今はまだその危険を冒さなくていいわ。
ヴィクトリア傭兵
分かりました、いずれまた自分から現れるかもしれないですしね。狂った亡霊ですから、次に何をしようと考えているかなんて誰にも分かりません。
「ミルスカー」
あるいは……
あるいは、次会った時、彼も少しくらい……自分だけのものを取り戻すことができているかもね。
イラつく商人
ゴホゴホッ――ダメだ、ありえん! 今のロンディニウムで、高濃度源石環境に対応できる防護服がどれだけ貴重か分かっているだろう!
緊張する市民
ですが、あなたが提示した値段はあまりに――
我々のコミュニティは人が多く、みんなこれが必要なんです。もう少し割引を……
イラつく商人
お前はさっきから妻と子の体に石が生え、耐えられないほど苦しんでいるとずっと言っているがな――
実を言うと私も同じだ。毎晩*ヴィクトリアスラング*痛くて眠れやしない!
この都市の誰もが今は同じだと思うがね。皆の体に、このクソみたいな結晶がトチ狂ったように生えてくる!
ましてや、今はあの魔族どもですら怯えているんだ。
だから、よく聞くがいい。私が提示する値段はこれ以上ないほどに適正だ。お前たちは自分たちの健康を心配しているが、私も自分の未来のために計画を立てなければならないんだ。
クルビアの私立鉱石病療養所も安くはない。あそこの院長とは知り合いでな、抜け目ない奴だ。高い費用を吹っ掛けてこなければいいのだが。
そのうえ、使用人の給料や、料理人の給料も払わないといけない……
何事だ!
商会警備員
スチュワートさん、奴らが――
イラつく商人
サルカズが来たか? 早く、さっさと移動するぞ。扉の前にいまだ居座る貧乏人どもを突き出して時間を稼げ! 魔族どもは誰の命に価値があるかなど分かっちゃいないからな!
商会警備員
ち、違います! サルカズではありません!
クソ、あいつら倉庫の塀を押し倒して、今は全員で商品を奪っています、止められません!
イラつく商人
何のために金を払ってお前たちを雇っているんだ!? 電気柵や重弩はどうした? 商品を守ることさえできればいいんだ、サルカズが来ることを恐れるな!
商会警備員
で、ですが奴らは炎を――
イラつく商人
炎?
タルラ
……
ナイン
ごきげんよう、スチュワートさん。
イラつく商人
……お前たち知っているぞ――
「レユニオン」だな! ここ数日街でずっとお前たちの噂を耳にする。
いいか、レユニオン。私たちの間にどんな誤解が生じたのかは知らんが、私も感染者だぞ!
みんな身内だろう、私たちは協力できる!
値段を出せ、お前たちを用心棒に雇うにはいくらいる?
ナイン
レユニオンは雇用を受け入れない。
イラつく商人
では――うぅ、売上の何割かでどうだ? 受け取りにくいなら寄付という形でもいいぞ?
感染者としてお前たちに寄付してやろう! 今都市内の感染者はこれを必要としているからな。お前たちは感染者のために戦っているのだろう!
ナイン
フッ、「寄付」か。さっきとは随分と違うツラをしているな。
イラつく商人
分かったぞ、そういうことか。もっと早くに気づくべきだった。
ハッ! それもそうか、みんな所詮この機に乗じて金儲けがしたいんだ――私を食い物にしようって魂胆だろ!
ナイン
本当にそう思っているのか? いいだろう、食い物にしているのは誰か教えてやる。
ホール・スチュワート。お前の工場では源石加工業務のため、防護装備の購入費用として毎年議会に大量の補助金を申請しているな。
だがお前の工場の工員は倉庫内のこうした山のような防護服を見たことすらない。郊外の感染者集落の住民で、お前の工場から追い出された者はどれだけいるのだろうな?
一方クルビアの開拓企業とは、盛んに商売の話をしていたそうじゃないか。戦争が勃発する前にこれらの装備を輸送できず、多大な損失を被ったのだろう?
だがお前はいまだ自分がツイていると思っているはずだ。ロンディニウムはもう終わりだが、持て余していた防護服がむしろ役に立ったんだからな。
イラつく商人
お前たち……何がしたいんだ!? お前たちは感染者を解放する組織じゃないのか? 見てみろ、私の体に生えるこの石を――
ナイン
病は感染者の苦難の根源ではない。不公平こそがそうだ。
お前のツキも終わりだ。
レユニオンはすでに来た。
緊張する市民
あなたって、タルラさんですよね? あなたのことを聞いたことあります、あなたのおかげで――
タルラ
……これは私のすべきことだ。
キャサリン
この防護服は本当に量が多いよ。みんなに分けないといけないね……
たとえ感染が避けられなくとも、この装備があれば、すでに発症した病状の進行をいくらか遅らせることができる。少なくとも高濃度の源石環境にさらされ続け、突然崩壊することはなくなるよ。
ロンディニウム工員A
問題は、今はほとんどの人が家に隠れることを選んでいるってことです。すでにヤバい状態になっていたとしても、彼らは誰に助けを求めればいいか分からない、そうですよね。
なら、俺たちに任せてください。
キャサリン
トミー、この任務がどれだけ危険かは分かってるだろう。
ロンディニウム工員A
もちろんです。でもザ・シャードの頂上にあったあの奇妙なものはなくなって、空の色も少し薄くなりました。
きっとサルカズの作戦に何かトラブルがあったんでしょう。仲間の中に、大量のサルカズが都市内に向けて撤退してるって言ってる奴がいました。
あの空中要塞が落ちた場所も、今じゃサルカズに厳重に守られてます。あいつらの今の警戒の強さだと、外に出るのは死にに行くようなものですね。
キャサリン
そこまで分かってて、あんたたちそれでも――
ロンディニウム工員A
でも俺たちはとっくにくたばるべきだったんだ。そうでしょう?
キャサリン
……
……分かったよ。
ロンディニウム工員A
俺の兄貴がカイシャー郡に住んでます、会ったことありますよね。もし戻らなかったら、俺のレンチを渡しといてください。もし……もしよければ、兄貴に言っといてもらえますか、俺は……
いや、やっぱよしときます、何も言わなくていいです。
それと、キャサリンさん。あなたやフェイスト、それから自救軍とロドスのみんなに対する俺の態度は、今まで変わったことはありません。
キャサリン
そんなこと言ってもちっとも意味がないよ、起きたことは変わらないんだ。
だけどあんたは、まだ起きてないことに影響を与えて変えることができるんだよ、小僧。
ロンディニウム工員A
ハハッ!
そりゃ……何よりっすね。
ナイン
なかなかに勇敢ですね。
キャサリン
あんた、あの子たちのことをずっと見張っていただろう。
ナイン
彼らはかつての裏切り者です。そしてレユニオンは裏切り者のせいで崩壊しかけました。
キャサリン
あの子らは、そこまでひどい影響なんざ及ぼしちゃいないよ。人生で一度もバカをやらない奴なんていないだろ?
ナイン
我々には我々の信条があります。
キャサリン
……
ナイン
……本当はほかの場所で役に立ってもらおうと思ったのですが、どうせあなたも彼らについていくんでしょう?
あなたたちのデカブツは使わなくてもいいです。戦闘は避けてパーシヴァルにいくつか装備を申請して、自分の身をしっかりと守ってください。
キャサリン
どうしてそれを――
いや、いいさ。
感謝する。
ナイン
順調だな、多くの者がお前とお前の炎を認識している、タルラ。
タルラ
私はもう枷を戻している。
彼らがその炎を希望と見なしてくれることを願おう。
ナイン
今、感染者で溢れた都市が本当に出現した。
お前は、この都市でかつての理想の影を見つけることができるか?
タルラ
至る所に瓦礫しかない。
……感染者間においても我々の立場の差はこれほどまでに大きい。我々は同じ病に苛まれているが、これまでに同じ苦しみを共有したことはない。
だからこそレユニオンが来る必要がある。
感染者が不公平により生まれたのであれば、我々は……あらゆる不公平と対峙する側に立つべきだ。
チェン
……
ロンディニウム住民
あんた、ようやく戻って来たか! 怪我はないか? サルカズに気づかれてやいないかい?
チェン
問題ない。休ませてもらって感謝する、食べ物を少し持って帰ってきた。
今日の病状はどうだ?
ロンディニウム住民
石がまた少し増えた。でも大丈夫さ、痛くないからね。私みたいな老いぼれは、元々大して生きられやしないんだ。
けどあんたがいない時、人が来たんだよ。いい人たちでね、検査をしてくれたんだ。あんたも診てもらおうと思って、しばらくしたらまた来てくれって言っておいた――
チェン
検査をしてくれた? 医者か?
(確かにロドスも都市に入っているはずだが、彼らとはずっと連絡を取れていない。もしロドスなら……)
ロンディニウム住民
医者? 分からないねぇ。けど、もしも助けが必要なら、炎のある場所に行くように言われたよ。
チェン
炎のある場所?
ロンディニウム住民
あぁ、また来てくれたかい!
この子には随分と助けられててね、彼女も感染者なんだ。あんたたちと一緒に行かせてやってくれないかい? それと、この子の病状も診てほしいんだ。
チェン
――!!
ナイン
……
チェン
お前たちだったか。
ナイン
ああ。
久しぶりだな、チェン。
はるか昔、この地の巨像を彫った職人たちは、間違いなく想像もしていなかっただろう。本来ヴィクトリアと共に永遠に朽ちるはずのない陵墓の護衛が、サルカズの変事により轟然と倒れようとは。
巨獣の骨骸が奥深い地下宮殿に現れ、幸いにも生き延びた者たちを乗せてここに降り立った。
「イ、イネスさん、ここは……どこっすか?」
ヘドリー
静かすぎる、ここは戦場じゃないのか……イネス……イネス!?
パプリカ
イネスさん! イネスさん! ヘドリーさんが目覚めたっすよ!
ヘドリー
パプリカ……? 俺たちはどこにいるんだ? イネスは? Wはどこへ行った? 今の戦場の環境はどうなっている? ゴホゴホッ……「ライフボーン」はまさか奴らに奪い返されたのか?
パプリカ
ええと……うちらはでっかい石がたくさんある地下にいるっぽいす……
うぅ……イネスさんは……Wさんはほかの人と一緒に……
ちょ、ちょい待ってって、一度にそんなたくさん質問されても――
イネス
どうやら思ったよりも回復が早かったわね。
奴ならもっと容赦なくやると思っていたわ。
ヘドリー
……奴はどうなった?
イネス
さあね。今頃アスカロンに殺されていたりして。
ヘドリー
……
イネス
フンッ、私の前でそんな表情はよしなさい。
本当にあいつが死んだなら、それは私たちにとってはいいことよ。
パプリカ
でもイネスさん――
イネス
パプリカ、今はそんな話をしている場合じゃないわ。
パプリカ
そっすか……
イネス
現状だけど、私たちはひとまず「ライフボーン」を諸王の眠る地に止めた。Wはドクターたちについていって飛空船の阻止に向かったけど、状況は不明よ。
ヘドリー
諸王の眠る地? 本当か――
イネス
蒸気騎士の装備は知っているわ。
それに、ここにはサルカズの遺体も多くある。私の推測が正しければ……
ヘドリー
ここは、当時蒸気騎士を一網打尽にした場所だ。
ほかに手がかりはあるか?
イネス
あるものを見つけたわ。
これを見て。
パプリカ
それは……服?
イネス
比較的状態の良かったサルカズの遺体から見つけたわ。
あなたなら、見覚えがあるかもしれないわね。
パプリカ
裏地に字が縫ってあるっす!
ヘドリー
……「ジュリー」?
パプリカ
「ジュリー」? ヘドリーさん、知り合いっすか?
ヘドリーは首を横に振った。
イネス
サルカズで名前を持つ者はそもそもそう多くはない。ましてや、あの殲滅に参加するなんて、ただ者であるはずがないわ。
彼女の名前はここに残され、本来なら永遠に人に知られることはなかった。
ヘドリー
だが偶然にも俺たちが来た。
彼女と他の者が行ったことは、俺たちの記憶に残ることだろう。
パプリカ
でも聞く限り……嬉しいことじゃなさそうっすね。
ヘドリー
考えてみろ。あまりに多くのサルカズがこの異郷の地に骨を埋めたが、最終的に記憶されるのはどれだけいる?
イネス
これからどうする? あなたの傷――
はっきりしない通信音
ウィシャデル……戦争は……終わ――生き残り……
……ジジ……こちらはバベルよ。
イネス
ウィシャ……デル? 誰?
この声――
ヘドリー
Wだ……
イネス
フンッ、あいつ今度は何する気?
ヘドリー
……外の戦場の情報はほかにあるか?
パプリカ
(緊張気味に首を横に振る)
イネス
回復の時間を取りなさい。
ヘドリー
まだ死にはしない。今は急いでドクターとWに連絡を取るのが優先だ。
もしWが通信で言っていたことが全て事実なら……今、あいつには俺たちが必要だ。
どうやらこの戦争の行方は、すでに俺の予想を完全に超えているようだ。
摂政王、テレジア殿下、二人は一体何をしたというのか……
ケルシー
我々は内なる宇宙であれだけ多くを経験したが、源石の特殊性により実際に流れていた時間は極めて短いものだ。
この異変は、軍事委員会にとっても同様に突然の出来事だ。
その通りだ。通信は回復しつつあり、公爵連合軍の進軍速度もさらに増すだろう。連合軍の包囲に対抗するいかなるチャンスも軍事委員会にはないと思う。
彼女が都市内にできる限り残してくれた連絡窓口を頼りに、我々が積極的に攻撃を仕掛ける方が、より大きな成果を上げるかもしれない。
……彼女はよくやってくれた。
ハイディ
あなたたちが何を経験してきたのかをケルシーからこっそり教えてもらいたいのは山々ですが、今は確かにその時ではありませんね。
正直に言うと、私にできることも、あなたたちを混乱の中から連れ出すことくらいです。
ロンディニウム内の多くの人が飛空船の墜落を目の当たりにし、一体誰がやったのかと皆が推測しています。
ドクター、あなたには想像しがたいかもしれませんね、長い闇夜の中に突然希望が現れた喜びというのを……
ケルシー
私は「有利」という言葉で表現はしない。せいぜいより多くの可能性といったところだろう。
ハイディ、クロージャと連絡が取れたか?
ハイディ
通信は復旧中です。都市内は深刻な影響を受けていますから、私たちも急いでいるところです。
Wさん……いえ、彼女からはウィシャデルと呼ぶようしつこく言われています……
彼女は自分の部下から信号を受け取ったと言って、急いで確認に向かわれてしまいました。私は……それを止めることができませんでした。
ケルシー
構わない。何をすべきか、彼女はよく分かっている。
それと、君の体を調べてみるんだ。彼女はきっと我々に連絡方法を残している。
ハイディ
え……?
本当にありました! このビーコン……いつから?
前方のエリアはまだ片づいていません。ですがあの二人が安全を確認できたら、すぐにでも次の安全地点へと撤退できます。
ドクター、アーミヤさんは……
分かりました。私も都市内にまだいる仲間にできる限り多く連絡を取ってみます。私たちには彼らの助けが必要ですから。
先手を打つのですか?
分かりました、そのように処理します。都市内で再構築された連絡ネットワークについて、今最も詳しいのは私ですから。
ケルシー
気づいていないかもしれないが、内なる宇宙から出てきて以降、君は積極的になった、ドクター。
あの最初の源石が原因か?
テレジアに会い、私から打ち明けることのできないいくつかの真実を知って以降、君は少し焦っている。
私の意見は保留しておこう。過去に何があったのか、その真相の解明に焦ってはならない。今より重要なのは冷静さを保ち、判断を下すことだ。
それについての真実は、テレジアだけが知っている。
当時のあの件について、私はもう意見を述べない。しかしそれはあの件に対する私の怒りが消滅するというわけではない。
だが……ドクター、君はすでに私に、私たちに自身を証明した。
君が私たちと共に今この場まで歩んだことは、テレジアの選択が間違っていなかったと証明するに足る。
したがって、もう過去の自分に囚われる必要はない。ましてや、君はすでに当時の一切について何も知らないんだ。
……
もしそれが熟慮の末の考えであるなら、私は尊重しよう。
だが今の君では、それを成すには程遠い。
我々の未来の道のりはまだとても長い……いや、我々に残された時間はすでにいくらもないのかもしれない。
ドクター、未来は我々の全ての準備が整った後に、行儀よく時間通りに来るわけではない。
しかし私は無条件で君と共に、そしてロドスと共に歩んでいく。
……今の君は、本当にまだ平然とその言葉を口にできるのか?
君はためらい、疑念を抱いている。
それは、そもそも君の本心ではない。無意味な臆測で今の決心をかき乱すな。
我々が何者であるかは、終点にたどり着くまでにどれだけ徘徊しようと、我々が言ったことではなく、成したことによって決まる。
未来が答えを出してくれるだろう、ドクター。
今、私は喜んでこの先も君と共に歩む。
我々は共に見届けることになるだろう。
しかし今、何より要となるのは戦局全体を変え得るあれだ。
サルカズが今いかなる状況に陥ろうと、テレジアはそれを自身の最も信頼する人物にしか渡さない。
テレシスに対するテレジアの信頼は決して変わらない。二人の間でそれが本当に食い違ったことはない。
現在の結果は、依然彼らの計画のうちだ。
やらねばならないことは、まだ終わっていない。
この大地を容易に変えられるその兵器を、テレシスが今後いかに利用するかはまだ不明だ。
それが穏やかなやり方ではないと考える理由が、我々にはある。
……
笑っていない。これからどう行動すべきかの考えはあるか?
「事ここに至って、サルカズに選択できる可能性はただ一つとなった、テレジア。」
「そうね……私たちの民はすでに選択をしたわ。」
「私は約束を果たして、あなたの力になるわ。」
「どうしてため息をつくの。もし勝つのが私であれば、あなたはためらうことなく私のそばに立ってくれるでしょう。違う?」
「……テレシス。」
テレシスにはもう彼女の声が聞こえない。
彼女は遠くへ去った。しかし未来への答えは残されている。
最初の源石はザ・シャードの頂上から落ち、隔たりを越えて、聖王会西部大広間地下の玉座の間に降り立った……
答えはすでに彼の手に握られている。
テレシス
そなたは傲慢な創造主の手から、サルカズのために自由を見つける鍵を奪取した。
そなたが私に約束したように。
しかし私は……そなたを完全に失うことにもなった。
テレジア、そなたはすでに己の約束を果たしたのだ。私がどうしてそなたに後れを取れよう?
私はそなたが歩いていた道を継ごう――
我らの運命を支配できると思っている存在の手から、我ら自身のものを取り返すとしよう。
傲慢なる者の罪は、私が裁く。
この大地は、我々を畏敬すべきなのだ――
この戦争は、彼自身にしてみれば、すでに終わった。未来については、自ずと他の者が見届ける。
彼はその長い歳月の間ほこりを被ったヴィクトリアの古い玉座を無視し、未知なる暗闇に足を踏み入れた。
テレジアはすでに彼のためにその真理へと通ずる「扉」を開いた。
彼は期待する。この「扉」の向こうで、誰が彼の訪れを迎えてくれるのか?
「一つ質問がある。巨人、神、創造主、サルカズの運命の支配者を名乗る前時代の悪霊は、本当に一人きりなのだろうか?」
「……Dr.{@nickname}。」